十二
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ドンドン更新していきますので、読みにくいとは思いますがよろしくお願いいたします!
「……魔族がモンスターを生み出した。前代未聞どころか、新境地すぎる」
あたしはそう呟いて、頭を悩ませる。
魔族の影響を強く受けたモンスターは、多分それなりに知能も受け継いだのだろう。魔法も扱えるわけだ。……どうしようか。これはかなり厄介だ。
まったくギルヴェールさん――人間の夢魔の初子供誕生だけでなく、魔族の初モンスター誕生までやってしまうとは。アンタ、ホント伝説として語り継がれるよ! この大バカ!
パニックになるあたしの横で、ロックハートさんもだいたい事態を飲み込めたのだろう。困惑顔のまま、あたしに疑問を投げ掛けてきた。
「お姫様、そんなに問題なのかな? たしかにモンスターが魔法を扱えるのは凄いけど」
「……問題も問題、大問題だよ。っていうか問題外」
あたしは言った。
人間が生み出したモンスターは、たしかに魔法が扱えない――かわりに強大な属性の力を秘めているせいで、ものによっては……まぁ火を吹いたりとするわけで。知能がないから歯向かえば大きな被害が出るし、気性が荒いから手が付けられない……たしかにどちらにしても厄介だった。
でも、魔族が生み出してしまった場合。
……モンスターは少量の知識を得てしまうだろうし、なにより“考える力”があるわけだから、それはズル賢さとかも含まれるわけで。普通のモンスターを相手にしてる時と同じように戦ったら、確実に大目玉を食らう。
人間のように魔法を扱うための媒体や呪文は必要ないし、なにより身体的能力も大幅にアップ。つまりそれに余計な知識があるのだ――怪我無しで望むのは、無謀すぎる。
しかも、今は“魔族”の力だけじゃない。人間の子供達の純粋な悪意と、人間の大人の奥深い悪意――今はそれも混ざり合っている。あれを放っておいたら……いずれ、一つの町を容易く滅ぼしてしまうだろう。
それを掻い摘まんで説明したあと、ようやく本当に今の深刻さを理解したのだろう――ロックハートは青ざめながら、「勇者達を待った方が」と言い出した。
……確かに、来るのを待ちたい。でも。
「――その間に、間違いなく子供達は」
死んでる。
そう呟いた。
「……待つのも無理、勝つのも無理。いったいどうすれば……」
頭を悩ませるロックハートは、腰にある刀を強く握り締めていた。
あたしはそれを見て、一言。
「勝つなんて誰が言ったの?」
「……え? しかし……」
「ボーッと待つんじゃなくて、戦いながら待ってればいいでしょ。……勇者達が来るまで、持てばいい」
……もちろん、それも簡単じゃないのはわかっている。それでもやらなくては、皆の命が危ないんだ。
同族の尻拭いは、魔王の娘が片付ける――こうやったら、一人で勝つように臨んでやるさ。
そう言って苦笑するあたしを見てか、ロックハートは……関心したようにほほ笑んだ。
「……お姫様は、強いね」
「そう? まぁ……責任感はたしかに強いとは思うけど」
「いや、責任感だけじゃない。心も強いよ。……私は戦いとなると、どうもね。だからいつも後方支援の護衛をしてるんだ」
そう呟くロックハートは、たしかに何かに恐れているように見えた。
心が強い、か。……そうなのかな?
「! お姉ちゃん、見えて来たよ!!」
「――!! うん……やろう。ガルは、馬車にいる皆を頼むよ」
「うん!」
「いくよ――ちゃんと戦ってね、ロックハート!」
あたしは初めて、口に出して……仲間の名を呼んだ。
「――! ええ、もちろん」
父上……見ててね。
あたし、絶対人間達と馴染んで見せるから。だからそのために――戦うよ。
“魔族”の心を忘れずに――“人間”になってみせる!!
