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エシカル・ホラー

作者: 古鳥居 日影
掲載日:2026/09/07

完結済み


私が提唱する新たなジャンル「エシカル・ホラー」についての解体新書となります。

悪があれば正義がある。

 だがそれは、第三者が見ての判断だ。

 悪とみなす行動も、実は正義という己の信念がある事を忘れてはならない。


 ようこそ。

 はじめまして、古鳥居日影(ふるとりい にちえい)と申します。

 私は世の中にある矛盾や人の心理、そして因果律をテーマに物語を紡いでおります。

 本稿のタイトルである「エシカル・ホラー」は人間の心理を深く覗き込み、倫理と道徳の欠乏が生み歪みを描くものです。

「エシカル・ホラー」というジャンルを聞いたことがないかと思います。

 それはもちろん。

 これは私が提唱している新ジャンルとなります。

 ただのホラーではございませんよ。

 私が紡ぐ物語は、怪物や脅かしものは一切ありません。

 現実の日常に潜む人間の怖さを題材にしてます。

 おっと、長々と語ってしまいましたね。

 では、このまま前へお進み下さい。


 覚(・)悟(・)が(・)あ(・)る(・)な(・)ら(・)……ね。





これを読んでいるということは、あなたは探究心が非常におありのようですね。

 もし、ただの興味本位で来てしまったなら、戻ることをお勧めします。

 この後の「毒」は、徐々にあなたを侵食し、元の日常に戻れなくなります。


 もう一度言います。


 覚(・)悟(・)は(・)よ(・)ろ(・)し(・)い(・)で(・)す(・)か(・)?(・)


 これが最終通告です。


 では、私は向こうの扉で待っております。



 あなたがこの空間に訪れる事を信じておりました。

 この原稿を読んでいるということは、覚悟がおありのようですね。

 何も恐れることはございません。

 目の前にあるのに誰も気づかない、もしくは見て見ぬふりをしている真実を、私と一緒に見ませんか?


 どうぞ、そちらのソファーにお座り下さい。

 コーヒーでよろしいでしょうか?

 今お持ちしますので、しばしお待ちを。


 お待たせしました。

 角砂糖もご用意しておりますので、お使い下さい。


 では、私が提唱する「エシカル・ホラー」についてお話します。

 コーヒーを飲みながらお聞き下さい。



 本当の恐怖は何か。

 あなた自身、考えた事はありますか?


 怪物や過剰な演出。これらはよく目にする恐怖です。

 ホラー映画や怖い話、あるいはホラーゲームなどを、一度は体験したことがあるでしょう。

 だが、これらはすべて外(・)側(・)からの刺激に過ぎません。

 私が提唱する新ジャンル「エシカル・ホラー」は、外側からではなく内(・)側(・)から静かに侵食する恐怖です。

 人間という存在そのものが抱える本能。

 倫理、道徳(エシカル)の欠乏(ホラー)それこそが、何よりも恐ろしく、そして美しいと私は思います。



 コーヒーのお味はいかがですか?

 

 私が、あなたのためにブレンドした特別な一杯です。

 コーヒーとは不思議なもので、苦いと分かっていながら求めてしまう。

 1つ角砂糖を入れるだけで苦みは身を潜め、まろやかで甘い飲み物へと姿を変える。

 そして、徐々に神経を蝕むカフェインという毒。

 

 我々、人間と酷似していると思いませんか?

 人は感情で動き、苦味という不快から遠ざかり、ただ甘さだけを求めて生きている。

 だが、その甘さに依存したとき、人間は堕落していくのです。


 とある哲学者の格言がございます。

「怪物と戦う者は、その過程で自分自身が怪物にならないよう気をつけるべきだ」

 これは、一部抜粋した名言ですが、まさに倫理や道徳(エシカル)についてです。

 あくまでも私の解釈になりますが、怪物とは依存、または執着かと思います。

 例えば、あなたが誰かに虐められていて、耐えながら日々暮らしているとします。

 内なる感情は、諦めか、復讐。

 諦めて進めば自分の精神が崩壊する。

 それなら、どうにかやり返さないといけない。

 そういう感情になるはずです。

 そこに、「金さえ払えば虐めっ子を懲らしめる」という話を聞けば、精神がすり減らされ極限状態のあなたは求めるはずです。

 人間とは極限状態に陥る時に救いの手がくると、掴むものです。

 何故なら、自分自身を守るため。

 これが人間の本能です。

 傍から見れば、異常者と思われるかと思いますが、それは事情を知らない第三者の思考になります。


 最初に私が語った「悪と正義」を覚えていますか?

