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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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負けず嫌いだなあ

 私はともかくとして、これは奏音も踊り込んで、歌い込んでいるね。

 奏音の才だけじゃない、踊り方から、歌い方から、努力の跡が感じられる。

 そもそも、知っていたからって、練習しないと、こうして咄嗟に踊ることなんてできない。曲自体、奏音が選んできたものだし。

 まあ、有名だし、流れている動画を探すこと自体はなにも難しいことじゃないんだけど。『FLURE』は世代を超えて継いでいかれるグループだから、何年も前の曲を今踊っていても不思議はないし。

 このパフォーマンスを体感すれば、奏音がどれだけ本気で取り組んでいるのか、聞くまでもなく、理解させられる。

 踊り方にも、自信が乗っている。正確には、自信を持って踊ろうとしていることが感じられる、ってところかな。あくまで、私にはそう感じられるっていうだけではあるけど。

 そして、奏音の視線はずっと私に向けられている。誰のため、なんのために歌って踊っているのか、明白だ。

 奏音は私を倒しにきているんだ。そして同時に、こんなもので倒れてほしくはない、とも思っている。

 上等だよね。むしろ、奏音も同じ気持ちで嬉しい。これで、勝つつもりじゃないけどとか、私の全力なんてわかっているからとか、そんな感じだったら、失望していたかもしれない。

 これは勝負。一緒に歌って気持ちに応えるとか、そんなことじゃなくて、もちろん、メロディや歌詞の理解を逸脱することなく、相手とぶつかって、あっと言わせるための戦いだ。

 だから、マイクのない奏音の生歌を身近に聞いて、感動に震えているような場合じゃない。むしろ、奏音をこっちの世界に引き込んでやるんだ。少しでも気を抜けば、私のほうこそ取り込まれかねない。もちろん、歌やダンスの最中に気を抜くなんてありえないけど。

 奏音と重なる、歌とダンス。

 ああ、やっぱり、たとえ勝負であったとしても、誰かとこうして重ね合うのは楽しい、心の震える体験だ。

 重なる歌声と重なるリズム。

 気持ちいい、楽しい、嬉しい、面白い……そんな感情が合わさって押し寄せてきて、私をいっぱいにする。

 いつまでも、こうして奏音とぶつかり合っていたい。

 時間にすれば、ほんの数分、それがいつまでも続いているようにも感じられる。このまま、何時間でも歌って踊り続けられる。

 見れば、奏音も私と同じように笑っている。きっと、同じことを考えているんだろう。

 もしかしたら、他の生徒も来ているかもしれない。だけど、奏音のことしか目に入らない。

 とはいえ、永遠にとはいかない。曲は頭でも理解しているけど、身体でも覚えているから。

 考えていなくても、曲の終わりで身体も自然と止まる。

 歌とダンスを止め、正面の奏音を見つめれば、同じように上気している様子で私を見つめる奏音と目が合った。

 それから、次のレッスンのために来ていた生徒たちから、拍手が起こるけど、今回ばかりは、観客に見せつけるためにやっていたわけじゃない私たちは、微妙な顔をして。 


「私の勝ちだよね」


「私の勝ちだよね」


 私と奏音の声が重なる。

 まったく、負けず嫌いだなあ、奏音は。私もだけど。

 

