Chapter 4(Final)
年内までは残します
ウェディングチャペル… そういえば、数か月前から告知されていた。アイエヴォの新スポット。確か、当初12月の初めに実装されるはずだったのが、遅れに遅れてつい二日前…12月26日になってしまったらしい。
その有料スポットの機能は名前の通り…
「あの、まさか…」
「そう、Mintと、結婚してほしい」
「ハア?」
「落ちつきなさい」
「なにを言ってるんですかっ! 交際を解消してほしい、っていう話をしてたのに、それがなにをどうやったら、結婚する事に繋がるんですか!」
「年内だけだ。年が明けたら、離婚してくれていい。いや、結婚式はできるようになったけど、まだ婚姻関係を結ぶシステムは作られていない。だから、式はあくまでただのレジャーだ。っていうか、もともとアイエヴォそのものが遊びなんだから」
「で、でも…」
「実はね、Kotaさんに別れを切り出されるより少し前に、Mintに新しい服を買ってあげていたんだ。つまり…ウェディングドレスだ」
「はあ?」
「少々先走りしてしまったようだ。フフッ」
「いや、フフじゃなくて…。 ってか、そんなのまで売っているんですか?」
「チャペルの実装が発表された時に売り出されたんだ。まだドレスは十種類ほどだがね。もちろん、Kotaさんにもタキシードを用意してある。こちらで勝手に選ばせてもらったけれど、構わないだろう?」
「構う構わないの話じゃないですよ、僕ら…いや二人は、べつに婚約していたわけじゃないんですよ!」
「そうだね。でも、いつかそういう日が来ると期待していたんだ。それなのに…晴天の霹靂だったよ!」
なんでキレ気味なんだよ、勝手すぎるだろう?
「要は…見たいんだよ。Mintのウェディングドレス姿を。もちろん今でもすぐに見られるのだが、チャペルを背景にした、新郎と一緒の画像や動画は、チャペルを利用しないと見られない。利用するには当然、恋愛関係でジョイントしている相手が必要なんだよ!」
「だからといって…」
「頼む! どうしても見たいんだ!」
「その、…他に相手を見つければいいじゃないですか。Mintさんなら、あのビジュアルなら、すぐ他に見つけられると思いますけど…」
あんたが正体を明かさなければなっ!
「そんな、今からその辺の男を引っかけろ、というのかい? 一年半もの間付き合った彼女に対して、Kotaはそんな事を言う男だったのかい? ひどいな、…ひど過ぎる」
「そっ そういう意味じゃなくて…」
ええ? 俺が悪いの? ええ? これって、バーチャルの話だよね?
「その、今すぐ、ってんじゃなく、また他の人と親しくお付き合いをしてですね…」
「いやだ、年内に見たいんだ」
「そんな…」
それは最初から無理な話でしょう?
「オープンしたら、すぐにKotaさんを誘うつもりだったんだ。 一緒に見学に行って、気分が盛り上がって、そのままの勢いで結婚しちゃう。親や友達に紹介し合う必要なんかない。二人だけで決めればいい。どうせニセモノの結婚なんだから。 …きっと楽しかった、きっと嬉しかったさ」
…新しい彼女ができていなかったら、正体がおじさんと知らなかったら、もしかしたら誘われるがまま結婚したかもしれない。きっと楽しかっただろう。ウェディングドレス姿のMintに、きっとときめいちゃっただろう。今でも…見たくない、と言えば嘘になる。でも… でもでもでもでも…
「いや~ でも… それはさすがに~」
「知ってるかもしれないが、チャペルの様子はムービーにしてもらう事ができる。かなり凄いデキなんだよ。絶対後悔しない」
「でも、結構なお金がかかるんじゃ…」
「全部僕が払う!」
どうしてそこまで…。いったい何を背負っているんだ?
