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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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ファッションモデル 冴霧沙織

「由依?」


 一旦、ステージを観終えて、少し移動しようとしたときに、そんな声が聞こえてきた。

 これだけの人が集まっているんだから、同じ名前の人がいてもおかしくはないけど、由依さんは脚を止めて。


「沙織さん。おはようございます」


 知り合いなんだろうか? と、私もそのお相手――由依さんの感じからして、業界的に先輩にあたる人なんだろう――へ顔を向ける。

 

「うん、おはよう。こんなところで会えるなんて、偶然。ステージは見る予定だったけど」


 由依さんも身長は高いほうだと思うけど、その由依さんより、さらに高い、多分、百七十センチの後半くらい、もしくは、百八十センチも超えているのではないだろうかという、私からすれば、巨人とも思えるくらい。

 体型は細身、だけれど、やせ過ぎということではなく、健康体というか。

 私が、今までの長いとは言えない人生の中で出会ってきた女性の中でも、一番、身長が高い。


「見てくださったんですか? ありがとうございます」


 由依さんは口元をほころばせる。

 こうして二人が並んでいると、すごく絵になるなあ。

 

「うん、見た、よ。歌とか踊りとかパフォーマンスとかには興味ないけど、由依の着こなしと魅せ方には興味あったから」


 この人、なにをしに来ているんだろう? 

 アイドルフェスに来ておきながら、歌にも、踊りにも、パフォーマンスにも興味ないって。

 着こなしと魅せ方って……それだけ?

 もちろん、人によって楽しみ方なんてそれぞれだろうけど、わざわざ、このイベントに来ておきながら、本当に由依さんにしか興味がないって。

 追っかけみたいなファンじゃなさそうな雰囲気だけど。


「紹介するわね。こちら、ファッションモデルを専門に活動している、冴霧沙織さん。私よりも三つ年上で、私も何度かファッションモデルのお仕事でご一緒させてもらったこともあるの」


 モデル、と一口に言っても、種類はいくつもある。

 ファッションモデル、グラビアモデル、ランウェイモデル、コマーシャルモデル、ボディモデルなどと、主戦場により、表現が変わる。

 ファッションモデルというのは、ブランドイメージをショーで伝えるとか、商品撮影や広告撮影、ポートレートなんかを主に取り扱っている。美しさやスタイル、親しみやすい笑顔だったり、自然な表情が求められるそう。

 グラビアモデルは、雑誌などの、いわゆる、グラビアページで活躍するモデルやアイドルのことで、美しさやスタイルのほかに、表現力や演技力も求められる、らしい。

 他はともかく、沙織さんと由依さん(それから、真雪さんもだけど)が主に活動しているは、そういう場所だ。


「そう。あの、沙織さん。私たち、午後にもステージがあるのですけれど――」


「それは、もういい。さっきのと変わらないんでしょう? だったら、見る必要はない。私がここに来たのは、由依と、それから、まあ、真雪に会えるかもしれないと思ってのことだけだから。それで、ステージを見て確信した。やっぱり、由依はアイドルなんかで媚びを売るより、モデルだけに専念したほうが良い」


 沙織さんがその言葉を言い切るより早く、由依さんの手が私と奏音の口を塞いでいた。その意味がわからないわけではない。

 

「グラビアにしたってそう。由依なら、わざわざ、脱がなくたって、十分やっていけるのに。もったいない」


 沙織さんは私と奏音を見ると。


「あなたたちも、見た目という意味では素質は十分そう。もう少し大きくなったら、由依とも一緒に、こっちでやってみない?」


 こっち、というのはモデル業に専念してということだろうか。

 

「私の事務所でよければ、すぐに移籍の手続きはできる。アイドルとしてとか、グラビアモデルとは、私たちと求められる体型が違うから、できれば早いほうがいい。連絡先は由依が知ってるから」


 それだけを言い残すというか、捨て台詞のように呟いて、沙織さんは歩いて行ってしまった。

 その姿が完全に人混みに塗れて見えなくなってから。


「なんなんですか、あの人」


 奏音が憤りを超えて、怒りともとれるような調子で、由依さんを見つめる。見つめるというか、詰め寄るというか。

 私も、口には出さなくても、同じような気持ちだった。 

 

「沙織さんはちょっと、悪い人じゃないんだけど、誇り高いというか、えっと、プロ意識が高い人だから……」


 由依さんは大分言葉を選んでいたと思う。

 彼女との個人的な交流のない私たちにとっては、偏見的な、いっそ、言葉を選ばないのであれば、差別的なと言っていいような感情を向けられたように感じられたから。

 少なくとも、馬鹿にされて、なんて簡単な話じゃなかった。

 

「私は、グラビアモデルとファッションモデルの違いなんて、せいぜい、布の量くらい、あとは、理想の体型が少し違うところもあるかもしれないけど、その程度だと思っているのだけれどね」


 どうしたものかしらね、と由依さんが小さい溜息を吐き出す。 


「それは、由依さんが気にすることではないような気もしますけど」


 普段は、もっと過激に意見をぶつけ合っていたりするんだろうか。

 あんまり、由依さんのそういう姿は――真雪さんなんてそれ以上に――想像できないけど。

 

「それにしては、アイドルや、グラビアモデルが、ファッションモデルより下みたいな物言いに聞こえましたけど」


 奏音ははっきり言う。由依さんも苦笑してるし。

 

「詩音だって、むかついたでしょう?」


「それは、なにも感じなかったって言えば、嘘になるけど」


 自分の仕事にプロとしても誇りを持っているところは、尊敬できるところだし。

 正直、初対面で、詳しい話を聞いたり、こっちから言ったりしたわけじゃないから、そこまではっきりとした感情はないっていうか。

 アイドルなんか、とか、媚を売るのが仕事、みたいに言っていて、なんだ、この人? って思わなかったわけじゃないけど。

 

「下世話な話にはなるけれど、単純なギャラのことだけなら、グラビアモデルよりもファッションモデルのほうが高いということは事実よ」


 由依さんが言うには、実際に桁が一つくらいは違うらしい。

 もちろん、平均的な話で、個々人の人気なんかが左右することは、言うまでもないけど。


「数字至上主義みたいな人なんですか?」


「そこまでではないと思うけれど、布の面積が増えてこそでしょ、みたいなことを言っていたことはあったわね」


 布面積の話だけなら、アイドルの衣装なんて、フリフリがたくさんありますけど? まあ、そういう話ではないんだろうね。

 すごく極端な話で、私たちにわかりやすくしてくれているんだろうということはわかるけど。

 

「アイドルのことも、コスプレか、余計なものを付け足した不純な見せ物、くらいに思っているのかもしれないわね」


 余計っていうのは、歌とか、ダンスとか、パフォーマンスのことだろうか?

 これもきっと、柔らかい感じに言い直してくれているんだろうな。それでも、大分、あれだけど。

 

「それは、そもそも、仕事が違うんだから、仕方ないというか、由依さんも言っていたとおり、比べるようなものではないんじゃないですか?」


 見せて稼ぐ額が高いほうがすごいっていうことなら、スポーツ選手のほうがすごいっていうこと?

 たしかに、アイドルはアスリートみたいなところはあるけど、それは違うし、比べるものではないような。 

 プロの興行という点だけ見れば、同じようなものかもしれないけど。 

 価値観の違いって言えば、それまでなんだろうけど、なんだかね。 

 

「そろそろ戻りましょうか。私たちには私たちの仕事があるし、準備も必要だものね」



 

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