服飾
「その服が好きなの?」
姉は聞いた。妹は体の線に這わせるようにしながらセーターを鏡に映す。前より少し背が伸びたかもしれない。
「あったかいし可愛いし、まだまだ一軍だよ」
「中一から着てるよね」
「覚えてないけど、多分それぐらいじゃない」
姉は結構大きく笑って頬の端には大きな皺みたいな筋みたいなものが浮かんで、手を伸ばすとセーターの袖に触れた。
「その服、今日だけ貸してくれない」
今きていこうとした服なのに、という言葉はつぐむ。姉は微笑んだままの顔でちょうだい、ともう一回言った。もどかしげに曲げた指でセーターを引っ掛け、姉に手渡した。私の指からするりとセーターが奪われ吸い付くようにセーターは彼女に包まれた。セーターは姉になった。
「似合ってるね」
屈託のないえくぼで微笑むと、彼女も微笑み返す。私は不安になって「着終わったらちゃんと返してね」と話すが姉の手によってセーターの毛羽立つ皮膚が整えられるのを見つめるうち不安になってしまう。私はクローゼットを開けて他の服を探したが昨日まで着ていた服はもうなくて、代わりに喪服のような黒い服を着て外に出た。
外にいる人間は全員、私と同じような色合いの服を着ていた。喪服のようにも見えた。ショッピングモールによって、ご飯を食べて、姉の買い物をして、私の買い物をして、そのうち高頻度で多様な視線が姉に注がれているものだから少々うんざりする。彼女は薄く化粧をしていた。そして毎度の痛みがやってくる。なんの骨も保護してくれない腹部に喪服の帯がぎゅうぎゅうとしまってゆく。
結局、私の買い物は程々にして帰った。数時間空けていただけで家は冷え冷えとしており、床の上に転がっていた。転がっていた。
「返すわよ」と、姉は翌日に服を返した。セーターにはいつの間にか薔薇の刺繍が施されていたが、姉を問い詰めても元からあったと言うばかりだった。セーターを試しに着てみる。変化はない。
しかし私はいつの間にかセーターを着なくなって、黒く黒く夜っぽい感じの喪服ばっかり見に纏うようになって、セーターって、あれはいったい、どんな色をしていたのだっけ、と毎度思うので、それはよく転がっている。




