説得力を得る方法
私の言葉なんかで、どれだけ説得できたのかなんてわからないけど、言いたいことは伝えたから、あとは結果を待つだけだ。
これで、雰囲気が良くなるなら良し、あるいは、私にまで突っかかってこられるようになるのか。
私自身が除け者にされるくらいはなんともないと思っているけど、私に味方したことで、奏音まで巻き込まれるなんてことになったら、申し訳ない。
「やっぱり、今度のテストを待つしかないのかな」
実力主義のこの世界。
年下で、威厳もなにもない私の言いたいことを言うためには、そして、理解納得してもらうためには、やっぱり、実力を示すしかないと思うから。
とはいえ、次のテストまでは、まだ半月ほどある。
「事務所の公式チャンネルになら、動画を上げても良いって話だったよね。それでダンスとか歌の動画を上げてバズらせるとか?」
奏音も自分の提案にはあまり自信を持ってはいないようだ。
たしかに、再生数、コメント数、評価という、目に見える結果を出すことはできるだろうけど、そんなに簡単にいくなら、苦労はしない。
とはいえ、やれるだけやってみるのも、悪くはないと思うけど。なにより、楽しそうだし。
「そんなに簡単にいくのかどうかはわからないけど、動画を上げるのは楽しそうだよね」
とはいえ、次回のテストの練習もしないといけないし、そのダンスの動画を上げるのはまだ待ってくれと言われているし。
「うーん。動画にするダンスなら、前回のテストのときにやったやつでいいんじゃない? あれなら、それなりのクオリティには仕上げられるし」
「『踊ってみた』とか、『歌ってみた』みたいな動画のことだよね」
私たち自身の課題曲の練習もあるけど、たしかに、あれなら、今すぐにでも踊ることはできる。
撮影機器とかはないけど、最近のスマホは高性能で、素人でも高品質の動画を撮ることはできる。この事務所にも、当然といえば当然だけど、動画を撮るための環境は整っているし。
まあ、私にも奏音にも、動画の編集技術とかはないから、そのまま上げるだけなんだけど。
とはいえ、それはそれで、レッスン生らしさというものが出せると思う。
「じゃあ、さっそく……今からは無理かな」
「まあ、もう着替えたりしちゃったからね……」
さすがに、この格好で踊ったりはしたくない。
もう今日はあとは帰るだけとはいえ、多分、こだわり出すと、もう一回、もう一回とかってことになって、何度も繰り返すだろうということは目に見えているから。
「なら、明日……は、レッスン入ってなかった。詩音もでしょう?」
「うん」
私と奏音は、学校も違うし、家も離れている――そもそも、知らないし、会おうとしたら、この養成所しかないわけだけど。
ビデオ通話……では、さすがにスマホの画面が小さすぎて、歌はともかく、ダンスを合わせたりはできないしなあ。
「詩音と同じ学校なら良かったのに。あっ、高校は同じところ行く?」
「気が早すぎるよ、奏音」
私たちはこの前、中学生になったばかりだよ?
今から高校とか、受験とか、そういうところまで見据えている人は、いないとは言わないけど。
「そもそも、奏音の家はここからそれなりに遠いんでしょう?」
「うん、まあ、電車で通ってきてはいるけど。でも、ここが一番近いところだったの」
アイドルの事務所とか、芸能スクールとか、どこにでもあるわけじゃないからね。
あるいは、近くにあっても自分の肌に合わなさそうだと思ったら、別のところを探したりもする、かもしれないし。近所――というほどでもないけど――に決めた私に言えることじゃないんだけど。
「ルームシェアとかなら」
「話がずれてきてるよ」
奏音も、どこまで本気なんだか。まあ、さすがに冗談だと思うけど。
余程の問題でもないなら、実家で生活したほうが良い。楽しそうということなら、それはそうかもしれないけど、自分のことというか、学業とアイドル(もしくは、その候補生として)だけに集中できる環境というのは、貴重で、得難いものだから。
「やっぱり、レッスンの前後のどっちかで時間とるのが正解かな。そう言えば、動画の編集とかって、詩音はできる?」
「全然。編集どころか、上げ方だって知らない」
私は首を振る。もちろん、横に。
そのあたりは、それこそ、蓉子さんとか、事務所の人たちに聞けば、いくらでも教えてくれるだろうけど。
あとは、たしか、この前、由依さんたちも個人で投稿していたみたいだし、聞いたら教えてくれそうではある。
「こういう活動も、知名度に繋がって、どこからか声がかかるかもしれないよね」
実際、事務所の公式だからね。
そういう意図もあって、そこから投稿するように言われているという部分もあるとは思う。
最初は、事務所の名前を利用したほうがやりやすいから。もちろん、比較的という話だけど。
事務所は名前を売れるし、私たちは仕事をとりやすい。
「……もっとたくさん巻き込む必要は、ないよね?」
もっとというか、奏音が気にしているのは、朱里ちゃんのことだと思うけど。
「ないと思う。朱里ちゃんも巻き込むとなると、事のいきさつを話さないといけなくなるし、余計なお節介とかって、参加してくれない可能性は高いから」
なにも話さなければ、参加してくれるんじゃないかとは思うけど、騙しうちみたいになって、それは嫌だし。
テストの課題に関係のないダンスや歌なら、問題もないだろう。
それだって、完全に余計なこととは言えないし。
前回の課題のことはほとんど振り返っていないし――まあ、そもそも振り返る必要のないことだっていうところはあるけど――蓉子さんたちからの評価は、それはそれとして、不特定多数のネットで動画を見た人たちからの反応も気にはなるところだ。コメントはできなくても、評価はできるからね。再生数とかも見られるし。
これで、反応が悪いと、意味がなくなる――少なくとも、今回の目的としては――んだけど、それを怖がってなんていられない。
今はまだ、私たちは練習生で、恥をかくことを恐れているような段階にない。
「とはいえ、一応、蓉子さんに確認はしてみるべきだよね」
奏音の言い分には、私も賛成だ。
そもそも、動画を上げる方法を聞くことにはなるんだから、いつから聞いても、あるいは、手伝ってもらっても、同じことだ。
蓉子さんも、マネージャーの仕事は、そういう、面倒なことを引き受ける仕事だから任せてくれ、なんでも相談してきてほしい、みたいなことをいつも言ってくれているから。
蓉子さんたちとしては、積極的には今回の件――つまり、生徒たちの問題には積極的には介入しないということだったけど、動画の件を聞くのは関係ないことだし。
たとえ、その効果で狙っていることがあったとしても。
「ええ、かまいませんよ。事前にお話ししてあるとおりに、規約を守ってくださるのなら」
撮ってみてからやっぱりだめでした、なんてことになると非常に困るから、前もって確認してみると、蓉子さんからの許可はあっさり下りた。
というより、確認という感じかな。
「それで、動画を上げる方法とか、私たちは全然詳しくないんですけど」
奏音が遠慮するように尋ねる。
「そうですね。いずれは、ご自分ででもできるようになるほうが良いのでしょうが、今回は私たちでやっておきます。今度、レクチャーしますね」
「本当ですか? ありがとうございます」
願ってもないことだった。
「いえいえ。最近は、動画を上げることもアイドル業の一環ですから。むしろ、こちらとの規約に支障がなければ、積極的にやっていただきたいくらいです」




