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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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一番かどうかはともかく、気になるところ

 もったいないことをしているのはわかっている。

 自分たちのステージの動画は後からでも見返すことのできるもの。由依さんたちのステージだって、動画には撮られているだろうけれど、今、生で見られるものだ。どちらを優先するべきなのかは、頭ではわかっているんだけど。

 

「動きが硬いね」


「うん。表情も」


 それでも、たった一曲分だけしかステージに立っていなかったということもあって、座って、飲み物を口にしながら自分たちのステージの動画を見返していると、口は動くようになる。

 貴重だというのなら、終わった直後に、こうして振り返りができることだって、違いない。

 

「それと、初っ端で先取りしてるよね」


「うん。すぐに修正できたけど。でも、私も詩音も、同じタイミングで先取りしてたからだよね」


 二人がずれて先取りしていたのなら、ダンスもずれたものになってしまっていただろうけど、奇跡的にというべきか、同じレッスンをしているんだから、当然というべきか、私と奏音が先取りしたタイミングは、全く同じで。

 フレームにすれば、一音分もなかっただろうずれは、すぐにステージ上で合わさって、誤魔化されたようにわからなくなったけど、他でもない、私たちにはわかってしまう。

 

「ある意味、息は合っていたっていうことだけどね」


「やっぱり、レッスンが足りなかったんだ……」


 肩を落とす奏音は、それでも、泣いたりはしなかった。もちろん、私だって。

 そんなみっともない姿、たとえ、ステージ裏に引っ込んでいても、見せられるものじゃないからね。

 

「あと、声も、スピーカーで誤魔化されてるけど、私も全然、準備不足だったな」


 奏音はため息をつき。


「スピーカーの音楽と、お客さんの声援とで、かき消されそうになってたもんね」

 

 ステージの上で、自分たちで歌っていて、聴くほうには気が回っていなかっただけだと言えば、そのとおりかもしれないけど。

 実際、動画を見返せば、私たちの歌声は声援とか、BGMに負けずに響いているわけだし。

 それはつまり、緊張して頭が回っていなかったからということだ。

 

「ここの立ち位置がちょっとずれてるよね」


「手の角度が小さいね。もっと全力で挙げないとだめなところだった」


 でも、こうしてすぐに見返すことができるのは助かる。 

 なんといっても、午後のステージまでに修正できるからね。

 

「奏音、もう大丈夫そう?」


「詩音、ちょっといい?」


 変わらず、私たちの息はぴったりで、わざわざ、確認し合うまでもないことは、お互いの表情を見ればすぐにわかった。

 奏音、体力お化けかな……? とは思ったけど、そんなはずはないから。


「あの、蓉子さん」


「どうしましたか、詩音さん」


 この場では、マネージャーのような担当もしてくれている蓉子さんへの確認は必要になる。 

 ここでリハーサルをしすぎて、ステージに影響が出るようだと、本末転倒だから。

 

「今のステージを奏音と一緒に振り返って見ていたんですけど、納得のできないところがあったので、調整をしたいのですが」


「そうですね」


 蓉子さんは、私と奏音を上から下までしっかりと見て、失礼しますね、と頭を両側から挟んで、右を向けたり、左を向けたりと確認されて。


「体力的には問題ないと思いますが、この気候です。スタッフの方に一人以上はついていてもらって、水分補給は忘れずに、食事もしっかりとるようにしてください。こちらは簡単に摂ることのできるゼリー飲料です。それから、身体は絶対に冷やさないように。少し暑いかもしれませんが、薄手の上着は羽織ってください。熱中症には気をつけて、こちらに、小型の扇風機を置いておきます。私たちも、午前のステージが終わり次第、合流しますから」


「ありがとうございます」


 蓉子さんはそれだけ、怒濤のように言い残して、ステージのほう、由依さんたちのところへ慌ただしく向かう。

 もちろん、仕草からは慌ただしさなんて微塵も感じさせない、落ち着いた様子だけど。

 

「なんというか、至れり尽くせりって感じだね」


 蓉子さんの行く先を見送った奏音は、上着を羽織り、扇風機を置いた机の前でゼリー飲料を咥える。

 そうして、ようやく一息付けた私たち。


「お疲れさま、奏音」


「お疲れ、詩音」


 まだ、一つステージが終わっただけだけど、お互いにねぎらいの言葉をかける。

 気が抜けたとか、そういうことじゃなくて、ずっと集中しているままの状態だと参ってしまう可能性が高いから、気を抜くためにもね。 


「蓉子さんにあんな風に言われた後だと、さすがに、リハーサル的なことはできないよね」


「うん。休んでいてくださいって言ったじゃないですかって、怒られるよね」


 だから、するとすれば、頭の中でのイメージの構築だけになる。

 実際のステージの広さとか、音響とかは、立ってみて、歌ってみるまではわからなかったことだから、そのへんを詰める感じかな。

 

「奏音さん。アイドルとしての初めてのステージの感想はいかがでしたか?」

 

 マイクを持っている体で、奏音に右手を差し向ける。

 

「正直、あんまり覚えていないんですよね。自分のパフォーマンスだけにいっぱいいっぱいで。急、というほどでもないんですけど、他のことを気にかけている余裕はありませんでした」


 それでも、咄嗟にのってくれる。

 

「詩音さんはどうでしたか?」


 今度は奏音に握った拳を向けられて。


「そうですね。ユニット名はもう少し考えておけばよかったと思っていますね」


 わかりやすさという意味では、これ以上ないと言えるようなものだったはずだけど。

 とはいえ、今のところ私たちには、実績と言えるようなものはほとんどないから、『しおん』とか、『かのん』で調べたところで、全然関係ないことしか出てこないだろう。

 一応、事務所のホームページには、宣伝として、載せられる可能性はあるけど、今、見たステージを評価してくれて、誰なんだろうと調べようとしてくれたとしても、ヒットするものはないだろう。

 由依さんたちは、由依さんと真冬さんがグラビアなんかで活躍しているから、それから、個人のSNSなんかもあるわけで、それなりに情報は手に入りやすくなっているはずだけど。


「一番気になるところってそこなの、詩音?」


「大切なことでしょ。個人の名前だってそうだけど、ユニット名だって認知されるのには必須なんだから」


 もちろん、歌とかダンスなんかのパフォーマンスだって、気にしてるけど。

 

「あ、それじゃあ、事務所のSNSに、私たちで出演しますってコメントしておく?」


 奏音が名案、とばかりに、顔を輝かせる。

 私たちは、まだ中学生だからということで、個人的なSNSの利用は制限されているけれど、事務所の公式にコメントを残すことは禁止されていない。あとは、公式の動画チャンネルにも。

 さすがに、動画を撮る元気はないけど、百四十文字に満たないメッセ―ジを綴るだけなら。

 どうせ『初ライブ? 終了!』みたいなコメントを残すだけだし、とくに咎められたりもしないんじゃないかとは思うけど。

 

「詩音、写真撮っていい?」


「いいけど、奏音も写らないと意味ないんじゃない?」


 ユニットで出たんだから。


「ああ、そっか。詩音だけで画面映えが完璧だったから忘れてた」


 そんなことあるかな? SNS用と言いつつ、奏音が個人的に写真が撮りたかっただけなんじゃ……? 追及はしないけど。

 べつに、撮りたいなら、奏音なら、ひと言声かけてくれれば、拒んだりはしないけど。

 

「一応、蓉子さんに確認とってからにしてね」


「わかってるって」


 


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