ユニット名を考える
◇ ◇ ◇
結局、私たちのデビューに関しては、気持ちの問題なんだと思う。
奏音の言っているように、私に自信がないということが。
それでも、なにかを成し遂げて、自信をもって、アイドルというステージに立ちたい。その方法が、ダンス、歌唱で由依さんたちよりも高い評価を得る、ということだ。
たしかに、壁はある。でも、自分の能力を冷静に評価してみて、決して、絶対に届かない目標、というわけでもないはずだ。
地力は『LSG』のほうが上かもしれないけど、今、仕事で忙しく、レッスンの密度では勝っている私たちにも、チャンスはあると思える。
所属して半年程度の私が、数年は研鑽を続けている由依さんたちを相手にそんな風に思うのは、おこがましいとか、身の程知らずという人もいるかもしれないけど、思って、口にするだけなら自由だから。
ビッグマウスだと笑われるかもしれないけど、これはむしろ、退路を断つ覚悟でもある。
もちろん、負けたらアイドルを目指すのを辞めるとか、そういう話じゃないけど。
「一年後に勝つなんて言ってられないよ。次、勝とう、詩音」
「やる気十分だね、奏音」
私だって、やる気はあるけど。
でも、パートナーとの気持ちに差がない、同じ志を抱いて課題に取り組むことができているのは良いことだから、まず、最初の問題はクリアしているのかもしれない。
もっとも、それに関しては、私のほうに問題があったわけで、最初から奏音はやる気だったけど。
笑いたい人には笑わせておけばいい。
「必要なのは、レッスン時間の確保だけど、もう、夏休みも少ししかないし」
学校が始まれば、今みたいには、レッスンの時間をとることが難しくなる。
奏音とは学校も違うし。
それは『LSG』も同じだろうけど。
「じゃあ、息を合わせるためにも合宿しない?」
奏音が得意げな顔で提案してくる。
「合宿って、事務所に泊まり込むってこと?」
ここ、宿泊設備もあったっけ?
毛布くらいはあると思うし、一応、レッスン室にもマットはあるけど。
「違う違う。詩音、うちに泊まりに来ない?」
「え? 奏音の――如月家にってこと?」
奏音は笑顔で頷いて。
たしかに、ビデオ通話越しに練習するのには限度があるし、一緒にいるほうが相談なんかもしやすいっていうことはわかる。
あと、単純に友達とお泊りっていうのも、初めての経験だし。
「それは楽しそうだけど、すぐには頷けないかな」
私も両親に確認しないといけないし、奏音だって、ご家族に許可をもらわないといけないでしょう。
「じゃあ、詩音の家は?」
「うち? それなら、まあ……って、同じだからね? 両親は許可してくれると思うけど、奏音がご家族に許可をもらわないといけないのは変わらないでしょう?」
それとも、今思いついたみたいに提案してきたけど、奏音の家のほうでは、すでに話をつけてあったとか?
いや、それなら、月城家に泊まりにくる、みたいなことは言い出さないはずだし。
そもそも、いきなり今日っていうのが……たしかに、奏音はいつやるとは言ってないけど、このテンションは、今日さっそくって感じで間違いないよね。
まあ、そもそも、デビューだなんだのっていう具体的な話をしたのは、今日が初めてだったわけで、事前に考えるもなにもないわけだけど……思い立ったが吉日とも言うからね。
「聞いてみるから、待ってて」
とりあえず、両親に確認しないと、ということで、メッセージを送っておく。
私は夏休みだけど、お父さんも、お母さんも、普通に仕事があるわけで。
そう思っていたけど、返事はすぐに来た。
「『いいわよ』って、早っ。奏音」
「どうだった? 大丈夫そう? やったあ!」
待ちきれない様子で、私のスマホの画面を覗き込んできた奏音が抱き着いてくる。
そんなに喜ぶような……べつに、咎めるようなことでもないんだけど。
これは、もともと、私の家に泊まりに来るつもりだったんだね? まあ、良いんだけど。すこし睨んだら、奏音は嬉しそうにしてたし。
「お泊りって、わくわくするよね」
「奏音。遊びのつもり?」
一応、息を合わせるために、共同生活してお互いのリズムを知るとか、好きや嫌い、得意、苦手、そんな感じのことを知っていくっていうのが、目的であるはずなんだけど。
「相変わらず、超真面目だね、詩音。あっ、褒めてるんだけどね」
わざわざ、付け足すところが怪しいけど、奏音が嘘をついていないことはわかっている。
真面目っていうか、この状況なら誰でもこうなると思うんだけど。
まあ、奏音が、内心ではどうあれ、緊張とかを表に出していないようにみえるのは、そのとおりで、それは、アイドルとして見習うべきだとは思う。
もちろん、単純に奏音の性格、ということも考えられるけど。
「自分が楽しまないとお客さんにも楽しんでもらえないって言っていたのは詩音でしょう」
「お客さんって、うちに泊まりにくる奏音のことじゃないんだけど……」
練習でできないことは本番でもできたりしない。
まあ、稀に、勝負強かったとか、雰囲気に押されてとか、そういうことはあるかもしれないけど、基本的に、実力どおりのことしかできない。
「細かいことは気にしなくていいんだよ。それとも、詩音は私が泊まりに来たら迷惑?」
その聞き方はずるいと思う。
私だって、奏音とのお泊りが楽しみじゃないわけじゃないから。
「本当は、由依さんたちも誘って、ユニットとしてのステージの秘訣とかを詳しく聞きたかったり、朱里ちゃんとも一緒にお泊りしたかったけど」
それはより楽しそうだけど、さすがに、無理があるから。
いや、うちじゃなくて、この事務所に泊まり込んで合宿みたいなことなら、できなくもないのかも……?
まあ、でも、それはまた今度にして、今回は。
「とりあえず、ユニット名はちゃんと考えないとね」
さすがに、本格的に活動するとなれば『奏音&詩音』のままでっていうわけにもいかないだろうし。
それも悪くはないだろうけど。この上なく、わかりやすいし。
「詩音はなにかアイディアあるの?」
「うぅん……前にも言ったかもしれないけど、『ハーモニクス』とか、『ファルモニカ』とか?」
なんというか、安直すぎるとは思うけど。
あとは『ensemble』とか……まあ、重なる音は二つしかないから、すこしボリュームがなあ、とは感じるけど。
とはいえ、せっかく、偶然にしても、名前がなんとなく似ていることは事実だから、それを利用できないこともないとは思っている。
「詩音は音楽好きだよね」
「それは、奏音だってそうでしょう」
奏音だって、歌が大好きなはずだ。
「けど、ユニット名なんて単純でいいのかもね。そっちのほうが覚えてくれやすいだろうし。埋もれさせないようにするのは私たちの努力次第だし」
「結局、最終的に決めるのは、事務所のほうだからね」
他の事務所も同じなのかとか、それはわからないけど、すくなくとも、由依さんたちの『LSG』は、由依さんたちの意見も聞きつつ、最終決定は事務所のほうだったらしいから。
「ユニットに新しくメンバーが加わるってことになったら、その相手も、名前に『音』がついてたりするのかな?」
「いつの話をしているの、奏音」
少なくとも、今の養成所の生徒で、名前に音がついているのは私と奏音だけ。
とはいえ、そんな基準で私たちのユニットを決めたわけじゃないだろう……私と奏音が仲良くなったのは、名前のことがまったく関係していないわけでもないけど。要因の一つといったところかな。
まあ、それは、いいとして。




