奏音と家で動画撮影
許可はとれたけど、時間とか場所の確保がね。
レッスンの入っていない日でも、事務所とか、レッスン室を使わせてもらうこと自体はできると思うけど、レッスンの入っている人たちの邪魔はしたくない。
「うち……とか、あとは、奏音の家ってどの辺?」
電車で数駅先っていう程度の距離であることは聞いているけど。
「詩音の家はこのあたりなんでしょ? 詩音の家で大丈夫なら、そっちのほうが良いんじゃない? 待ち合わせ自体はここにすればわかりやすいし」
たしかに、事務所で待ち合わせたなら、迷ったりすることはないだろう。二人とも初めてでもないし、知っている場所だし。
「大丈夫……だとは思うけど、一応、聞いてから、今夜にでも連絡するね」
さすがに室内で、二人でダンスを踊って、歌を歌って、なんてことをするなら、それなりにうるさくなったりはするだろうし。とはいえ、両親とも仕事で、家にはいないだろうけど。
私の両親は多忙で、とくに父とは、休日以外に顔を合わせることは滅多にない。私が寝るより遅くに帰ってきて、私が登校するよりも出かける時間が遅いから。
うちでもさすがに、防音とかの設備はない。音楽自体は覚えているから、最低限の音量でも、スマホの画面を見られるようにしておけば、問題ないだろうけど。
翌日。
無事に両親からの許可が取れたから、奏音を家に招待した。
招待といっても、最寄り駅を教えて、迎えに行ったんだけど。
「お邪魔します」
奏音の制服姿も見られるかと思っていたんだけど、残念ながらというか、奏音はきちんと着替えを済ませていた。一応、着替えるかどうかはわからないけど、公式に動画を上げるわけで、身バレとかすると問題だからね。
とはいえ、それはそれで、なんというか、私服を着てると、そういう服のモデルでもしているのかと思えるほどだ。
実際、駅でも注目を集めていて、ナンパまではされていなかったけど。
「詩音の家も大きいね」
も、というのはどこと比べているのだろうか。
たしかに、この辺り一帯の中では、大きいほうだと思うけど、比較できるサンプルがあるわけでもない私にはよくわからない。
友達は、いないわけじゃないけど、でも、学校とかで話したり、遊んだりしていた程度で、家にまで招待したり、されたり、なんて関係にまでなった相手はいなかったから。
あるいは、奏音自身の家――如月家と比べているのかもしれない。
「どこで撮るの? 外の庭のところ?」
奏音が少し緊張した面持ちで、周りを見回す。
「それだと多分、スマホの位置とかが難しいから、このまま、リビングの物をどかしてここで撮ろう」
テレビの台は動かせないけど、そこは、スマホを置く台として使えばいいし、そうすれば、あとは、机とソファをちょっとどかせばスペースは確保できるから。
あとは、滑りやすいから、カーペットもどかしておこうかな。
「奏音、手伝ってくれる?」
「もちろん」
さすがに私一人でソファやら、机やら、運んだりはできないからね。
いや、引きずったりすればなんとかなりそうだけど、それだと床に傷がついたり、時間がかかったりして、大変だし。
奏音は、今はお客様という立場だけど、こんなことで気を悪くしたりはしないはずだから。
「なんか、物が並んでいるときはあんまり意識してなかったけど、こうして端に寄せると、かなり広いよね」
あらためて、スペースの空いた部屋を奏音が見渡す。
私も、生まれたときから暮らしているけど、こんな風に物をどかした部屋を見るのは初めてだから、少し感動している。
引っ越しとかをしたことがあるなら、見たこともあったかもしれないけど、そんなことはしていないから。
「さすがに養成所のレッスン室とは比べられないけどね」
奏音と二人で、踊って歌うくらいなら。
「いや、比較対象がおかしいでしょ」
奏音はあきれた様子でそう言いながら、あらためて、スマホのカメラの位置を確認している。
レッスン室には、ほかになにもないからね。
せいぜい、私たちの飲み物とか、タオルとかが、隅のほうに寄せて置いてあるだけで、基本的に、物は置かれていたりしない。一応、カセットデッキというか、ラジオとか、MD、iPodみたいな、音源になりうるものは、蓉子さんたちが持ち込むんだけど。それも、基本的に邪魔になることのない大きさだし。
それなりの人数で激しく踊ることになるから、怪我とか、壊れたりすると困るからね。
そもそも、広さからして、レッスン室のほうが広いわけだし……多分。
「というか、純粋な広さだけなら、いい勝負なんじゃない?」
奏音はそう言うけど、基本的になにも置かないことを前提としているレッスン室とは違って、このリビングは、机とか、ソファとか、テレビとか、あと諸々、置くことを前提にしているからね。
一人なら、庭先とか、リビングのほんのわずかなスペースとか、自室とかでも問題ないから。そもそも、うちに人を招いて、それ自体はともかく、一緒にダンスして、歌おうなんて、保育園、幼稚園くらいのときならともかく、中学生にもなると、やっぱり、それなりには成長して、身長とか、手足の長さとかで、スペースが足りなくなってくるから。
「とにかく、早いところ始めよう。そうすれば、録画を見て振り返る時間もできるし」
「もしかして、この大きなテレビに映せるの?」
奏音がそわそわとした感じでテレビをちらちらと見やる。
「できなくはないと思うけど、いつも、そのあたりはお父さんがやってくれてるから」
私もできるようになりたいとは思うんだけど、なかなか、難しくて。
「ふーん。まあ、今日はスマホのままでもいいか」
結局、事務所とかで確認するときには、スマホを使うわけで。
使えるものがあるなら使うべきだという意見はあるけど、取扱説明書を読んで、勉強しないといけないという時点で、それは今の私たちには使えないものだから。
奏音も、あっさり引き下がった。
「奏音って……いや、やっぱりいいや。早く、撮ろう」
奏音も自宅で、家族に動画を撮ってもらって、テレビに映して見たりしたことがあったのかなと、少しだけ気になったけど、その話はいつでもできるし、今日の目的は違うからね。
「そうだね」
どうせ後から編集するなら、とスマホの撮影機能はすでにオンにしている。
こんなドタバタしているところを、ネットに乗せるわけにはいかない。それはそれで、そういうものとして撮れば需要はあるかもしれないけど、今回は違うから。
「じゃあ、いくよ」
タイマーをセットする。まあ、十秒くらいでいいかな。
「ちゃんと映ってる?」
「大丈夫」
一応、スマホの角度を確認して、私は急いで奏音の隣に戻る。
当然、カメラの範囲も確認済みだ。
私のスマホで動画を撮影しているから、音楽を鳴らすのは奏音のスマホだ。奏音も、私と同じような理由で、スマホを持たされている。
それで、撮影を終わって。
「そういえば、いまさらだけど、これって詩音の家の中が映ってるけど、大丈夫だよね?」
「見られて困るようなものは映ってなさそうだし、大丈夫だとは思うけど……蓉子さんに確認したときに、加工してもらったりすればいいんじゃない?」
本当に、蓉子さん様様だけど。
「それもそっか」
奏音もそれ以上は気にならない、いや、気にしないことにしたらしい。
「せっかくだし、もう何回かやる?」
「うん。あ、でも、今度は歌にしない?」
今度のテストとは別だけど、歌だって重要には違いない。
奏音の歌を聴きたかったっていうこともあるし。
「うん。そうしようか」
一応、防音のことだけは気にしたけど。




