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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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デビューを目前に控えて

 もうそろそろ、学年も変わろうというころ、私たちは焦り始めていた。

 夏休みからの約半年、個人で、そして、奏音と二人、ユニットとしてレッスンをこなしてきた。

 体力はついてきたし、振り付けも、歌も、叩きこんできた。一応、成長期であることを考えて、衣装の最終調整的な採寸なんかは後回しになっていたんだけど、それも問題ないと言われている。

 

「詩音さん、奏音さん、ふらふらしすぎです。もっと、体感を意識してください」


「はい」


 より気合が入っているように、厳しさを増すコーチ陣から、鬼のような激が飛ばされる。

 それ自体は嬉しいことなんだけど、デビューのステージが近づくにつれて、日に日に、その頻度が上がってきている。

 まだあと半年あるからそれで修正できれば問題ないと考えるのか、もうあと半年しか猶予はないのにこんな出来で大丈夫なんだろうか、とか。今は後者の気持ちのほうが大きい。

 

「お二人とも、デビューを目前に控えて難しいかもしれませんが、張り切りすぎたり、気負いすぎたりしないでくださいね」


 蓉子さんはそう言ってくれるけれど、言われていた五番以内に入るという目標には、二人とも、まだ少し届いていない。

 少しっていうのは、私たちの感覚とか、ふんわりしている話じゃなくて、由依さんたちのテストの評価シートを見せてもらって、私たちのものと見比べた結果だ。

 もちろん、違うアイドルであって、強みも違うんだから、評価に差ができるのは当然なんだけど。 

 それでも、総合的に判断すると、チャート(歌唱、ダンス、タレント力、コミュニケーション、ネット及びSNSの注目度、カリスマ性)のグラフがひと回り小さい感じというか。

 まあ、タレント力とか、ネットでの注目度なんかは、すでに活動していて、メディアや世間に顔出しもしている『LSG』に勝る部分がないわけだけど。私たちは、せいぜい、事務所のSNSにちらりと映りこむくらいで、実績はほとんどゼロだからね。

 もちろん、目に見える点数なんて気にしすぎても仕方ないっていうことはわかっているんだけど、養成所の順位が、まさに、その点数で決められているから。

 評価には明記されない、というより、本番でなければ測ることのできないものも、確かに存在するわけだけど。たとえば、ステージ上での存在感(しいていうなら、カリスマ性に入ってくるのかな?)とか。

 

「蓉子さんから見て、私たちの出来はどうですか?」


 奏音も多分、私と同じように不安になっているんだろう。

 デビューを迎えることに対する不安、その後のアイドル活動への迷い、ほかの先輩アイドルと比べて落ち込んだり、ファンに対する責任感、レッスンでのストレスなんかが絡み合って。

 

「そうですね。おふたりとも、アイドルを目指して、この養成所に入られたわけですよね。ですから、今はただ、その夢が叶う第一歩として、ステージを、アイドル活動をするということを、ただ楽しんでください」


 蓉子さんは、出来に対しては、言うまでもないとばかりに触れることなく。


「事務所からのプレッシャーも、お客様、ファンの人たちからの期待も、同じ事務所、養成所の友人、ときに、ライバルであるメンバーに対する責任感も、なにも考えず、純粋に自分たちがステージに立つんだという喜びを胸に」


「それは」


 たしかに、そのとおりなんだと思う。

 だけど、実際、自分がその立場になってみて、どうしても、プレッシャーに感じてしまうというか。


「あの、聞いておきたいんですけど、私たちがデビューするステージって、どんな場所なんでしょう?」


 たとえば、『LSG』みたいにフェスの会場なのか、テレビに出演するのか、ライブハウスみたいな場所なのか、それとも、SNSでのライブ配信になるのか。


「そうですね。お祭りです」


 蓉子さんが見せてくれたのは一枚のチラシ。

 

「春先に近くの公園で桜祭りという催しがあるのですが」


 それは知っている。

 毎年、でもないけど、昔は行っていたこともあるし、我が家の、というか、おそらくは、この地域の家には、地方担当の行政からチラシが配られるから。

 もっとも、今、こうしてこの事務所にも届けられているのは、仮のものだろうけど。

 

「そこのステージの構成の一部として、『ファルモニカ』のデビューライブの枠があります」


 私たちで考えたいくつかの案を蓉子さんに渡して、一度、大人の間でも協議されて、再び私たちに戻されて話し合った結果、『ファルモニカ』というのが、私たちのユニット名になった。

 

「枠の都合上、パフォーマンスは一曲だけですが、その後、来てくださった方と交流、といっても、握手や挨拶程度のものですが、その機会があります」


 他には、ヒーローショーやら、演歌やら、バンドのライブ、漫才、などが予定されているらしい。

 あとは、当日、雨が降らなければ。

 屋外でのステージである以上、雨に限らず、天候の不安は直前まで払拭できない。

 

「桜祭りというだけあって、その公園は、その前の道から桜並木が続いていて、タイミングが合えば、満開の桜のもとでのステージとなることでしょう」


「それは素敵ですね」


 考えただけでも笑顔になるステージだ。

 

「失礼します。こちらに運ぶよう言われたのですが」


 その確認をしている最中、小さく扉が開かれて、声が掛けられた。

 

「はい。ありがとうございます」


 蓉子さんが対応してくれて、受け取った荷物は。


「おふたりの衣装ですね」


「えっ」


 私も奏音も目を丸くした。

 こんなに早くに出来上がってくるとは思っていなかったから。

 

「デザインは『LSG』と同じなんですね」


 白を基調とした、フリルのたくさんあしらわれた、丈の短いドレスのようなデザイン。

 これは、デザイン代をケチったとか、使い回しとか、そういうことじゃなくて。


「もしかして、一緒のステージに立つかもしれない、ということまで考えているんですか?」


 私も考えていたことを、奏音が口にする。

 ようするに、まだ先のことかもしれないけど、ゆくゆくは、事務所の合同ユニット、みたいなステージもあるんじゃないか、ということだ。

 

「奏音さん。まだ、そんな先のことを考えるのは、気が早すぎますよ」


 蓉子さんがやんわりとした笑顔を浮かべる。

 いや、蓉子さんはいつも基本的には笑顔を絶やさないんだけど、それにもバリエーションがあることを、最近、なんとなく、わかるようになってきた。

 ようするに、今は目の前の、デビューステージという大役を見事にこなすことに集中しろ、ということだ。

 実際、私たちだって、ほかのことを気にしていられるほどに余裕があるわけじゃない。

 数をこなしていけば、いい意味で、慣れてくるのかもしれないけど、なにしろ、今回が初めて。まあ、由依さんたちのおまけみたいな感じでステージに立ったことならあるけど、あれは、数には入らないだろうし。

 とはいえ、否定されたわけでもない。

 

「はいっ」


 奏音が姿勢を正す。

 

「そういうわけですから、おふたりには、今日からもう一曲、新曲の練習もしていただきますね」


 それは、『LSG』との合同のステージでの歌だということだろう。

 でも、それって。


「それは『LSG』と一緒に練習しないと意味がないのではありませんか?」


 私と奏音だけじゃない。

 

「はい。もうすぐいらっしゃるはずです」


 そう、蓉子さんが言った直後。


「おはようございます」


 事務所の扉が開いて、由依さんたち『LSG』の四人が入ってきた。

 最近は、由依さんたちは言うに及ばず、私たちも忙しくて、事務所でも、レッスンでも、あまり顔を合わせる時間がなかったけど。



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