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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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朱里ちゃんはストイック

 相変わらず、朱里ちゃんの口撃力は高い。

 朱里ちゃんの養成所内の順位は、この前のテストの時点で十番目。単純に考えて、上に九人いるわけだけど、それでも、ここにいる多くの人たちに実力で勝っているのは事実。その朱里ちゃんに言われたら、大抵は、黙るしかないだろう。

 そして、朱里ちゃんより上の人たちはそんなこと――誰に言われているのかなんてことは、いちいち気にしていないように見える。

 順位が上だと余裕があるのか、それとも余裕があるから上の順位なのか。

 

「それに、それはまだ、話が出ていたというのをあなたたちが立ち聞きしただけにすぎないのよね? そんなあやふやな情報で他人を振り回したり、八つ当たりしたりする前に、やるべきことがあるんじゃないかしら」


 私だって同じだ。

 もちろん、デビューできるというのであれば、それは願ったりではあるけど、パンダになりたいわけじゃなくて、アイドルとしてステージに立ちたいわけだから。 

 まあ、アイドルもパンダも似たようなものだってことなら、そういう部分もあるのかもしれないけど。

 とにかく、どんな話だろうと、私にできることは、実際にステージに立つその瞬間まで、あるいはその後も、常に自分のベストを尽くすべく、目の前のことに懸命に取り組むことだけだ。

 そうすることでしか、道は開いたりしないから。

 むしろ、実際に人前で披露するときになって、それがお粗末なものだったら、より、デビューは遠のくだろう。


「朱里ちゃん、ありがとう」


 なんとなく雰囲気が霧散したところで、朱里ちゃんにお礼を告げた。

 私には、あんなに強くは出られないから。もちろん、朱里ちゃんがすごいという話だ。

 

「べつに、あんたのためにやったわけじゃないわよ。あんな雰囲気でレッスンとか最悪でしょう? わざわざ、自分の時間とお金をかけているんだから、実のあるものにしたい、それだけよ」


 朱里ちゃんは、もう次のレッスンのための準備に入っていて。

 ちらりとだけ視線を上げて私を見た朱里ちゃんは。

 

「あんたのダンスや歌を認めていることは事実よ。もちろん、ルックスもね。でも、負けるつもりはないから」


 同じ事務所でデビューするなら、勝ち負けじゃないと思うんだけど……それとも、将来的に、人気投票的なことがあるなら、勝ち負けってことになるのかな。あるいは、チェキの列のこととか……さすがに気が早すぎるのは話あってるけど、朱里ちゃんなら、そこまで見据えていてもおかしくはないと思えてしまうところがすごいところだ。

 それは、ダンスや歌のどっちがうまい、どっちが可愛いとか、言われ続ける世界にいるということをわかってはいるけど。

 

「だから、変なことに気をとられてとか、つまらなことで躓いてなんて、許さないからね」


「うん。そうならないだけの実力をしっかり身につけてみせるよ」


 雨が降ろうが、風が吹こうが、雪でも、台風だろうが倒れたりしないような。

 

「まずは、朱里ちゃんに勝つ」


「そう簡単に勝たせるわけないでしょ。ていうか、私なんかを目指してるんじゃないわよ。そもそも――」


 朱里ちゃんがそんな風に自分のことを低く見積もっているのは珍しいような気はする。

 いつだって、自信に溢れているのに。

 それとも、順位が発表された直後ということも相まって、朱里ちゃんだからこそ、もっと上にいる人たちのことを見据えているからなのかもしれない。

 でも、雲の上を見上げようとしたって、なにも見えないからね。

 目指していないわけじゃなくて、ただ、上だけ見つめすぎて、足元を疎かにしたくないというか、目に見えるところにしっかり焦点を定めるところから始めていきたいというか。

 

「だから、朱里ちゃんともユニット組んでライブしてみたいな」


 奏音とユニットを組んでテストに臨もうと一緒にトレーニングした中での気付きはたくさんあった。 

 そんな風に、朱里ちゃんともより近くでレッスンや、実際に一緒にライブをしてみれば、得られるものも気っとあるはず。

 少なくとも、私より三つ上の順位にいる、そこまで、引っ張り上げられる、あるいは、引っ張り上がることができるはずだ。

 

「次の試験もユニットとは限らないのよ?」


「べつに、試験じゃなくても、合わせるくらいはいつでもできるんじゃない。でも、私より、朱里ちゃんのほうが、スケジュールというか、学校とかとの兼ね合いというか、自由度が低いのは間違いなさそうだから、大変だけど」


 奏音はまだ、同学年ということもあって、学校が違っても、比較的、時間を合わせたりはしやすかった。

 でも、朱里ちゃんは、学校が違うどころか、そもそも、学年も違うわけで。

 練習の合間とか、休憩だって、大切な時間だからなあ。心身を休ませることで、それぞれのレッスンにより集中して取り組むために。

 

「朱里ちゃんだって、試験のためだけにやっている……わけじゃないと思うんだけど、どうなの?」


 結局、事務所というか、養成所内の順位がデビューに直結しているというのなら、それこそ、一番気になるところなのは間違いないだろうけど。

 いろいろ、目指すところというか、目標を挙げてみたところで、デビューできなければ、全部、机上の空論で終わってしまうから。

 試験のためにやっていなくても、結果的に試験に繋がっているなんていう意味なら、そのとおりである部分はあるだろうけど。


「目的を持ってやったほうが、成長に繋がりやすいのは事実のはずよ。気持ちの面の影響って、良くも悪くも、大きいから。私は、詩音や奏音と比べたら、余裕はないから、結果にはこだわっているわよ」


 朱里ちゃんのほうが順位も上なのに余裕がないっていうのは……年齢のことかなあ。

 養成所に所属できる年齢の上限、あるいは、アイドルとして活動できる期間に限界がある以上、そのデビューまでをできるだけ早く、そう考えるのは、誰だって同じだ。朱里ちゃんは、私や奏音より、三つ年上だから。

 私だって、馴れ合いをしにここに来ているわけじゃない。

 事務所側から贔屓されたことで、同じ養成所のメンバーにあれこれ言われても、それをチャンスだと捉えられるくらいの気持ちの強さを持っていなくちゃだめだ。

 私たちの個人的な事情なんて、それこそ、そういう番組を作るなんて言うことでもない限りファンやお客の人たちには関係のない話だから。もちろん、それぞれが、興味がある、なんてことにまでは対応していられないけど。

 きっと、朱里ちゃんなら、自分から蓉子さんにかけあって、上の人との交渉とか、話し合いの場を設けてもらうくらいのことはするんじゃないかな。

 私にそこまでの余裕はないけど。

 私には私のやり方――目の前のことをひとつづつこなしていく、それを積み重ねていく、それが、今できる最良だと信じているから。

 

「そもそも、贔屓じゃないんだから、無駄に気負う必要なんてないのよ。詩音は、真面目にひたむきに取り組んでいるだけじゃなくて、ちゃんと、実力もついてきているわよ」


 朱里ちゃんに背中を叩かれる。

 

「ありがとう、朱里ちゃん。朱里ちゃんが困っているときは、私が力になるからね」


「詩音に心配されるほど柔じゃないわよ」


 それはそうだろうけど。

 今のも、朱里ちゃんのことを心配できるというか、気にかけられるくらいの実力を身に着けるって意味で。

 だって、朱里ちゃんは私より年上だけど、私と同期であることも間違いないんだから。

 同じ事務所内のライバルだとしても、仲良くしたいと思っていることは事実だし。



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