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風を追う — オートレーサーを目指す少年  作者: sasaki


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10/11

公衆電話前

夕食後の自由時間。

養成所の薄暗い廊下には、古い公衆電話が3台だけ置かれている。

そこには、順番を待つための小さな列ができていた。

遼はある列の二番目に並び、その後ろにまどかが立っていた。

まどかは両手を胸の前で握りしめ、俯いたまま小さく震えている。

(……緊張してるのか?)

遼がちらりと横目で見ると、まどかの肩がわずかに揺れた。

次の瞬間――

ぽたり、と床に涙が落ちた。

「……っ……」

声を殺して泣いているのが分かった。

遼は驚き、思わず声をかけた。

「おい……桐生、大丈夫か?」

まどかは慌てて顔を隠した。

「す、すみません……っ……ごめんなさい……」

「謝るなよ。泣いてるなら……先に使えよ。」

遼は順番を譲り、まどかを前に押し出した。

まどかは目を丸くし、震える声で言った。

「で、でも……相馬くんの番……」

「いいから。早く電話してこい。」

遼の言葉はぶっきらぼうだったが、優しさが滲んでいた。

まどかは小さく頷き、公衆電話の受話器を取った。

「……もしもし、お母さん……?」

受話器の向こうから、優しい声が返ってきた。

『まどか? どうしたの、声……震えてるよ?』

「……うまく……できなくて……みんな速くて……私だけ……」

言葉が途切れ、涙が溢れる。

『まどか。』

母の声は、静かで、温かかった。

『できないことがあるのは当たり前だよ。

でもね、まどかは“逃げない子”でしょ?』

「……うん……」

『今日も頑張ったんでしょ? それだけで十分だよ。

まどかはまどかのペースでいいんだよ。』

「……でも……みんなに迷惑かけて……」

『迷惑なんて思ってるのはまどかだけ。

ちゃんと見てくれる人、きっといるよ。』

『それにお父さんだって最初は大変だったて言ってるよ』

「そうだよね…」

まどかは遼の背中と父親の背中を思い出した。

順番を譲ってくれた優しさ。そして父親の強さ。

あの一言。

(……ちゃんと見てくれる人……いるのかな)

母の声が続く。

『まどか、頑張ってるよ。

お母さん、まどかのこと誇りに思ってる。』

「……ありがとう……お母さん……」

涙は止まらなかったが、さっきまでの苦しさとは違う涙だった。

まどかは受話器を戻し、深呼吸をした。

目は赤いが、表情は少しだけ前を向いている。

遼が壁にもたれながら言った。

「……落ち着いたか?」

まどかは小さく頷いた。

「……はい。ありがとう……相馬くん。」

「別に。俺も使うし。」

遼は照れ隠しのようにそっぽを向いた。

まどかは胸の前で手を握りしめ、静かに言った。

「……明日も……頑張ります。」

遼は少しだけ笑った。

「おう。俺もだ。」

廊下の蛍光灯が二人の影を伸ばし、

その影はほんの少しだけ、昨日より近かった。



日も落ち…

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