「君の、いやKotaさんのビジュアルをMintに揃えなきゃならないから、そのお金も払ってあげよう」
「え、そんな…」
「いいのいいの、こう見えても、それなりに稼いでいるから。少し時間がかかるから、その間に何か食べよう」
おじさんは店のタブレットを手に取った。
「いや、その、まだ受け入れたわけじゃあ…」
「どうして?」
「どうして、って言われても」
「その気になりかけてただろう? 表情でわかったよ」
「いや~、 でも~」
「ほらほら、その表情だよ」
え? そんなにヘラヘラしてる?
「新年になったら、ちゃんとジョイントを外してあげるから。べつに離婚歴がつくわけじゃない。ただ単に、新スポットを楽しむだけだ」
「でも、やっぱり彼女に悪いっていうか…」
「まだそんな事を言っているのか? いい加減、リアルと切り離そうよ!」
「は~い、ご注文ですか?」
「すみません、お腹減っちゃって。 この、プレミアムオムライスを頼めるかな? 君はどうする?」
「あ… じゃあ、同じものを」
「オムライス二つですね、承りました~」
店員さんは楽しそうに伝票に書き加えた。
「それで、どうなりました?」
「うん、結婚する事になりました」
「えー!」
他にお客さんがいないからって、大声が過ぎるよ。
「いったい何がどうなって、そんな面白い事になったんですか?」
どうやらこの間は盗み聞きしていなかったようだ。 どうしてこうなったかって? 俺にもよくわからないよ。
おじさんは経緯を楽しそうに説明した。自分も頭の中を整理しよう。
ウェディングドレスを着たMintの姿を見たい、というおじさんの気持ちは、まあわからないでもない。時間とお金をかけて育ててきたA.I.なのだから、ホントの娘のように思っている気持ちはわかる。でも、その娘と別れたがっている俺…Kotaに、どうしてそこまでこだわる必要があるんだろうか。他に彼女ができたなんて言われたら、普通なら嫌いになって、誰がお前となんか結婚するものか、と怒るんじゃないだろうか? ただ画像や動画が見たいだけならば、知り合いに頼んだり、自分でもうひとり別のアバターを作ったりすればできるじゃないか。お金を持っているみたいだし…。
「じゃあ、ビジュアライズのお金を出してもらえるから承知したってわけ? 結局はお金かよ」
「いや、そんな理由じゃなくって」
「じゃあなに?」
「その… まあこれまでのまとめ、っていうか、結果というか、結末を見ることに納得したというか…」
「意味わかんない」
「つまりね…」
おじさんがうまく説明してくれた。
つまり二人のアバター…KotaとMintの、それぞれのA.I.の間には、恋人関係という情報が確かに存在している。解消してしまえば、その情報はアイエヴォから削除されることになってしまい、二度と復元する事ができない。それではあまりにも勿体ない、とおじさんは言った。結婚式のムービーは、その情報の総括となりうる。それを鑑賞する事で以て、一年半もの関係の結果報告とし、整理をつけたい、という事だ。
その理屈に、納得してしまった。確かに、このまま失うのは勿体ない…いや、申し訳ない気がした。あくまでもアイエヴォにおいて、KotaとMintは若い男女の恋人同士なんだ。リアルの事情、つまりリアルの彼女ができた事、そして年齢差がある男同士である事 は、本来二人のA.I.には無関係な事なんだ。彼らが築いてきた愛情を、それらを理由にしてむげに削除する権利が、果たして自分にあるのだろうか? いや、たぶんない。半分以上はA.I.が会話し、行動してくれていたんだ。Kotaには自己を主張する権利が、Mintを愛する権利がある
…のかな?
「それで、今は何してんの?」
どんどんフランクな物言いになってきたな。
「Kotaのグラフィックレベルを上げているんだ。もうすぐ完成する」
「あの… ひとついいですか?」
「なんだい?」
「その、彼女にこの事を話してもいいですか? きちんと事情を説明しておきたいんです」
「Mintと結婚式を挙げる事をかい? 隠しておくことは容易だろ?」
「そうですが、やっぱり黙っておくのはちょっと…」
「うわ~ 真面目ぇ~」
フランク過ぎるって。
「もちろんいいよ。彼女にも理解してほしい」
「じゃあちょっと、メールしてきます」
俺は席を離れて、わざわざトイレに入ってメールした。もしも返信がなかった場合、電話をかけてみようと思っていたからだが、返信はすぐに来た。
おじさんと店員さんが向かい合って話している。彼女は俺の席に座っている。オムライスはどうした?
