番外編・悪魔なあの子
※下ネタ的なもの多め
お気を付けください。
俺の名前はギルヴェール。姓? 位の低い魔族に、そんなものはない。まぁ……しいていうなら、“インキュバス”かな。
夢魔は成人したら、サキュバスかインキュバス――つまり女か男かを選ぶ事が出来るのだが、それまではぶっちゃけ同性類的なもん。
まぁ、どっちかを決めたからと言って、もう二度と変身できないわけじゃない。建て前上はどっちにする? みたいな感じ。
……俺はそれで、“インキュバス”――男を選んだ。理由は簡単。女が好きだから。
女を見てた方が興奮するし、なんたって柔らかくて触り心地がいいし……そんな理由で決めた俺なわけだけど。
……今、ひじょ~に困っている事がある。それは男として生きると決めた俺にとっては、かなり深刻な内容。男止めますの勢いでいかないと、俺は“インキュバス”どころか“サキュバス”にもなれない……そこまで深刻な状態なのである。
その、困っている内容とは。
……何を隠そう、俺の自慢の“イチモツ”――息子ちゃんが、スタンドアップしてくれないというのだ!
これも全部……。
「あんの悪魔めー!」
悪魔――のようでただの人間な、一人の女。俺はそいつのせいで……このような残念インキュバスになってしまった。
あぁ神様……いや信じてないけど、とにかく誰か様。どうにかしてこの自慢のビックマグナムを、機動修正してください!
「――あぁもう、なんなんだよぉあの女~!」
……しかし、そんな都合のいい誰か様が現れるはずもなく。俺は最近、こうして部屋でうじうじ悩みまくってるわけなのだが。あぁ、ホントに誰か答えを教えてくれないか?
何故、あの女を見ると興奮するのだろう。
何故、あの女を見ると抱き締めたくなるのだろう。
何故、あの女を見ると切なくなるのだろう。
何故、俺は今あの女の事ばかり考えているのだろう――?
理解不能な自分の気持ちに、今、俺は頭を悩ませている。あの女は何者だ? 実は凄腕の魔術師とかで、奴は俺に呪いを掛けたのだろうか。それとも俺がイカれただけか。
……どちらにしても最悪で、考えられない事だった。あの女は魔力の欠片もないし、なにより俺は正常だ。パニックになりすぎて、逆に今は至極冷静になっている。
そう――イカれたわけではないのだ。頭も、大事な大事な……イチモツも。何故わかるのかって? そんなの簡単だ。
――だって、あの女の淫らな光景を思い浮かべるだけで……簡単に元気になっちゃってくれるんだから、な。
あぁ、想像をしだすと止まらない――もしあの女を好きに出来たら、俺はもうすべてを投げ出すことさえ厭わなそうだ。
好きに出来たら、何をしよう? 縛り付ける? 舐め回す? それとも無理矢理やって泣かす? とにかくめちゃめちゃにして壊したい――でもその反面、大きな優しさの塊であの女を包み込み……蕩けさせてみたいとも思う。
壊れやすそうなその身体をゆっくり撫で上げ、柔らかなソレに顔を埋め、じっくりと時間をかけて焦らしていく。そしてしばらくその綺麗な瞳を見つめて、頬を撫で、その桃色に色付くぷるっとした唇を少し乱暴に奪い……舌を入れ混ざりあう。ああ、なんて興奮するんだ。
あの女は、どんな顔をして俺を求めるだろう? 恥ずかしがりながら柔順に従うだろうか、反抗的な視線を向けて涙を浮かべるのだろうか、淫らになって貪欲に求めるのだろうか――どれをとっても素晴らしい。
熱くなる心を押さえて、俺はその幸せな一時を味わった。優しくしたい、でも泣かせてみたい――そんな矛盾した感情が、俺の心を掻き乱す。
あの女、マジ悪魔。この俺をこんな風にするだなんて……もしや本当に魔術師なのでは? それとも、実はサキュバスとか。
いや、いや、落ち着け俺。それはただの願望だ。……願望? 願望なのか? なら俺は……それを、望んでいるのか。
……何故だろう? わからないことだらけで、俺の頭は完全ショート寸前だ。もう、わかんねーよ……俺ってばどうしちゃったんだ。
それもこれも……やっぱりあの女のせいだ!!
俺はその恨みを晴らすため、あの女の元へいく準備をした。何回も鏡を伺っては変なところがないかを探り、服のほこりを見つけては丁寧につまみ、見た目を厳重に確かめる。
……ようし、これであの女も懲りるだろう。って、何に懲りるんだ。まぁ、いいか、会えれば。
俺は不安と期待を胸に秘めながら――魔界の家を飛び出した。もちろん向かうは、あの女のいる人間界……!
この時間なら花屋でバイトをしているはずだ――事前調査済みである。下級だからってナメるな、俺は泣く子も惚れるインキュバス様だぜ!!
