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風を追う — オートレーサーを目指す少年  作者: sasaki


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8/11

朝の修練

stretch

朝の空気はまだ冷たく、地面には薄く霜が残っていた。

候補生たちは整列し、榊教官の前で緊張した面持ちで待っている。

「今日は体力づくりだ。腕立て伏せを“正しいフォーム”でやる。

数じゃない。質だ。崩れたらやり直しだ。」

高梨が小声で笑う。

「相馬、こういうの得意か?」

「……普通だよ。」

「普通ってのが一番怪しいんだよな。」

三浦はすでに顔が青い。

「む、無理だ……昨日の走行で腕パンパンなんだって……」

ひかりは無言で腕を回し、準備運動をしていた。

まどかは緊張で肩をすぼめ、地面を見つめている。

榊の号令が響く。

「構え!」

全員が腕立ての姿勢を取る。

遼は背筋を伸ばし、呼吸を整えた。

「いち!」

全員が沈む。

「に!」

上がる。

そのリズムが続く。

高梨は軽々とこなし、余裕の笑みを浮かべていた。

「おい相馬、遅れてんぞ。」

「うるさい……集中させろ……」

ひかりは無駄のない動きで淡々とこなす。

呼吸も乱れない。

榊がひかりを見て小さく頷く。

「白石、フォームがいい。」

ひかりは表情を変えず、淡々と続けた。

「じゅ、十回目……もう無理……!」

三浦は腕が震え、地面に崩れ落ちた。

「三浦、まだ十回だ。」

榊の声は冷静だが、どこか優しさもある。

高梨が笑う。

「お前、昨日も倒れてただろ。」

「うるさい! 俺は俺なりに頑張ってんだよ!」

遼は三浦の横目で見ながら、必死にフォームを維持した。

まどかは最初から腕が震えていた。

「い、いち……に……さん……っ……」

五回目で腕が潰れ、地面に倒れ込む。

「ご、ごめんなさい……すみません……」

榊は何も言わず、まどかの横にしゃがんだ。

「桐生。腕立ては腕だけでやるもんじゃない。

背中と腹で“身体を支える”。腕は最後の補助だ。」

まどかは驚いたように顔を上げた。

「さ、支える……?」

「そうだ。腹に力を入れろ。腰が落ちてる。」

「腕だけでやろうとするから潰れるんだ。

身体は“面”で支えろ。点で支えるな。」

まどかは小さく頷き、再び姿勢を取った。

まどかは腹に力を入れ、背筋を伸ばす。

「いち!」

沈む。

「に!」

上がる。

さっきよりも安定している。

「……できた……!」

まどかの顔が少しだけ明るくなった。

遼は横目でその姿を見て、胸が温かくなった。

ひかりもちらりと視線を向け、ほんの一瞬だけ表情が和らいだ。

榊が号令をかける。

「よし、ここまで。

今日の目的は“自分の弱さを知ること”だ。

強くなるのはその後だ。」

高梨は腕を回しながら笑う。

「余裕だったな。」

三浦は地面に倒れ込んだまま動かない。

「む、無理……もう動けない……」

まどかは息を切らしながらも、どこか誇らしげだった。

遼は汗を拭きながら思った。

――みんな違う。

――でも、同じ場所で、同じように苦しんで、同じように前に進んでる。

その気づきが、遼の胸に静かに灯った。

Pump up

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