「おかえり、どうだった?」
この娘、俺より年上なのかな? 年下っぽいんだけど…。
「その… あの… 彼女も結婚式に出席したい、と…」
「え?」と二人とも言った。
「その、式には他のアバターが列席する事もできるらしくて…」
「そ、そうだよ! 招待されれば可能なんだ。ホントにそう言ってくれたのか?」
「ええ、まあ…」
「そ、そうか! これは期待以上だ! ぜひともお願いするよ!」
おじさんハイテンション。
「ほら~、絶対喜ぶって言ったじゃない」
君はまだ席をどかないの? そうなの?
「そうだっ!」
ハイテンションは続く。
「列席者もムービーに参加する事ができるから、彼女のグラフィックも上げてあげよう。全部僕が払う!」
「いや、なにもそこまでする事…」
全部で七、八万くらいかかるんじゃないのか?
「いいんだよ! すごく嬉しいんだ! ぜひ払わせてくれ! そうだ、よかったらお姉さんもどうだい、今からでもアイエヴォを始めてさ、ぜひ式に参加してよ!」
「いえ、結構です。めんどくさい」
ハイテンション、ばっさり終了。
彼女に改めて連絡して、アイエヴォを開いてもらった。彼女は恐縮して、最初はビジュアライズを断っていたが、おじさん=Mintの押しに負けて、とうとう承諾した。
俺と彼女のアバターが、情報はそのままに、美麗なグラフィックで以て新たに生まれ変わった。
「うわ~! 美男美女! おこがましい~」と、俺のスマホを奪った店員が唸った。
この女、まだどかないのか!
「いや、こんなに盛らなくていいです、って言ったんだよ」
「いいじゃないか、せっかくなんだから」
「え~ 彼女はさ、リアルでもこんなにかわいいの?」
「え、いや… まあその、 結構似てるかな」
「へえ~ いいなあ~」
そんなわけないだろ~ こんなの、人気アイドルや女優なみじゃないか。
「さあ、式が始まるぞ、観よう」
おじさんがテーブルの上に自分のタブレットを置いた。立っている俺に画面の正面を向けてくれていて、両側からおじさんと店員が覗き込んでいる。
三頭身のKotaとMintが並んで、ウェディングロードを歩いている。それぞれタキシードとウェディングドレスを着ている。英語の讃美歌が流れている。スマホゲームのような、それなりに凝ってはいるが、簡素化したデザインのCG画面だ。お金がかかるムービーは、このプレイ画面の情報をもとに、後で作成される。これまでの二人の交際の歴史が、回想シーンのようにいくつも挿入されている。出会った時の直リプでの会話、交際を申し込んで、受諾してくれた時の会話、 A.I.任せにしたデート、悩みを聞いてもらった時の…。 キスをした時の…。
あれ? なんだか…結構感動しちゃっているぞ。 Mintが、Kotaがすごく愛おしいぞ。これはどういう感情なんだろうか。 二人は、こんなにも仲良くなっていたのか、こんなにも愛し合っていたのか。
指輪交換、誓いの言葉、誓いのキスを経て、式は終わった。一人だけの列席者…俺のリアルでの彼女が、拍手をしてくれている。俺も、おじさんも、店員さんも拍手した。
「ムービーが完成するまで一時間ほどかかる。どうする?」
「どうする、って…」
「僕の願いはこれで叶った。ムービーは後でいくらでも観られる。Kotaさん…君は、もしも観たくないなら、観ずに済ませるのは勝手だ」
「え~ 絶対観たい~」と、店員さんが言った。まあ、そりゃそうだろう。ここまで来て、観ないで済ませられない。
「あの、彼女が観たがると思いますし…」
「彼女さんとは今回の事で知り合えたから、僕の方からお見せする事はできるよ」
「あ… でも…」
「君はどうしたいんだ?」
「み、観たいです」
「わかった」