「――いっけええええっ!!」
あたし達は、戦場へ躍り出る。
木に燃えうつる炎に熱され、吹き荒れる暖かい風を感じながら――――。
――あたしはガルを後ろに離した。ガルはすぐさま木陰に隠れ、モンスターに見つからないように大回りしながら、馬車へと向かう。それを確認してからあたしはモンスターへと視線を移す。
……黒装束の奴等は、突如現れたあたし達に気付いて、苦い顔をした。いや、あたしを見て――か? どうやらあたしの存在を知っているっぽいな……なんで知ってるのかあとで締め上げて、詳細を聞き出さねば。
「ロックハート! いつどんなタイミングでこいつが魔法を使うかわからない――大気の流れに気をつけて! こいつは風と火を扱う!!」
「承知した!」
最悪のコンボだ……風と火だなんて。せめてそこは、ギルヴェールさんと同じ水だけの属性であってほしかった。この二つの属性はどこから来たんだ? ……わからない。前例がないだけに、理解しきれない。いったいどんな作用があるのか。
あたしは同じく風の魔法を操りながら、モンスターが同じく風を操るのを防いだ。せめて風だけでも扱えないようにしないと――いつ炎を合わせて、周りに広げるかわからない。
時たまに水の魔法で応戦して、あたしはモンスターの注意を引いた。今だけは黒装束の奴等と手を組まねばならないだろう――奴等もそれがわかっているのか、うまい具合に援護に回りはじめる。
あぁ――勇者、早く来い! モタモタしてると裏切るぞ!!
「くっ――ぅ、わああっ!!」
その時だった。
三人いたはずの黒装束の一人――大柄な男が、突如悲鳴を上げて倒れこんだ。そしてそのまま痙攣をして……動かなくなる。
――モンスターにやられた? ……でも確実に火ではいし、風も防いでいる――ならば今、モンスターは“なに”をした? いきなりだったので、あたしはまったくそちらを見ていなかった。
奴――モンスターから感じ取れる属性は、火と風だけ。風は間違いなく防いでる。ならば火で、なにかをしたのだろうか。……しかし、燃やし尽くすだけの“火”で、いったいなにができるんだ。痕跡も焼痕もなく、どうやって。
「お姫様! 避けてっ!!」
「!?」
あたしは咄嗟に身をひるがえす。途端の事だったがなんとか避けたあたしは、ドクリドクリと波打つ心臓を押さえ付けた。
……あたしがさっきまで居た場所。そこには、綺麗に咲き誇っていたはずの花があったのに――今ではなぜかしおらしく、萎びていた。
「っ……」
ロックハートがもう少し遅く気付いていたら、あたしは多分……あの花のようになっていたのだろう。なんて、恐ろしいんだ。
「お姫様、水の魔法をモンスターに! 雷だけではあの厚い皮膚に効かないようだ!」
「――わかった!」
何故燃えたのではなく、萎れたのだろう……? いや、考えるのはあとだ。今は言われた通り、水の魔法をモンスターに掛けなければ。
あたしは手を翳して、身体中にある魔力を――腕にためた。そして、放つ。
「水も滴る最悪モンスター!!」
瞬間、ザハァッと脳天から水を浴びる――巨大モンスター。瞬間ロックハートが、電撃を打ち出した。
「乱舞せよ――古の神の聖なる雷よ! カウス、モネ、イ、シニ!!」
――ゴロゴロと唸る、天空。先ほどまでは晴天だったはずの空は、ロックハートの唱えた魔法により、暗く、どんよりとした雲に覆われ……眩い雷がチラついていた。
瞬間、その雷は――モンスターに向かって、放たれる。
エルフの魔法――初めて見たのだが、やはり魔族と近いだけはある。威力がハンパなさすぎて、目をうすく開けているのがやっとだった。本当に神様がいたとしたら、こんな風に怒るのだろうか? ……父上は魔王でよかった。いや、それでも父上の怒りも酷かったけど。
あたしは瞼をしっかり開いた――それだけ食らえば、少しは効いているはずだ。そう思っていた。
だが。
「――! ロックハート!!」
あたしは叫び、風の魔法でロックハートを吹き飛ばした――。乱暴になってしまったが、対応は正しかったようだ……少しも食らってなかったモンスターは、気付いてないのか、ニヤリと意地の悪い顔で地面を繰り返し足踏みしていた。
……しかし、あたしが同時に使えるのは三つの属性まで。
同じ属性のものは同時に扱えないから…………。
――風が扱えるとわかったモンスター。
ギリギリの瞬間あたしは空間を歪めて、来るであろう衝撃に備えた。
「グォォオオオオ!!」
凄まじい地響き――台風のように旋回する風――悪魔のように舞い上がる炎――。
空間を歪めただけでは防ぎ切れなかったのか、馬車は吹き飛び黒装束の奴等も飛ばされて、ロックハートまでもが木に打ち付けられ――気絶してしまった。
……今、意識を保ってるのは……あたしだけ。
「……! ち……父上っ……」
……父上なら、こういう時どうするんだ? どうすれば生き残れる――どうすればやりすごせる。どうすれば、皆を助けられる?