そうして俺は、人間界へいる“あの女”の元へ……ワクワクドキドキしながら向かうのだった。
――人間界。
俺はとある路地裏で、心を落ち着かせていた。説明しがたいのだが……あの女の店の近くまできた途端、何故だか動悸が治まらなくなったのだ。しかも息切れまでしてやがる。
さぞかし今の俺は、ハタからみたら「ハァハァ」と気色の悪い変態に見えているのだろう。……ま、このインキュバス様の甘いマスクと色気で、お得作用がでてますけどね。その証拠に通りすぎる女達の目が、うっとりと蕩けていた。
「っと……いかんいかん、早くあの女に会いに行かねば……」
俺は、早まる鼓動を無理矢理押さえ付けた。
……あぁ、緊張する。なんでこんなに緊張するんだ? しかもやけに苦しいし。でも――それがいやに、心地いいというか。俺、マゾヒストだったのかな? むしろ仲間にはサド公爵と呼ばれていたのだが。
くそう、こんなサドとして純真だった俺をこうも惑わし、狂わせるとは――! あの悪魔め! 今に見てろっ!!
俺は路地裏から飛び出して、余裕を纏ったかのように優雅に歩き出す。向かうのは、前方に見える敵地――花屋だ。遠目からでもあの女が働いているのが見えて、俺は小さく「うっ」と声を漏らした。
……か、可愛い……!
あたたかで、麗しくも妖艶な顔、はち切れんばかりの豊満な胸、ゆるりと流れるような滑らかな腰、ふっくら弾力のありそうな尻――うわああっ、今はダメよマイポーク!! こんなとこで元気になっちゃあかんですぅぅううっ!
「――あら? まぁ、ギルヴェールさん。また来てくださったんですね」
店の前でわたわたする俺に気付いた、あの女――キュディ・ホンベルト。彼女はふわりとほほ笑みながら、言った。
「ふふ、社会の窓が全開してますよ」
「わぁぁああい!」
俺のばかーん!
鏡を見ていったいナニしてたんだよーう!! って、ほこり取ってたりしましたね。くそうっ!
俺は泣きたくなる気持ちを押さえて、なんとか気丈に振る舞うように心掛ける。……ここで負けてはならない、いざ、勝負の時!
「キュディ」
「はい、なんですか?」
「ご趣味はなんですか」
違ぁぁああう!
俺、気付け。この女に惑わされるな! とにかく聞かねばならないのは、こいつの正体だ。いったい俺にどんな呪いをかけているのか……確かめろ!!
俺は自分を叱咤しながら、「趣味ですかぁ。菜園ですかね」と答えるキュディの言葉をしっかりインプットしながら、再度問い掛ける。
「ねえ、今日終わったら時間あ」
「ふふ、ありません」
「スピード回答! 最後まで聞いて!?」
「あ、このお花どうですか?」
「そ、それよりさ、今日仕事何時に終わるのかな」
「年中無休です」
「すごいね! でも嘘だよね!」
「ふふ、はい」
「笑顔でとんでもない大嘘だな!!」
くっそー!
見た目だけの超絶ドS悪魔めぇ!! ……でも、負けるわけにはいかないんだ。この正体不明の感情に名を付けるまで、俺は引き下がるわけには――。
少し冷静になろうと、俺は深呼吸を繰り返す。熱くなるな、冷静に、優位に立て。今まで俺は数々の女をオトしてきた、百戦錬磨の男だろう?
こんなたかが人間の女一人惚れさせるだなんて、わけな………………い…………。
「――? ギルヴェールさん、どうかしましたか? あ、お花の匂いがキツくて気分が悪くなりました?」
心配そうに気遣う、キュディ。俺はその麗しい顔を硬直したまま見つめ――この感情に、たしかな名前を見つけてしまっていた。
何故、今気付いたんだ。アホすぎる、マジ馬鹿。いくらなんでもここまで来て――やっと気付くなんて。俺、やっぱり……イカれていたのかも。
そう……“恋”に浮かされて、イカれていたんだ。
――急激に恥ずかしくなった俺は、顔をカァッと真っ赤にさせる。今、絶対リンゴみたいになってるよ。なんて恥ずかしい奴なんだ……俺は。
キュディは……そんな俺を少し不思議そうにしつつ、その柔らかな手のひらを額にあて、言った。
「ギルヴェールさん、大丈夫ですか? 少しおやすみになられたほうが――」
「…………しました」
「えっ?」
「恋……しました。貴女に」
――夢魔、ギルヴェール。俺は今まで生きて来た中で、最高最大の大恋愛をしている。
それは……悪魔のようで人間な、一人の女の子。
「――あら、奇遇ですね。私もギルヴェールさんに、恋をしちゃったみたいなんです」
これから先、どんな人生が待ってるのかなんて……俺にはまったくわからない。それでも俺は多分、後悔だけはしないんだと思う。キュディと出会えたこと――いつしかキュディと結婚できたら、子供を作って、その子供をいっぱい甘やかしたりして。
……そんな父親に、いつか、なりたいなぁ。
悪魔なあの子――番外編。
完。
ギルヴェールとキュディの恋愛の始まりでした。
短くてごめんなさいm(_ _)m