「はい、じゃあオムライス二つでしたね。少々お待ちくださ~い」
ようやく席を空けてくれた。一時間…閉店時間を過ぎてしまうけれど、 …構わないみたいだ。
二人は黙って食べていた。ずっと下を向いている。うす黄色の皮膚をスプーンで突き破り、赤い血肉をえぐり出し、皮膚と一緒に口に入れる事に集中していた。
二人は初対面だというのに、短い時間でとても親しくなったように見える。お互いの年齢や地位を気に留めず、本音を言いあい、非難したり、褒めたり、慰めたりしていた。
…おかしな話。 アイエヴォなんか必要ないじゃない。
食べ終わっても、二人は黙ったままだ。結末が近いからだろうか。二人の関係はもうすぐ最終結果が出て、その後、今年と共に終わりを告げる。それを粛々と待っている、という気持ちなのだろうか。それとも、終わりを惜しんでいるのだろうか。
食器を下げて、洗って、そしてお水を注ぎに行った。
「完成したよ」と、おじさんが言った。
あたしは立ったまま、正面からタブレットを見せてもらう。両側からおじさんと男の子が画面を覗き込んでいる。
ものすごくきれいで、滑らかな映像が映し出された。内容はさっき見たものと同じだが、グラフィックは雲泥の差どころの話じゃない。とても日本人には見えない、八頭身のイケメン新郎とかわいすぎる新婦が、それぞれ真っ白の華やかなタキシードとドレスを着て、モデルのようにぴんと背を伸ばし、堂々と並んで歩いている。さっきと同じ回想シーンもやはり挿入されているが、それらも超美麗なグラフィックで再現されている。数シーンは声まであった。当然男の子やおじさんの声じゃない。讃美歌もずっと迫力を増している。二十人くらいいる聖歌隊、太った外人の牧師もCGだ。
確かにすごいムービーだけど、やっぱりなんかおかしくて笑っちゃう。でも当人たちは、二人はあきらかに感動している。二人とも目が潤んでいる。
指輪を交換し、誓いのキスをする。男の子の彼女さんが拍手している。彼女もとてもきれいで、レース素材に見える、うすいピンクのドレスを着ている。最近できた彼氏のアバターが、前の彼女…おじさんのアバターとキスをしている姿を見て、CGと同じように感動しているのだろうか? それとも大笑いしているのだろうか? あたしなら後者だけど…。
三~四分程度のムービーが終了した。総括が完了したのだ。
二人がどんな感想を言い合うのか楽しみにしていたのだが、男の子はすぐにトイレに走った。両目が赤くなっていた。そんなに感動したか。
おじさんがタブレットをバッグにしまう。このまま黙っておこうと思っていたのだが、もう二人と会う事もないのかな、と思うと、もしも言うのなら、片方がいない今が最後のチャンスと考えてしまった。
あたし…イヤな奴だな。
「うまくいきましたね」と、おじさんの背中に投げかけた。
「ん? ああ、願いが叶ったよ」
「願いというより、お仕事がうまくいった、という事でしょう?」
「どういう意味だい?」
おじさんは背を向けたままだ。
「さっき、オムライスをご注文いただく前にね、バックヤードで調べものをしていたんですよ」
「調べもの?」
「アイエヴォを作って、運営している会社のホームページや、記事をいろいろ見たんです」
「…それで?」
「ちっちゃい画像でしたが、見つけましたよ。 広報戦略部長さん」
ようやくこちらを向いた。とくに悪びれてはいない様子だ。まあ、別に悪いことをしたわけじゃないと思うけれどね。
「どうして?」
「だってほら、熱っぽく話されていた内容が、アイエヴォの回し者としか思えなかったんですよ」
おじさんは大きく息を吐いた。
「バレちゃってたか…」
「部長自らとはお疲れ様ですね。こういうのは、部下にやらせるもんじゃないんですか?」