「なに言ってるの。奏音の歌に取り込まれずにしっかり踊り切って、歌い切った私の勝ちでしょ」


「それを言うなら、私だって、詩音に気後れすることなく、やり切ったんだけど?」


 奏音は、歌だけなら、百五十点くらいあるけど、ダンスと一緒にすると、百二十点くらいまで落ちるからね。

 それはもちろん、奏音のダンスのレベルが上がってきているっていうことにほかならないわけだけど。


「詩音は、最後のサビのところ、途中で息切れてたし」


「奏音こそ、Bメロのところの腕の角度がいまいちだったよ。慌てて修正しようとしていたでしょ」


 身体が二つあれば、プレイする私たちと、観覧する私たちで、うまくやりくりができたんだけど。

 落ち着いて深呼吸をして。


「どっちが良かったですか?」


 来ていて、壁際に座っている先輩にかける声も重なる。


「えっと、私たちも途中からだったから……」


「二人とも、一旦、休んだら? レッスンはこれからだよ」


 そう言われると、たしかにコンディションの良い状態でレッスンに臨みたいことは事実なので、大人しく腰を下ろして、喉を潤す。


「やっぱり、二人だけで判断までするのは難しいね」


 まだ、自分のパフォーマンスをこなしながら、冷静に判断できるほど、実力――ここでは、見る力かな、それがまだ養われていないから。

 いろいろと見てきてはいるつもりだから、目は肥えていると思っていたけど、自分のことになると、やっぱり、難しい。

 

「うん。でも、私は詩音と歌って踊って、すっごく楽しかったよ」


「それは私も」


 合わせるんじゃなく、刺激し合って、より高みへと登ろうとするパフォーマンスではあったけど、楽しかった。

 奏音がなにを感じて、なにを考えながら歌っているのか、すごく伝わってきたし、それは、曲に対するものだけじゃなくて、私への気持ちも同様に。

 こっちの気持ちも筒抜けなんだって考えると、少し恥ずかしい気もするけど、そこまで、気にするようなことでもない。

 まあ、奏音の歌に嫉妬している気持ちもあると知られるのは、少し思うところがあるわけでもないけど。それも、いつも口に出して言っていることだから。

 

「仕方ないね。人も増えてきたし」


「うん。今度は、皆に判断してもらえるね」


 そうこなくちゃ。

 じゃあ、二回戦を――。


「ちょっと待って。そういことなら、私も二人と勝負したいんだけど」


「私も。早く来ていたのは認めるけど、私たちにもスペース使わせてよ」


「そうだそうだ。皆のスペースだぞ」


 そうとまで言われたら、引き下がるしかない。

 私はべつに、まだまだ、喉も、体力も大丈夫だったけど。

 たしかに、他の人たちに気持ちもわかる。目の前でパフォーマンスを見たりしたら、自分たちの身体も喉も疼いてくるのは当然だ。

 レッスンの開始までの時間も、それほど残っているというわけでもないけど、たしかに、一曲、二曲くらいのライブの時間ならあるか。

 

「やっぱり、見てくれる人の存在って重要だよね」


「うん。もしくは、録画」


 自分たちのパフォーマンスを評価するわけだから、多少、難しいのはそうだけど。

 時間もなくて、あるいは、気持ちが高ぶっていて、即興的に始めたからね。準備が足りなかった。あと、根回しというか。

 でも、レッスンの時間外に蓉子さんたちに頼むっていうのも、なんとなく、気が引けるというか。そんなことくらい、断られたりすることはなかったと思うけど、トレーナーの人たちの休憩時間を奪ってしまうというのは悪いし。

 

「どうする? 今なら、人も集まってきているし、ジャッジしてくれると思うけど」


「……止めとく。もちろん、奏音がやりたいって言うなら、受けて立つけど」


 それより、ストレッチとかをしておこう。

 奏音との勝負の前にもしたけど、全力でやり切った直後だからね。怪我とか、するわけにはいかないし。身体のケアは大切だって、さんざん言われているから。

 奏音に、さっきの歌のことで聞きたいことはあるけど、基本的に感覚派の奏音に説明を求めても、ふんわりした感じだからなあ。

 

「ねえ、詩音。また、勝負しようね。あ、もちろん、ユニットでもやりたいけど」


 座ったままの奏音が、顔だけこっちに向ける。


「うん。どっちもね。奏音にも負けたくないし」


「……私も同じだよ」


 奏音は、一瞬驚いた様子だったけど、すぐに笑みを浮かべた。

 奏音がいてくれてよかった。ライバルに恵まれて、間違いなく、私は幸運だった。

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