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風を追う — オートレーサーを目指す少年  作者: sasaki


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2/12

風の入口

風が頬を切り、世界が流れ始める

春の朝、遼は養成所の門をくぐった。


鉄の匂いと、遠くで鳴るエンジン音。胸の奥がざわつく。


「今日からお前らは“候補生”だ。覚悟を持て。」


教官・榊の声は、空気を切り裂くように鋭かった。


遼は背筋を伸ばしながら、ここが夢の入口であり、同時に試される場所だと悟った。


座学・座学の連続の中初めて鉄の塊に触れた日…




整備場のシャッターがゆっくりと開くと、油と鉄の匂いが一気に流れ込んだ。


遼は思わず息を呑んだ。そこには、候補生用に調整されたオートレースマシンがずらりと並んでいた。


「今日からお前らは“機械と向き合う”ことを覚える。」


榊教官の声が響く。


遼は自分の担当マシンの前に立った。


黒いフレーム、むき出しのエンジン、無駄のない構造。


“乗り物”というより、何か生き物の骨格のように見えた。


「触ってみろ。怖がるな。」


促され、遼はそっとハンドルに手を置いた。


金属は冷たく、しかしどこか脈打つような存在感があった。


「まずはサイドカバーを外せ。工具の扱いは基本中の基本だ。」


榊が工具箱を指す。


遼はレンチを手に取ったが、手が少し震えていた。


隣で高梨が軽く笑う。「緊張してんのか、相馬。」


「……まあな。」


遼はボルトにレンチを当てた。


だが、力の入れ方が分からず、カチリとも動かない。


「相馬、力任せに回すな。」


榊が背後から手を伸ばし、遼の手元を軽く押さえた。


「工具は“押す”んじゃない。“支点を作って回す”んだ。」


榊が示す角度に合わせて力を入れると、


――コキッ


小さな音とともにボルトが緩んだ。


「……できた。」


「その感触を忘れるな。整備は積み重ねだ。」


遼の胸に、じんわりと熱が広がった。


サイドカバーを外すと、複雑なパーツがぎっしりと詰まっていた。


遼は思わず息を呑む。


「これが……走るための心臓か。」


榊が説明を続ける。


「オートレースは整備が半分だ。速く走るだけじゃ勝てん。


機械の声を聞けるやつが強くなる。」


遼は一つひとつの部品を目で追い、形を覚えようとした。


オイルの匂い、金属の冷たさ、工具の重み。


すべてが新しく、すべてが難しく、そして――楽しかった。


授業の終わり、榊が言った。


「最後に、今日触った部分を元に戻せ。間違えたら走れんぞ。」


遼は慎重にボルトを締め、カバーを戻した。


手は油で黒く汚れ、爪の間にもグリスが入り込んでいる。


だが、嫌な感じは一つもなかった。


「よし、相馬。初日にしては悪くない。」


榊の言葉に、遼は思わず顔を上げた。


「……ありがとうございます。」


その瞬間、遼は気づいた。


“走る”前に、まず“触れる”ことから始まるのだと。


そして、機械と向き合うこの時間こそが、自分をレーサーへと近づけているのだと。

削られ、磨かれ、形になっていく

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