「こういう事こそ、責任あるものがやらなくちゃならないんだよ。それに、自分で楽しめないくせに広報戦略を立てるなんて、おかしな話だろう?」
「なるほど」
「だから、やっぱり仕事以上に願いだったんだよ。 A.I.の検証を兼ねていたのは確かだが、交際を楽しんでいたのは本当だ」
「結婚まで強要したのは、やり過ぎではないですか?」
「強要していたかい? 粘り強く説得していたつもりなんだが…」
「まあ、最後は納得していたから、説得といってもいいでしょうね。ちょっとしつこいとは思いましたが…」
「そうだね。ちょっと見苦しかったかも知れない。反省するよ。チャペルの実装が遅れてしまい、二日経ってもひと組も利用者がいない事に、かなり焦っていたんだ。それでね…」
「クリスマスの後になってしまったのは最悪ですね、それならいっそ、来年にしてしまった方が良かったんじゃないかな」
「大晦日や元旦は逃せないよ、必ず多くの利用者が出てくる。でも、それまで利用者がいなかった場合、多少影響が生じるかもしれない」
「じゃあ、堰を切る役割のために?」
「どうなるかな?」
「さっきのムービーを、いろんな所に投稿しちゃえばいいんじゃないですか? 反響あると思いますが」
「最初はそのつもりだったんだが… やめておくよ、彼が認めないだろうから。 サンプルムービーは他にあるしね」
「実際のユーザーのものの方が、宣伝効果は高いでしょう? 説得すれば、あのコなら落ちちゃうんじゃないかな」
「いや… これ以上、嫌われたくないからね」
「そうですか」
あんたね、ちっとも現実とバーチャルを切り分けていないじゃないの。
「彼に言うかい?」
「言いません」
おじさんはコートを着てから、「どうして?」と尋ねた。
「Kotaの友達と、Mintのお父さんなんでしょ? キッチンスタッフはもうとっくに帰ったし、お店の中にいるリアルはあたしだけ。他はみんな、コーヒー豆も、高級赤ワインを使った本格デミグラスソースも、薩摩地鶏を使ったチキンライスも、なにもかもニセモノ。 そんなもの、あたしにはどうでもいい」
おじさんは笑った。
「一度、アイエヴォをやってみてよ。嵌ると思うんだけどな」
「気が向いたら」
おじさんは一万円をレジカウンターに置いて、おつりは要らないと言って出て行った。残業代には十分だね…。
約一分後に、男の子がトイレから出てきた。
「あれ?」
「先に帰られました。お礼を言ってたよ」
「あ、そうですか…」
寂しそうだな。 ホントに別れるのかな? それとも三人で交際を続けるのかな?
「じゃあ俺も…」
男の子が飾りだけの古いレジスターをめずらしそうに眺めながら、綿パンの後ろポケットから財布を取り出した。
「あ、お代は、Mint父にお支払い頂きましたよ」
「あ、そうか、…ありがとうございます」
あたしにお礼を言われてもな…。
「それじゃあ、あの…さようなら」
「ありがとうございました」
「あの…」
「はい?」
「遅くまでごめんね、ありがとう」
「…彼女さんと仲良くね」
「あ、うん… 君も…誰かとその、仲良く」
…変な事言うね。 でも、いいコだな。たぶん年上だろうけど。
Mintとも仲良くね、と言ってやりたかったが、やめとこう。
控室に入って、ロッカーから自分のデイパックを出した。閉店時間を過ぎて、タイマー設定されているエアコンがとうに切れていたせいで、店内はひどく冷えてきた。
もう十時前じゃないの、さっさと鍵をかけて、店長のところに返しに行って、狭いワンルームに帰って、熱いシャワーを浴びてから寝よう。
あたしはスマホを取り出して、AI-Evoのアイコンに指先を置いた。
タップしたのか、ドラッグしてアンストしたのかは… 教えない。
終わりです




