助け合い
キャブ
整備台の端に、ひとり残ってキャブレターを見つめている人がいた。
相馬「佐伯さんなに困ってるの?」
佐伯あかり(26)。
元OLで落ち着いているけれど、負けず嫌いで努力家。
今日の整備授業で悔しい思いをしたらしく、
まだ工具を握っていた。
佐伯さんはキャブの部品を前に、
完全に固まっていた。
佐伯「このジェット……ここで合ってる?
いや違う? え、どっち……?」
相馬は横で自分の作業を進めながら、
ちらっと視線を向ける。
相馬「……佐伯さん、それ逆だよ」
佐伯さん「えっ!? ど、どこが!?」
相馬は工具を置き、
佐伯さんのキャブを覗き込んだ。
相馬「ほら、このニードル。
細い方が下になるんだよ。
向きが逆だと燃調が狂う」
佐伯「あっ……ほんとだ……!
なんで分かるの……?」
相馬「慣れ。
あと、形で覚えると楽だぞ」
佐伯は悔しそうに唇を噛む。
佐伯「……くぅ……悔しい……
私、整備だけは絶対負けたくないのに……!」
相馬「負けず嫌いなのはいいことだよ。
伸びるタイプだし」
佐伯「相馬くんに言われると、なんか悔しい……!」
相馬「ここ、力入れすぎるとネジ潰すから気をつけて」
佐伯「えっ、そんなに繊細なの?」
相馬「キャブはな。
ほら、こうやって“指先だけ”で回す」
相馬は佐伯さんの手元に軽く手を添え、
力加減を示す。
佐伯さん「……あ、ほんとだ。
ちょっとの力で回るんだ」
相馬「そうそう。
整備は“力より丁寧さ”だよ」
佐伯は真剣に頷いた。
佐伯は工具を握り直し、
真っ直ぐ相馬を見た。
佐伯「……私、年齢も上だし、
みんなより遅れてる気がして……
でも、負けたくないの。
整備も走りも、全部」
相馬は少しだけ笑った。
相馬「遅れてるなんて思ったことねぇよ。
佐伯さん、努力量すごいし」
佐伯「……ほんとに?」
相馬「俺が嘘つくタイプに見えるか?」
佐伯「チャラ……」
相馬「なんだよ!」
佐伯は照れたように目をそらした。
佐伯「……ありがとう。
じゃあ、これからも頼っていい?」
相馬「おう。
ただし――」
佐伯「ただし?」
相馬「自分でできるところは、自分でやれよ。
その方が絶対伸びるから」
佐伯は嬉しそうに頷いた。
佐伯「……うん。」
工具箱を閉じた。
ニードル




