異世界転生したナチス科学者、勇者を量産す
短編です。だいぶ前に書いたので最近のものとはちょっと毛色が違うかも。
1945年、とある科学者が死んだ。
連合軍からの空襲を受けたベルリンの地下研究所で瓦礫に潰されて死んだのである。
この男、科学者であると同時にオカルティストでもあった。
当時、ナチス・ドイツでは科学と同程度にオカルト魔術が大真面目に研究されており、彼はそんな真理と神秘の間を反復横跳びする研究者の1人であった。
空爆に巻き込まれ研究所ごと吹っ飛んで死んだ彼だが、気がつくと薄暗く広い部屋の中にいた。
「おお、勇者殿!」
声に振り向くと、視線の先には中世の王侯貴族を思わせる連中が期待に満ちた目をこちらに向けている。
「どうかこの世界を救って下され!」
ドイツ語ではない。英語でもフランス語でもない。およそ聞いたことのない言語だ。
だが何故か意味を理解できる。
「…私は勇者などではない」
科学者はそう正直に答えた。
「だが君達が望むなら、その勇者とやらを生み出してやろう」
*****
大陸歴954年、とある小国が3日の内に滅んだ。
「勇者に滅ぼされたということです」
「そんな馬鹿なことがあって堪るか!」
報告を聞いた隣国の伯爵は会議の場でテーブルを叩いた。
「勇者殿はそのような蛮行を犯す輩ではない!第一、勇者殿とそのパーティは現在、大ダンジョンの踏破に挑んでおられる」
実際、その勇者は彼の領内を拠点として深さ100層に及ぶ大ダンジョンに挑んでおり、その出発には伯爵自身が立ち会っている。1つしかない出入り口には部下を待機させているため、まだ出てきていないことも確認済みだ。
報告をした兵は怒声に臆しつつ、辛うじて声を振り絞る。
「で、ですが…隣国を襲撃したのは間違いなく聖剣を携えた勇者であり…」
「それこそありえん!」
伯爵は再びテーブルを叩いた。
聖剣は唯一無二の代物であり、勇者しか持つことが許されぬ代物。
そして自分が確認した青年もその聖剣を携えていた。
すっかり萎縮してしまった兵。
だが落ち着いて会議の成り行きを見守っていた王は彼がまだ何か言い終えていない雰囲気を感じ取ると「まだ何かあるようだな」と促した。
「は、はい…その、隣国を襲撃した勇者なのですが……その不可解と言うか……何かの間違いがあったとしか思えない報告が……」
「いいから早く申すのだ!」
伯爵が三度拳を振り上げ、だが王から目で制止されていることに気がつくと渋々といった風で手を下ろした。
「その……聖剣を持った勇者ですが、一人ではなかったそうで……その数は」
二百に及んだそうです、と兵はようやく言った。
会議に参加していた者達は一様に怪訝な表情を浮かべた。
*****
王国の談話室に下品な笑いが響く。
「あんなにしぶとかった彼の国が僅か3日とは……流石は勇者殿だ。笑いが止まりませんな。」
「これも全てあなたのおかげだ、プロフェッサー」
王が盃を掲げた先にいたのは件のナチス科学者であった。
「私のおかげではありません。科学と神秘…それに我が民族の所業です」
彼以外は科学の素晴らしさを微塵も理解していなかったし、未だに彼のいう”げるまん”民族とやらが何なのかも知らなかった。
だが、実際に彼は聖剣を扱える勇者を大量に生み出した。
それだけで彼は称賛に値した。
男の科学とこの世界の魔法。
ナチスドイツで優生思想を信奉し人体実験に精を出した男にとって、勇者と呼ばれる存在を量産するのは容易いことだった。
戦場で採取した勇者の血を培養し、母体の子宮に投与すれば生まれる子は皆勇者の加護を持つことはすぐにわかった。
生殖能力に長け、成長も早いゴブリンを父体とすれば育成にも時間はかからない。
一つ問題があるとすれば聖剣の存在だったが、これも理屈が分かってしまえば何ということはなかった。
別に聖なる剣があるわけではない。
勇者の加護を持つ人間が握った剣が”聖剣”になるのだ。
”勇者”と呼ばれる存在を早く大量に生み出すため白い肌を持つ女を異形と交らわせることが全く気にならないといえば嘘になったが、異世界から来た男にとって彼女たちも自分の祖先とよく似てはいるが所詮は別種族だ。一度割り切ってしまえば後は気に留めることもなかった。
何なら、その民族を信奉していたのもナチスに取り入るための口実であり、科学者は心の底ではそこまで拘っていなかった。
自分の手で奇跡をなしとげること。
それこそが男にとって最も重要なことだった。
*****
1人の母体を犠牲にして生み出された20人のゴブリン勇者は半年もあれば成人並に成長し、また次の母体と交わった。
辺境の村からわけもわからず連れてこられてゴブリンの群れに放り込まれた女たちにとってはまさに地獄であった。
王命を受け村人に混じり秘密を探ろうとした隠密の女は、大きな腹を抱えたままなんとかその地獄を抜け出し、母国に戻ることに成功した。
そのあまりにおぞましい報告に当初、上司たちは彼女が何らかの幻覚を見たのではないかと疑った。
しかし、彼女がその場で生んだゴブリンが勇者の加護を受けると知ると疑いの余地はなくなった。
「まさしく悪魔の所業だな…」
そう漏らした宰相の言葉はその場にいる全員の総意であった。
「必ず滅ぼさねばならぬ」と息巻く将軍に、しかし王は脂汗を滲ませながら問う。
「……どのようにして二百人もの勇者を打ち破るというのだ」
*****
調子づいた帝国は次々と周辺国を攻め滅ぼした。
男は奴隷にされ、女は勇者を生み出す母体として収容された。
このままでは全ての国が帝国の支配下に置かれてしまう。
しかも帝国の勇者軍は日に日にその勢力を増している。
最早一刻の猶予もない。
王国はまだ無事な列強各国に呼びかけ同盟を呼びかけた。
それに対し、各国は危機感を同じくして同盟に応じる国と、逆に帝国に恭順することで永らえようとする国と。
そして「自分達も勇者、いやそれ以上の存在を生み出そう」と考える国に分かれた。
*****
会議が回る頃。
1人の青年が戦場に立っていた。
勇者である。
目の前にいるのは自分と同じ加護を持ち、聖剣を振るう者達。
その数、1000に及ぶ。
死ぬだろうな、と彼は小さく呟いた。
だがここで逃げるわけにはいかなかった。
勇者である彼には世界を救う使命があった。
*****
会議の場に報告が飛び込んだ。
「ゆ、勇者が死にました…!」
「そ、それは我々の勇者か、それとも帝国の勇者軍のことか…!?」
報告に来た兵の声は上ずる。
「ぜ、全員ですっ。こちらの勇者が自らの命を犠牲にして勇者軍もろとも帝国の全兵を滅ぼしました!」
勇者の加護を持つ異形が次から次へと生み出されることには天界の女神も苦慮していた。
一掃したいが、そうすれば同じ血を持つ本物の勇者も加護を失い殺されてしまう。
だが勇者はそれを願った。
勇者の命を犠牲にした願いを受け取った女神は加護を全て世界から取り上げ、そのまま科学者が高笑いしている帝国の全てを灰燼に帰した。
当初は色んな国が自分なりの勇者作ってやり合う「ワールド・ウォー・勇者」な長編を考えてたんですが色々あって短編に。なので割とラストはやっつけ感あるものになっています。




