要研鑽、要検討
テストの成績で五番以内に入る。周囲を認めさせる条件としては、妥当なものだろう。
なぜなら、『二人とも五番以内に入る』という条件は、私と奏音が、現状の養成所のトップである『LSG』の四人に勝たなくてはいけないということだから。
今月が歌のテストで、奏音だけという条件であれば、確実だろう。奏音の歌唱力は、とっくに養成所レベルじゃないから。
対する私は、この前のテストで、ようやく十番以内に入った程度。
条件の難易度としては妥当だとしても、現実的に可能かどうかは。
むしろ、そんなに簡単に――ではないかもしれないけど、抜かされてしまうような人に、デビューをさせようなんて思うだろうか。
それだけ、事務所としても『LSG』のメンバーに信頼を寄せているということだし。
もちろん、いずれは、それも、そんな、十年とか、のんびりとした話じゃなくて、由依さんたちにも勝つつもりだけど。
「蓉子さん。一年間でデビューまでの水準に達するというお話しは、わかります。そもそも、実力が達していないのであれば、デビューしたとしても、芸能界で生き残っていくことができませんから。ですが、私たちの自信とか、やる気とか、そういう気持ちだけの問題では、『LSG』のメンバーには及ばないと思います」
むしろ、そんなにすぐに追い越されるようなら、デビューなどとは考えないだろうし、この前の件とは関係なく、私たちに直接、もっと具体的に話がきているはず。
つまり、これは。
「ちょっと、詩音。なんでそんなに自信なさげなこと言うの。これは、チャンスなんだから――」
「むしろ、奏音が急ぎすぎだよ」
デビューっていうのは、夢の一つだから、落ち着かなくなるのもわかるけど。
「チャンスはそう何度も転がってこないっていうことはわかるよ。でも、今回の話は、この間突然ステージに立つことになったのとはわけが違う。むしろ、一年間、しっかり準備する時間をもらえたって考えるべきじゃないかな」
前回のテストはひとつの基準になるとしても、まだ、私たちに基礎ができていないというのは確かだから。
デビューしてしまったら、その後はもう一直線で、実力がなければ、埋もれていくだけだ。
そして、デビューしたなら、今ほどには、レッスンに時間を割くことも難しくなる。由依さんたちが、いろんな収録やらに引っ張りだこになっていることを考えたなら、明らかだ。
それは、研鑽の時間が減るということ。
「もちろん、いつだって、一番をとるつもりでレッスンも、テストも受ける。それは変わらないよ」
「でも、事務所のほうには私たちに関する情報を求める声がいっぱい来てるんでしょ? そっちはどうするの? それに対処するために、私たちもデビューって話になったんじゃないの? それに、求めてくれる人がいるなら、応えるべきじゃない?」
それは、確かに事務所は大変かもしれない。
だけど。
「奏音。事務所にきているものへの対応は、事務の、スタッフさんたちが対応してくれるよ。そのために、事務所に所属しているんだから」
これも、今の『LSG』への対応を見ていれば、よくよく考えてみれば、推測はできる。
アイドル自身が、直接、そういった出演なんかの応対を任されることはない。彼女たちの仕事は、あくまでも出演だから。
むしろ、そういう裏方の仕事を引き受けて、アイドルにそっちの師仕事に集中させてより良いパフォーマンスを引き出すことが、マネージャーの仕事でもあるんだと思う。
そのうちの、私たちに回されたものだけを、しっかりこなしていけば。
頼りきりで、申し訳ない気持ちはあるんだけど。
「奏音は、今の私たちが『LSG』に敵うと思う? それとも、見劣りしないくらいの実力があると?」
「それは……」
ユニットの人数の差、というのは、あまり関係ない。
歌やダンスの完成度、ファンや観客への対応、業界関係の知識、そのほかにも、いくら、事務所、そして、マネージャー、トレーナーがいてくれるとはいえ、私たち自身でも身に着けるべき技術や知識がまだまだ、最低限にも達していない状況では、デビューなんてできない。
