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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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この際、はっきり言ってしまおう

 先に決めたとおり、私たちは私たちにできることをしていこう。

 薄情な言い方になるかもしれないけど、こっちに飛び火してこない限り、私たちにだってできることはほとんどないから。 

 助けを求められたら、話は別だけど。

 それが本当にSOSなら。

 装った取り込みはされない。それが、どちらからのものであっても。個人的な付き合いというか、共感する部分ということなら、朱里ちゃんのほうに肩入れしたくなるけど。もっとも、朱里ちゃんからはそんなこと、してこないとは思うけどね。

 全体の雰囲気が悪化する中で、せめて、私は養成所の生徒という立場を崩さないでいたい。

 薄情とか、空気が読めないとか思われるかもしれないけど、それでもかまわない。

 だって、そんなこと、全部、二の次、三の次だから。

 皆、仲間ではあるけど、ライバルでもある。余計なことに気をとられて足踏みをしてくれているのなら、その隙に少しでも前へと進みたい。

 

「ねえ、詩音ちゃん」

 

 私としてはそう思っていても、トラブルのほうから歩み寄ってくる。


「奏音ちゃんも一緒に良いかな?」


 私たちは、レッスンを終えて、着替えたりなんなり、帰り支度をしていたところだったんだけど、この前声をかけられた先輩たちに、また、呼び止められた。

 

「えっと、手短にお願いできるのなら。早く帰らないと、家族に心配されますから」


 私は、できるだけ、家から近いこの養成所を選んで通うことにしているわけだけど、だからこそ、レッスンの終了からあまりに時間が経ち過ぎると心配させることになる。

 本音では、余計ないざこざに巻き込まないでほしいと思ってはいるけど、今の養成所の雰囲気でそんなことを言えば、すぐにでも破裂しそうだから、とりあえず、呑み込んでおく。

 もしかしたら、別の話かもしれない、という可能性は捨てきれないし。


「あのね。この前も話したかもしれないけど、朱里ちゃんの――」


「お断りします」


 だけど、そうではなかったらしい。

 こうして、今後も絡まれるとか、レッスン中に余計な邪魔とか中断をされるとか、ましてや、ほかの人に迷惑をかけるような相談だとかなんて、関わりたくはない。

 

「詩音ちゃん? えっとね、誤解しているかもしれないけど――」


 私がこんな風に強めの言葉を使うことはほとんどないからだろうか。

 今までに、ほかのことでも、コミュニケーションをとってこなかったということはないけど、話しにきた人たちの中に困惑が広がっているのは感じられる。

 この際、はっきり言ってしまおう。それで、なにか起こるのなら、そのときはそのときだ。 

 私だって、雰囲気とか、人間関係に、全く気を使っていないわけじゃないし、わざわざ波風を立てたいとも思っていない。

 だけど、巻き込まないでほしい、レッスンに集中させてほしいというのが本音だ。

 ただでさえ、アイドルとして活動できる期間は短いんだから、まで、デビューすらしていないこの段階で、ほかのことに気を回していられる余裕はない。

 あと、単純に、こうして余計なことをしようとしている人たちに、もやもやとしたものを抱えているということもある。

 せっかく、レッスン料を支払って、自分の時間を使ってまで、ここに通ってきているんでしょう? それなのに、他人の邪魔をしているだけのことに時間をかけていて、それで自分に納得できるの?

 私は多分、それでパフォーマンスに納得がいかなかったりしたら、ずと後悔すると思う。

 というより、こんなことをしていたら、絶対、納得のいく出来になんてならない。現状でさえ、全く満足できていないんだから。

 それは、私だけじゃなくて、ほかの人のパフォーマンスにも言えることだ。

 どうせ、デビューできるかどうかのライバルなんだから関係ないでしょ、と思われるかもしれないけど、そんな、ライバルだからこそ、そのパフォーマンスをベストの状態で見られないのは、損失すぎる。

 席を巡る競争相手なんだから、そんな考え方は甘いと言われるだろうし、自分自身でもわかってはいるんだけど。

 

「誤解はしていません。具体的にいつからとか、なにが原因でなどということはわかりませんが、朱里ちゃんに対してやっかみが噴出していることは理解しています。そのことで、現状、中立、もしくは、朱里ちゃん寄りに見える私たちを取り込みにきたということですよね」


 奏音に裾を引かれる。

 私がそこまではっきり言うとは思っていなかったんだろう。

 でも、これはもう、はっきり言ってしまわないと収まりそうにない。蓉子さんたちが具体的に動いてくれるより、私に飛び火してくるほうが遥かに早そうだから。

 だから、奏音には視線を一瞬送るだけで、この場は納得してもらう。必要なら、後でちゃんと説明するから。

 

「私はここに、アイドルとしてデビューするための技術を身に着けるために、通ってきています。余計なことに関わっていられるほど、自分のスキルに自信を持っているわけではありません。ですから、申し訳ありませんが、皆さんの個人的ないざこざには巻き込まないでいてくれると、助かります」

 

 個人的には、かなりマイルドに言ったつもりだ。

 余計な迷惑をかけてくるなとか、皆さんは余裕があっていいですねとか、気に喰わないからって意地悪をするなんて子供すぎるとか、そんな風には喧嘩を売らなかったんだから。

 あとは、蓉子さんにも気を使わせてしまって、レッスンに影響が出てくるようだと困るとか、細かいことを言い出すと無限にあるけど、全部を言葉にしたりはしない。

 彼女たちの目には、私がどう映ったんだろうか。怖いもの知らずとか? 空気を読めないのかとか? 人間関係――派閥の力を理解していないのかとか? そんな感じだろうか。 

 

「そう。奏音ちゃんはどう?」


 私に関しては諦めたのか、それとも、取り込まれないなら敵だと認定されたのか、それはわからないけど、彼女たちの矛先は奏音へと向けられる。

 

「私も詩音と同じ気持ちです。まだ、自分にスキルが足りていないことはわかっていますから、そちらに集中したいです」


 私に味方した、わけではないと思う。

 私だって、できる限りの本音は伝えたけど、他人のパフォーマンスを楽しみにしているのも本当だから。

 

「私は、奏音のことも、朱里ちゃんのことも、由依さんや、それから、皆のことも、見習うべき相手だと思っています。私は一番下っ端ですから、まだまだ、学ぶことだらけで、日々、感心させてもらっています。ですから、朱里ちゃんがちょっと口下手なのはそのとおりだと思いますけど、そのストイックなところが朱里ちゃんの良いところで、私も見習いたい部分のあるところです。皆もそうですよね?」


 これは、余計なお節介を焼いているわけじゃない。

 私自身が、より良いパフォーマンス、モチベーションでレッスンに励むために、必要なことだ。

 気にしないでいようとしても、空気が悪いとやっぱり、気になるものだから。

 

「思っていることがあるなら、裏でこそこそしたりせず、はっきり本人に言うべきです。そっちのほうが、絶対すっきりします。それとも、本人に対して言えるだけの自信がないということであれば、そんな程度の想いなら、さっさと忘れて、次に行くほうが建設的です」


 なに言い出すの、みたいなささやきが聞こえだす。

 なんで、目の前で私が喋っているのに、わざわざ、隣に耳打ちまでしだすんだろうね。

 私に友人と呼べる相手が少ないからわからないのかな。それとも私が年下だから?

 一応、妙な仲間意識だとか、そんな感じなことだと理解してはいるつもりだけど。


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