サプライズでのデビュー?
そういうわけで、私と奏音で一曲分、歌ってダンスを披露した。
もともと、練習に来たつもりだったわけだし、身体を動かしたりできるのは、こっちとしても望んでいたことだ。
「悪くないわね」
それが、六花さんからの第一声だった。
つまり、一応は見られる程度のものではあったけど、取り立てて評価するべきものも――良いも悪いも同様に――なく、平凡なものだった……なんていうと、卑屈すぎるかもしれないけど。
「あ、ごめんなさい。勘違いさせたかもしれないけれど、二人のステージはすごく素敵だったわ」
六花さんは、どうしよう、みたいな顔で、あとの三人へ顔を向ける。
「そうね。やっぱり、奏音のほうが歌を詩音に合わせている感じはしたけど、全体で見れば綺麗にまとまってはいたんじゃないかしら」
やっぱり、純玲さんもそう思ったんだ。
それに、やっぱり、ということは、前にも私たち二人のパフォーマンスのことを認識してくれていたということ。
そのくらいで喜んでいたらいけないんだろうけど。
「それも、前に見たときよりは良くなっているわよ。だから、そう悲観することじゃないわ、詩音」
それも多分本音で言ってくれているんだろう。
たとえば、奏音の歌が百五十点だとして、私の歌を、まあ、八十点くらいとするなら、八十点を九十点にするほうが、百五十点を百六十点にするよりは簡単だろうから。
そもそも、百点を超えているなら、それはもう、全部同じというか、主観の問題って感じだけど。あるいは、その日の微妙な体調の変化とか。
決して、私が奏音に甘いからっていうわけじゃないはず。
「これは、いきなり言った私たちが悪かったんだけど、二人とも、いまいち、気持ちが乗りきっていないみたいだった。戸惑ったりもしていたわよね。つまり、アドリブ力、咄嗟の対応力にもうひと頑張り必要というところかしら。舞台度胸とも言うわね」
「ありがとうございます」
総評してくれた純玲さんに頭を下げる。
勢いで返事はしてみたけど、内心は見抜かれていたみたいだ。
「それもやっぱり、レッスンの積み重ねで克服していくことのできるものですか?」
「そうね」
純玲さんはちらりと真雪さんに視線を向けて。
「根本的な性格の問題もあるけれど、その点に関しては二人は大丈夫そうだから。奏音は少し気になったけど。これも結局、数をこなすしかないのよね。二人はここに入ってから半年も経っていないでしょう? どうしても、経験不足というところはあるわね」
自主練はできても、人前に出てパフォーマンスをする機会は限られているから。
一応、養成所のないときでも、公園だとか、個人的なパフォーマンスをすることのできる、周りに人がいないでもない場所こそあるけど、なかなか、そう簡単にも言っていられないから。
「あとは、そうね。二人はユニットを組みたいとか、相談したことはあるのかしら? 二人でということもそうだけれど、スタッフさんたちに」
「え?」
私は奏音と顔を見合わせて。
「私はないけど、奏音は?」
「私もないよ」
奏音も首を横に振る。
最初からそう決めていてしまうと、選択肢が狭められるということもあるけど。
とはいえ、最近はアイドルといえば、複数人でのユニット、グループというのが人気っていうとあれだけど、多いことは違いない。
アイドルのライブだって、一人でやるときには、わざわざ、頭にソロだとか、単独とかってつけるくらいだから。
「それって、私たちから提案するようなことなんですか? 上のほうから通達されるものだと思っていましたけど」
そう言いながら、奏音から向けられた視線に、私も頷いて返す。
結局、私たちの売り出し方というか、そういうのを決めるのは、プロデューサーの人たちの仕事だし。
こうして、今は一緒にいる由依さんたちだって、普段は四人でユニットなんて組んでいない。それぞれ、たまには一緒になることはあるかもしれないけど、基本的には、ばらばらに活動しているはずだ。
もちろん、事務所のほうでは、これを機にユニットとして売り出そう、みたいな計画はあるのかもしれないけど。
「もしかして、皆さんはこれを機に、ユニットとしてデビューされるということでしょうか?」
「それが、私たちもまだ聞いていないのよ」
六花さんが困ったように頬に手を当てる。
「本番で、サプライズ、みたいに発表されるのかもしれないわよ?」
由依さんはどこか楽しそう。
ここの事務所は、新興の部類で、養成所にだって、所属しているのは数十人くらいだ。
一応、由依さんや真雪さんは、モデルとしてデビューを果たしてはいるけれど、アイドルとしては活動はなかったはずだし。
「それは、興奮しますね! ね、詩音」
奏音が顔を輝かせる。
もちろん、私もとても胸が高鳴っている。
自分がデビューするわけじゃないんだけど。
「あれ? ですが、当日のステージのローテーションはもう発表されているんじゃないんですか? そこの、アーティストの名前のところを見れば」
「それが、デビューだからなのか、いまだにcoming soon それからsecret なのよね」
由依さんが困ったように肩を竦める。そんな、悩ましげな表情も、ちょっとセクシーに見える……それおいておくとして。
「それって、大丈夫なんですか?」
ステージはいくつかあるっていう話だし、それだとお客さんも集まりにくいんじゃないだろうか?
「一応、事務所のホームページでは告知しているんですね」
奏音が見つけたページを見せてくれる。
秘密だからということなのか、四人の、というか、ユニットの紹介動画みたいなものは、動画共有サイトの事務所のチャンネルのほうにはアップされていないけど。
もちろん、四人それぞれのSNS(私たちはまだ中学生だから止められているけど、高校生にもなると、そうでもないということなんだろう)でも、告知なんてものはされていない。一応、個人個人で、出るとか、そんなことは言っているみたいだけど。
これって事務所との規約的には、あるいは、秘密にしたい側としてはどうなんだろうとは思うけど……掲載されたままだということは、問題ないと判断されているっていうことなんだろうね。
「まあ、あんまり秘密にする意味はないんでしょうけど」
「なんとなくわかるわよね」
「まだ、宣材写真として掲載されている人数は少ないですから」
「は、恥ずかしい……」
デビューしていない、養成所の生徒が個人として、写真でホームページで掲載されていることはない。
養成所の紹介としての、レッスン風景の写真に写り込んでいる、みたいなことはあるけど。
「そういえば、詩音ちゃん。前にデビューの話を断った、みたいなことを小耳に挟んだんだけれど」
私にデビューの話が? そんな話は……もしかして、あれかな。
「由依さん、それって、もしかして、ドキュメンタリーがどうのこうのというお話しでしょうか?」
「ええ」
やっぱり。それ以外に、思い当たる話もなかったからね。
「え? 詩音、ドキュメンタリーなんて出るの?」
「奏音だって、その場にいたでしょ」
結局、その話は私にまで回っては来なかったわけだし。
噂に振り回されたというか、そのくらいは、気にすることでもない。
「え? ああ、あのときの。詩音が即座に否定してたし、それ以来、話も聞いてなかったから、すっかり忘れてた」
今でも足りているとは言えないけど、あのときはもっと、実力が足りていなかった。
「詩音の昔話とかなら、興味あるけどね」
「そんなに面白いものでもないよ」
どこにでもあるかどうかは知らないけど。