そういった勉強も含めて、まだ、見習いという立場でいられる間だからこそ、できることもあると思う。それらを学んで、身に着けるための時間だと思えば良いんじゃないかな。
学校の授業だって、いきなり、中学三年生の勉強から始めたりしないでしょう? 小学校とか、中学一年、中学二年の積み重ねがあって、初めて、学ぶことになるわけだから。
私たちにもそういう、基礎の部分は必要だと思う。
年齢は関係ない。同じ芸能界という場所、同じ事務所、同じアイドルとして、世間からは見られるわけだから。
だから、今月末、というのはまだ難しいとしても。
「由依さんたちだって、たしか、それは、グラビアのモデルとしての仕事はべつだけど、五年くらいはレッスン期間を設けていたってことだし。それを考えたなら、それに、やることをやっていたら、一年なんて、あっという間だと思う」
それに、それだけ時間をかけて、デビューの準備もしてくれるなら、より良い状態でデビューできると思うから。
「それに、どうせなら、事務所の皆にも認めてもらいたいでしょう? だから、一年間で皆に認めさせようよ」
ちらりと蓉子さんの顔を窺う。
もしかしたら、同じように発破をかけるつもりで、養成所の生徒のほとんど全員へという形で、伝えているのかもしれない。
でも、それはそれで、歓迎だ。
相手の実力が高いほど、デビューやらの壁も高くなるけど、それは、私たちにも吸収できることがまだまだあるということ。いろいろな、アイドルを見られるということ。
「それに、来年のデビューでも、養成所の最年少でのデビューってことには変わりないよ」
「べつに、そこにこだわっているわけじゃないんだけど」
まあ、まだ、出来立ての事務所で、『LSG』が最初のデビューアイドルだっていう状況で、最年少もなにも、関係あるのかって感じだけど。
「……わかったよ。詩音がそんなに考えているんなら、私は詩音に賛成するよ。たしかに、作詞とかも勉強したいし」
「うん。やるからには、最善を目指し続けよう」
今からの一年間で、どれだけのクオリティを上げられるか。
歌やダンスだけじゃない、トークも、ファッションセンスも、体力も、なにもかも。
「最善? 最高じゃないんだ?」
「最高なんて言ってたら、それ以上がなくなっちゃうから。気持ちの問題かもしれないけど」
どれだけやっても、レッスン以上の実力なんて、出たりしないんだから。
漫画やアニメじゃないんだから、突然、ステージの上で覚醒して、今までできなかった難しく美しいステップができるようになるとか、歌唱力が身につくとか、そんなことはない。
「あっ、もちろん、自分たちのパフォーマンスについてのことだよ? 来てくれたお客さんたちへとか、用意されたステージとか、準備してくれて、手伝ってくれているスタッフの人たちとか、そういうことには、いつだって、最高だったって感謝を伝えないと」
そう結論して、私と奏音は蓉子さんへと向き直り。
「すみません、蓉子さん。二人だけで勝手に話をしてしまって」
「いいえ。詩音さんのアイドルにかける想いが伝わってきました。もちろん、奏音さんも」
微笑む蓉子さんとは違って、奏音は少し落ち込んでいるみたいだけど、話が終わってから聞こう。
「本来、マネージャーの仕事というのは、今、詩音さんが話してくれたような、計画や、アイドルの状態についてのことも、ケアの対象になっているのですが、そこまでしっかり考えているのでしたら、大丈夫ですね。むしろ、こちらが突然すぎたと反省しているくらいです」
蓉子さんはゆっくりと私と奏音の顔を見つめて。
「時間をかけるときに最も注視しなければならないことは、モチベーションの維持ということですが、おふたりなら問題はなさそうですね。ですが、一応、この件はスタッフ一同、そして、社長とも共有して、その上での検討、という形にはなるかと思います。おふたりの意見を尊重するつもりではありますが、どうぞ、ご理解ください」




