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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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趣味を仕事に利用?

 私は『エンタメスクープ!NOW』の収録が終わってから、奏音を問い詰めた。


「さっきのあれはなに、奏音」


 もちろん、私に対して、私以上のアイドルはいないなんて発言していたことについてだ。

 

「思ってること……事実をそのまま言っただけだけど?」


 奏音はごく真面目な調子で、むしろ、開き直ってすらいるような様子であっさり答えた。

 いや、開き直っているとも違うかな。事実を事実と言っているだけのような。


「あんなの、各方面に敵を作るだけでしょう」


 べつに、敵、というか、みんなライバルだという認識でも間違ってはいないんだけど、積極的に敵対したいとも思わない。

 偏見かもしれないけど、この世界、自分が一番可愛いと思っているような人しかいないんだから。

 むしろ、個人的には、ほかのアイドルとはできるだけ仲良くなりたい。

 

「それも今さらでしょ? デビューしたとき、ううん、養成所で競い合っているときから、皆ライバルじゃん。ただ、養成所で競い合う項目の中にビジュアルっていうのがないだけで」


 たしかに、テストとしてはないけど。

 そして、奏音の言っていることは、たしかにそのとおりだ。

 アイドルとしてというか、この世界にいる以上、常に、あらゆる点で――ビジュアル、歌唱力、トーク力、知識、センスなどなど――他人と比べられる、比べられ続ける、言われ続けることは決まっているわけだから。

 そして、それらにおいて、他人より優秀だと認められた人だけが、淘汰されず、この芸能界という世界で生き残っていく。  

 

「まあ、大丈夫だよ。本当に詩音の可愛さが群を抜けていないなら、私――ユニットパートナーの偏見だって思われるだけだし、もし、皆そう思っているなら、良い喧伝になったってことだし」


「それは、どっちもあんまりプラスには働いていないんじゃない?」


 得られるものが、私の羞恥だけ、あとは、まあ、ほかの同業者からの、ライバル視とか、敵視とか、そんなものだって言うなら、むしろ、マイナスじゃないかな?

 奏音の言うとおり、宣伝っていうことなら、その対象がビジュアルであるのなら、わざわざ、言葉にしなくても、画面に映るだけで十分だろうからね。むしろ、言葉による表現者じゃない私たちが語ろうとするほうが、安っぽい言葉になるような。

 いきなり、文学作品での登場人物の容姿の描写、みたいに評価されても反応に困るけど。


「詩音が可愛いことを全国放映できて、私は満足だけど?」


「自分の趣味に仕事を利用しないで」


 いや、まさにアイドルやっている私に言えたことじゃないんだけど。


「それ、詩音が言うの?」


 まさに、思っていたことを奏音に告げられる。

 呆れているようにも、面白がっているようにも……いや、これは面白がっているよね、絶対。


「それは……そうだけど」


 私がアイドルを大好きだということは、公然の事実。奏音にとか、事務所内でとか、そういう狭いことじゃなくて、文字どおり、全国の誰でも知ることができる。もっとも、そこまで人気が出ているのなら、だけど。

 その私がアイドルをやっているんだから、奏音になにかを言う資格はないとも言える。


「大丈夫。詩音のビジュアルを観れば、絶対、確かにこれは言うだけのことはある、って思う人のほうが多いから」


 個人的な私の評価をするなら、たしかにたいそう目立つということは間違いない、といったところだ。

 そして、それもビジュアルにおける一つの評価基準であることも認めている。目立つというのは、人を惹きつける力がある、ということだから。

 なんにしても、まずは見てもらわないと、なにも始まらないからね。

 ただ、それを、一番の美少女だとか、奏音が言うほどに評価はしていない。もう少し冷静に見ている(と思っている)だけで。


「奏音の言っているのは身内贔屓が入っているから」


「それを言うなら、詩音だって、私の歌が誰にも負けないとかって言っていたでしょ?」


 それは、だって、事実でしょう?


