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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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アイドルのライブ

 もちろん、私だけじゃなくて、蓉子さんを含めて、振付のトレーナーの人たちとも確認、調整をした完成形のダンスと歌唱を、なんとか、マスターすることはできた。

 仮に私が作った振り付けだったけど、トレーナーの人たちからの感触は悪くなくて、全員で踊ってみてのバランスなんかも、都度、修正しつつ。言うまでもなく、それに応えられるだけの、皆の実力あってのことだけど。

 曲名は『ドリームステップ』。

 安直と言われれば、そのとおりだけど、合同の曲は初めてだし、わかりやすいほうが良い。

 若干、雰囲気は『全力ドリーマー』に似ているところもあるけど、そんなことを言い出したら、どんな曲だって、なにかしら似ているところはあるわけで。

 一人一人がダンスと歌をマスター(というか、とりあえず、頭と身体には入ったら)したら、次は全員で合わせる練習になる。それぞれが覚えてすらいないと、そもそも、合わせようというところまでいかないからね。

 

「朱里さん、少し早取りしています。みなみさんは逆に遅れ気味です。奏音さんはもっと自信を持って、きょろきょろとしないように」


 そんな感じに、前で見てくれている蓉子さんからの指示が飛ぶ。

 今までは私と奏音は二人、朱里ちゃんとみなみさんも二人、ユニットの編成人数が最小単位だったから、合わせるとはいえ、そこまで、気にしすぎることもなかった。

 しかし、今回は三ユニット、八人での合同のステージ。単純に、自分以外の合わせる人数が七倍になっている。

 もともと、四人と、私たちよりも多い人数でやっていた、そもそも、順位も上である『LSG』のメンバーは、それなりにうまく合わせることはできているけど、それでも、四人では、という話だ。一応、私もそれに合わせられているけど。


「蓉子さんの労わり会をしたおかげで、それなりに皆の呼吸もあってきたけれど」


「それでも、時間が足りないのよね」


 六花さんと由依さんが小さく息を吐く。

 毎日、全員が集まることができればいいんだけど、そうもいかないから。イベント直前だし、皆、集まるようにはしているけど。


「当日まで、毎日詩音のところに合宿、っていうわけにもいかないもんね」


「いくら奏音の頼みでも、それはさすがにね」


 あるいは、養成所に泊まり込むというのも、それぞれ、学校の事情(距離とか、時間とか)もあるし、現実的じゃない。

 

「やっぱり、音をよく聞いて、反復練習するしかないわね」


 由依さんがそう結論付ける。

 一応、蓉子さんのお手本を撮った動画はもらっている。

 どこで流そうと、音源は音源で、たとえば、私の家で流したときにはジャズ風に、奏音の家で流したときにはパンクロックに、なんて変化することはない。

 人が前にいなくても、音撮りが完全に一致すれば、タイミングがずれることもなくなるはず。

 あとは、レッスン中に撮ってもらっている動画を、何度も観返すしかない。

 鏡は正面にもあるけど、常に、視線が前を向いているわけじゃなくて、顔の角度によっても、下だったり、横だったり、上だったり、回転していたりもするから。

 それを、常に、客席側からという視点で捉えてくれているカメラは、自分を客観的に見るのに一番だ。

 幸い、と言うほどでもないんだろうけど、皆、士気は高い。

 無理だとかなんだとか、不平や不満、逃げ口上を口にする人は一人もいない。

 

「皆やる気があるのは良いことよね」


「由依さん」


 由依さんは大きく伸びをして。


「他の養成所の噂なんかも聞いたりするんだけど――落ち着いて、詩音ちゃん」


「すみません」


 それはぜひ知りたいと、少し前のめりになってしまい、由依さんに苦笑されて、姿勢を直す。

 

「メンバーと目標の高さが合わなくてレッスンのことでぎくしゃくしたり、嫉妬とか人気とかそういうので仲が悪くなっていったり、同調圧力……って、わかるかしら、そんなことで、ぬるくなっていったり」


 それは、多分。


「今ここに集まっているのが、ここの養成所でも――テストの成績で上位のメンバーだからじゃないですか?」


 この養成所でも、大変だから辞める、みたいな話をしているのを聞いたことはあるし、生徒同士でぎくしゃくしていたり、そういうところもあるのは知っている。

 私はまだ、自分のことで手一杯だけど、由依さんはいろんな、一緒にレッスンをしている生徒に声をかけている姿をよく見ているから。

 

「そうね。でも、それは、順番が逆なのだけれど」


 上位のメンバーだから頑張っているという姿を見せないといけない、ということは、たしかにあるだろうけど。

 しかし、本当は、そういうところで諦めることなく気持ちを持ち続けて自己研鑽を続けられたからこそ、上位に入っているということだ。

 なるほど、たしかに。

 私自身、気にしていなかったけど、ここの人たち、こうしてレッスンに集まっている間は、パフォーマンスとかの話しかしないからね。 

 

「ただ、そうなってくると、この養成所はまだ歴史なんて言えるほどのものはないから、生徒の中に諦めの雰囲気が常在するようになってしまうと、困るのよね」


「そうですね」


 頑張っていても、上位陣に迫る、匹敵するパフォーマンスをしなければ、デビューできない。

 それは、事務所のブランドとしては当然の考え方でもある。

 しかし、はっきり言って、レッスンだけで得られる経験値より、仕事として、実戦で得られる経験値のほうが遥かに大きい。

 つまり、相当の実力があるか、熱意がないと、デビューへのハードルはどんどん高くなっているように感じられるだろうし、実際にそのとおりである部分はある。

 それは、アイドルの質という意味では、洗練されるということにはなるだろうから、そういう、主義のひとには歓迎されるだろうけど。

 でも、この事務所で主として基準になっているのが歌とダンスだということであって、アイドルの特性特徴、得意、適性……そういうのは、本来、たくさんある。 

 バラエティだったり、トークだったり、知識だったり、運動神経だったり……まあ、それらも歌やダンスと通ずるところはあるけど。 

 どんな得意のアイドルがいてもいい。それこそ、ビジュアル一本……というのは、アイドルというより、モデルかなにかのほうが近いと思うけど、どういうことをしたいのかは人それぞれだから。


「由依さんや純玲さん、六花さん、それに朱里ちゃんたちが引っ張っていてくれるというところもあると思いますけど。このユニットを成立させているのは」


 養成所の生徒全体を引っ張り続けるということは不可能――そもそも、基本的には個人の問題だし――だけど、ユニット単位でなら、落ちこぼれを許さず、気を配り、的確に舵取りをしてくれるリーダー気質の人たちの存在は、かなりありがたい。

 私は、あとは、奏音とか、真雪さんとか、みなみさんも、あんまり、リーダーとして皆を引っ張る、みたいな感じじゃないからね。

 それも、一人だけがリーダーとして責任をとっているわけじゃなく、皆で、協力しているところも。

 アイドルのライブはユニット、つまり、仲間と一緒に歌って踊るものだから。

 

「そうね。でも、それだけじゃだめなのよ。今、詩音ちゃんが言ったとおり」


「私たちにも、もっと自己主張するように、前に出ろということですか?」


 パフォーマンスの中では、そのつもりでいたんだけど。

 そのへんの意識というか、気持ちも揃えていかないと、パフォーマンスのずれに繋がる、みたいなところなのかもしれない。

 

「すくなくとも、『ファルモニカ』の歌での主役は詩音ちゃんと奏音ちゃんなんだから」


 

 

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