あたしは必死に考えた。考えるんだ、あたし。奴は何故雷が効かなかった? いくらなんでも、水を浴びながら雷を食らえば、麻痺くらいはするはず――何故平気なんだ。
――あたしは、ジリジリと後退する。モンスターはまるで喜んでいるかのように……あたしへ、一歩一歩近付いて来た。
くそ、モンスターごときに遊ばれるとは。どうしたらいいんだ……!
――その時。
ふわりと空から舞う……無数の花びら。それは突如あらわれて、まるであたしを守るかのように、身体に染み込んでいく。
それはとても、あたたかい魔力で――何故か脳内に、見たこともない女性の顔が浮かんだ。
「……!」
あたしの中に入り、混ざり、溢れ出るソレ――。
わからない……わからないけれど、自然とあたしは――泣いていた。この人は……あたしがすごい会いたかった人、な気がする。無邪気に抱き付いて、頭を撫でてもらいたくなる――そんな感じがした。
――あぁ、わかった。
この人は……あたしの、お母さんだ。
「……ぁ……あ」
震える身体。
熱くなる目頭。
滴る汗。
比喩の難しい――気持ち。
それがすべて重なりあって……、小さく鈴の音が頭に響く。自分の身体なのに自分の身体じゃないような感覚がして、でも気持ち悪さはなくて。
ぼんやりとする意識の中、あたしは呆然と呪文を吐いていた。
「イア……ヂ……アハラ……、キ……トン……ナ……サア……コ」
……知らない。
こんな呪文は聞いたことがない。でもたしかにあたしが喋っていて、これは強力な魔法だということを知っていた。
「エリシオ……モオワ……ラキトニア!!」
呪文を唱え終えたあたしは、ガクリと膝をついた。……誰かが、頭を撫でたような気がする。
――まわりが歪み始めた。ぐにゃりとなる視界の中、モンスターはなんども叫びながら……魔法を放っている。しかしそれは誰にも当たらずに、全部自分に跳ね返っていく。
これは、現実ではない。幻を見せる魔法だ。モンスターはそれをわからずに、自らを傷つけている。そういう魔法なのだ。
「……なるほど」
自らを傷つけるモンスターを見て――あたしは、今になって奴が使っていた魔法に気が付いた。
奴が使っていたのは、火を応用した“熱”だ――その熱で水分を蒸発させ、干からびさせていた。花が萎れたのも、黒装束が倒れたのも……その、目に見えない“熱”に水分を取られてしまったから。
……まったく、ただそんだけだっただなんて。今気付くあたしもあたしだよ。つか、このモンスターまじチートすぎ……普通そんなこと出来るかっての。
――自分で自分を死に追いやるモンスターは、やがて力尽きるようにその場に倒れた。じゅわじゅわと、その場から跡形もなくなっていく。
……ははは、勝ったし。
「あー……ねむ、い……」
さっきの魔法――いくら規格外な魔力があるあたしでも、相当奪われてしまったようだ。父上の専属執事がもしここにいたら、多分「昇天なさるなら跡形もなく消えてくださいね」とか言うんだろう……あぁ、アイツが死ぬ前に一度殴っておきたかった。
思い出すとなんだか腹がたって来たので、少し眠気が収まる。ふん、あんな奴でもたまには役に立つじゃないか。
ロックハートや馬車の中の子供達を伺おうとしたあたしは、ゆっくりと重い腰を上げて――――。
「魔王の娘――その命、もらい受ける」
――いつの間にか気がついていたのか、それともフリをしていただけなのか。
目前に迫って来ていた黒装束の男は、その鋭い切っ先をあたしに向けて……振り下ろしていた。
……うそん。
そりゃないよ、アンタ。