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若きオートレース候補生が一歩を踏み出す物語
若きオートレース候補生が一歩を踏み出す物語
エンジンの匂いが漂う整備場に、17歳の相馬遼は立ち尽くしていた。
目の前には、初めて触れる本物のオートレース用マシン。無駄を削ぎ落とした鉄の塊は、まるで獣のように沈黙している。
「触ってみろ。機械は臆病者を嫌うぞ。」
教官の低い声に、遼はそっとハンドルへ手を伸ばした。冷たい金属が掌に吸い付く。胸の奥で、何かが静かに燃え始める。雨の中、泥を跳ね上げながら走る選手たち。最後の直線で、たった数センチの差で勝敗が決まる瞬間。
「こんな世界があるのか…」
その衝撃が、ずっと胸に残っていた。
だが、家族は反対した。危険だ、将来が不安だ、もっと普通の道を歩け。
それでも遼は折れなかった。誰にも説明できないほど強く、ただ“走りたい”という思いがあった。
ある日の実技訓練。初めてコースに出た遼は、緊張でアクセルを開けられず、教官に叱られた。
「スピードは怖い。でもな、怖さを知ってるやつほど強くなる。」
その言葉が、遼の胸に深く刺さった。胸が震えた。
あの日、観客席で見た世界に、自分が少しだけ近づいた気がした。
お前なら大丈夫だよ。風を掴んでこい