「それは、客観的に評価されているでしょう。養成所のテストの順位、知ってるよね?」


 歌の項目に関してだけなら、奏音はぶっちぎりだから。 

 いや、評価の点数に百点までしかないから、見かけ上は、それほど差がないけど。

 歌唱のコーチに関しても、なにも言うことがないって言われてるよね?


「それは、養成所のテスト項目にビジュアルの評価がないだけだよ」


 アイドルにとっては、ビジュアルも実力のうち。というか、ある意味、一番大切とも言われる。もちろん、公然に、ではないけど。


「それはそうだけど。それはわりと、努力でどうにかできる部分じゃないし、テストしても仕方ないから」


 一応、やろうとして、できないこともない。

 でも、それは、単純な外見というだけじゃなくて、自分の魅力を理解しているのか、どうすれば一番それを引き出すことができるのか、意地向上させる努力を怠ってはいないか、なんていうところだろう。

 そういう、自然じゃないところに関しては、私は全く素人と考えていい。これから、学ぶべきところだ。


「べつに、努力でどうこうできる部分もあるでしょ。多少は、だけど」


 それは、まあ、一応、私だって、スキンケアとかの知識はあるけど。人並みくらいには。

 自分でやったことはないけど。

 母に聞いてみたこともあるけど、教えてはくれたけど、(今は)やる必要はない、っていう意見だったから。


「でも、つまり、そういうことでしょう?」


「どういうこと?」


 奏音が指を突きつけてくる。


「現状、そういった努力がなにもない、知識もほとんどない、そんなあやふやな状態でも、これだけの評価を受けている、っていうことだよ。むしろ、客観性がないのは、詩音のほうじゃない?」


「私?」


 私だって、一応、自分の容姿が目立つものだって自覚はあるけど。


「詩音は、自分の容姿が目立つっていう自覚、そこで止まっているんだよ。もっと、自信持って。ただ目立つだけじゃなくて、しっかり、見ている人に魅力的に思われているって。これも、言いたくないけど、だからこそ、誘拐未遂なんてことまで起きたんだよ?」


 たしかに、私たちより売れているアイドル、人気のあるアイドルはごまんといる。

 もちろん、あの犯人の地理的状況なんかもあったのかもしれないけど、すくなくとも、養成所の中で『月城詩音』に目をつけていたのは、間違いではなさそうだった。

 

「証人もいるからね。ここに、私っていう。詩音の一番のファンが」


 自分で言っておきながら、自分のことを証人っていうのは、ちょっとどうなのって思うけど……なんとなく、奏音ならここで認めておかないと、由依さんたちとかまで巻き込みかねない。

 まあ、歌とか、ダンスとか、コミュニケーション能力とか、そういうことだけじゃなくて、ビジュアルもアイドルの実力の一つだっていうのは、認めるけど……。


「まあ、詩音はそのままでもいいけどね。ファンの中には、天然か養殖か、なんて話している人たちもいるし」


 私は、見えている部分が良ければいいと思うけどね、と奏音は肩を竦める。

 それは、私もそう思う。白鳥の水面下の羽ばたきみたいに、アイドルのレッスンの様子だって――うちの事務所は、動画っていう形で、ちょろっと後悔していたりするけど――ほとんど気にされないから。


「あんまり調子に乗らないでね?」


 奏音の額を軽く弾いておく。


「了解です」


 奏音は嬉しそうに敬礼を返してきて。

 わかっているんだか、わかっていないんだか。奏音のことだから、わかっていても続けるんだろうなという、もはや、それは信頼にすら近い。逆の逆は真っ直ぐだからね。

 

「あ、でも、もし、詩音にその自覚までできたらどうなるんだろう。それで、それを完璧に引き出すように努力を始めたら。世界崩壊しちゃわないかな?」


「奏音? なに言ってるの?」


 奏音はまだ一人の世界みたいに続けていたけど、私は聞かないことにして、帰り着くまで眠ってしまうことにした。睡眠不足も美容の大敵だからね。

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