 悪と正義は表裏一体なのです。

 どちらも「信念」や「執着」など自身を守るために出来ているのです。



なぜ今まで、「倫理や道徳の欠乏」そのものを描いた作品が存在しなかったのか。

 不思議に思いませんか?

 当然、その毒を僅かに混ぜ込み、作品のスパイスとして際立たせているものはございます。

 だがそれは題材としてではなく、あくまで装飾に過ぎません。

 

 では、なぜ存在しなかったのか。

 

 理由は簡単です。

 物語を紡ぐ者も、感情を持った人間だからです。

 最初は巧みに書けたとしても、途中で己の生み出した毒に侵食され、耐えきれなくなる。

 そして、怪物や奇策といった「外側の恐怖」という安全圏へ、自然と逃げ道を作ってしまうのです。

 これは本能であり、実に自然な現象と言えます。

 

 だが私は、誰もが耐えきれなかったこの「猛毒」を描き続けます。

 一人でも多くの人へ、隠された真実を突きつけることこそが私の使命だからです。

 

 今、あなたがお飲みになっているコーヒーが静かに体へ巡るように、この毒があなたを侵食し、その真実が広がっていくことを、切に願っております。



おや、どうされました?

 コーヒーは熱いうちにお飲みにならないと、本来の味が逃げてしまいます。

 

 あぁ、なるほど。

 私が淹れたコーヒーに毒が入っているかと警戒しているのですね。

 ご安心ください。

 毒は入っておりません。

 あなたは唯一無二の大切な理解者であり、そして大事なお客様です。

 毒を仕込むなど、そんなことはしません。

 私が提唱している「エシカル・ホラー」は、物理的な毒ではなく精神的な毒とでも言いましょうか。

 ですが、その真実をすべて飲み切った時、いつもの日常の見方が変わるかと思います。


私が提唱する真実「エシカル・ホラー」は、これで全てとなります。

 最後までお聴きいただき、ありがとうございました。


 コーヒーカップの底が見えているということは、真実を受け止めてくれたと思います。

 今すぐに理解できなくても構いません。

 人間とは、新しいものに興味を持っても馴染むまで時間が掛かります。

 それは、少しずつ理解する事ではじめて認知するのです。

 毒も同じです。

 大量に流し込むと死に至ります。

 ですが、少しずつ流し込むことによって耐性が付くのです。


 今のあなたを見れば、何を信じればいいか分からない顔をしてます。

 その疑問や違和感が生まれているのは、真実を覗き込んでいる証です。

 もし分からなくなったら、またここにいらして下さい。

 私は、いつでもあなたを歓迎します。

 その時に、またコーヒーをお出ししますよ。


時間とは残酷ですね。

 濃厚な話ほど時の流れは早いです。

 名残惜しいですが、お別れが近づいております。

 何か聞きたいことがあればお聞きしますが、何かございますか?


 私についてですか?


 そうですね……。

 あなたはもう、こ(・)ち(・)ら(・)側(・)の(・)人(・)間(・)。


 わかりました。

 お答えします。


 私、古鳥居日影は虚構の存在です。

 いわば、現実に生身の本人がいて虚構では私が本人の分身となります。

 だが、どちらも同じ人間なのは間違いありません。


 現実の名前ですか?

 それはお答えできません。

 その代わり、世の真実をお伝えする事をお約束します。

 もしかすれば、日常でどこかですれ違ったり、あるいは実際に会っているかもしれませんよ?



さぁ、お別れの時間です。

 出口までご案内いたします。

 どうぞ、こちらでございます。


 いかがでしたか?

「エシカル・ホラー」という新たなジャンルの話は。

 楽しんで頂けたなら何よりです。

 そして、あなたは良き理解者である事を嬉しく存じます。


 さて、着きました。

 この扉を開ければ、いつもの日常に戻ることができます。

 ですが、世界は変わらずとも、今のあなたは何か違和感を感じるでしょう。

 その違和感が真実という事をお忘れにならないよう心から切に願っております。


 さぁ、日常が広がる扉が開きました。

 外から射し込む光は影を濃く残します。


 おっと、私としたことが……。

 失礼、あなたに1つお伝えするのを忘れておりました。

 先程、とある哲学者の格言をお話した事は覚えておられますか?

 その後半をお伝えしておりませんでした。

 では、別れの挨拶として受け取って下さい。


「深淵を長く覗き込むとき、深淵もまたお前を覗き込んでいる」


 行ってらっしゃいませ。

 またお会いできることを、楽しみにしております。








 

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― 新着の感想 ―
コーヒーを勧められ、向かいのソファーで静かに話を聞いているような感覚が面白かったです。丁寧で穏やかな語り口なのに、「毒」「侵食」といった言葉が少しずつ混ざってくるので、読み進めるほど居心地が悪くなって…
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