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風を追う — オートレーサーを目指す少年  作者: sasaki


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9/12

社会人

Warm up

朝の訓練場には冷たい風が吹き、候補生たちはランニングウェア姿で整列していた。

榊教官が前に立ち、いつもの低い声で告げる。

「今日は長距離ランだ。体力は走りの土台だ。

途中で歩いてもいいが、止まるな。前に進め。」

遼、ひかり、高梨、三浦、まどか、そして同期の成瀬大地。

成瀬さんは27歳で奥さんと3歳の女の子がいるらしい…いわゆる社会人てやつだ


スタートの合図とともに、全員が走り出す。

若い同期たちは軽快にペースを作るが、成瀬はすぐに息が上がった。

胸が苦しく、呼吸が荒くなる。

(……やっぱり、タバコなんて吸うんじゃなかったな……)

社会人時代、ストレスで吸っていたタバコ。

養成所に入ると決めてすぐにやめたが、身体にはまだその名残があった。

遼が横を走りながら声をかける。

「成瀬さん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫……じゃないけど……走る……!」

成瀬は笑おうとしたが、息が続かない。

後ろから三浦が追いつき、肩で息をしながら言う。

「な、成瀬さん……俺も死にそうです……!」

「お前は若いんだから……もっと頑張れ……!」

二人はほぼ同じペースで苦しみながら走った。

前方では、ひかりが一定のリズムで淡々と走っていた。

無駄のないフォーム、揺れない視線。

まるで風のように静かで強い。

高梨は余裕の笑みを浮かべながら、ひかりの少し後ろを走る。

「相馬ー! 遅れてんぞー!」

遼は苦笑しながらも、ペースを崩さず走り続ける。

そして、まどか。

彼女は明らかに苦しそうだったが、必死に腕を振り、足を前に出していた。

(……みんな……頑張ってるじゃないか……)

成瀬の胸に、熱いものが込み上げた。

折り返し地点を過ぎたあたりで、成瀬の足が止まりかけた。

「……っ……くそ……!」

膝に手をつき、呼吸を整えようとする。

視界が揺れ、汗が目に入る。

そのとき、後ろから榊教官が歩いてきた。

「成瀬。」

成瀬は顔を上げる。

「……すみません……情けないところを……」

榊は首を振った。

「情けないかどうかは、止まるかどうかで決まる。

お前はまだ止まってねぇ。」

成瀬の胸が震えた。

榊は続ける。

「若い奴らと比べるな。

お前には“背負ってるもの”がある。

それを力に変えろ。」

成瀬は息を吸い込み、拳を握った。

「……はい。」

成瀬はゆっくりと足を前に出した。

最初は重かったが、少しずつリズムが戻る。

(ひより……美咲……俺は絶対に……諦めない)

前方で走る同期たちの背中が、少しずつ近づいてくる。

三浦が振り返り、驚いた顔で叫ぶ。

「な、成瀬さん!? 追いついてきた!?」

「お前が遅いんだよ……三浦……!」

遼も笑いながら声をかける。

「成瀬さん、すごいですよ!」

ひかりもちらりと視線を向け、わずかに頷いた。

まどかは息を切らしながらも、成瀬の姿に勇気をもらったようにペースを上げた。

全員がゴールしたとき、成瀬は地面に倒れ込んだ。

「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」

だが、その顔はどこか誇らしげだった。

榊が近づき、短く言う。

「成瀬。よくやった。」

成瀬は汗だくの顔で笑った。

「……ありがとうございます。

俺、まだまだ走れます。」

遼、ひかり、高梨、三浦、まどか。

みんなが成瀬を囲み、自然と笑顔がこぼれた。

その瞬間、成瀬は思った。

――ここでなら、夢を叶えられる。

――家族に胸を張れる男になれる。

そして、また走り出す覚悟が、静かに燃え上がった。






Hands up

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