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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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一回や二回程度踊っただけで覚えたわけじゃない

 ◇ ◇ ◇



 この養成所での月末の発表の形式は、主に四つのパターンに分けられる。

 用意された曲と用意された振り付けをこなすパターン、用意された振り付けに自作で曲を合わせるパターン、用意された曲に自作で振り付けを合わせるパターン、そして、自作の曲と自作の振り付けを披露するパターンだ。

 今回は、最初ということで、曲も振り付けも自由に選べるというものだったから、私たちの場合、既存の曲と既存の振り付けを使うというパターンの発表になる。

 こうして四つ並べられると、どうしても、欲張ってというか、良いところを見せようとして、自作の曲と 自作の振り付け、みたいに頑張ろうとしてしまうところもあるかもしれない。

 もちろん、曲作りも、振り付け作りも、指導というか、アドバイスはもらえるだろう。

 ただし、今回はそこの創作性を求める試験じゃない、はず。あくまでも、現時点での個々人の習熟度、あるいは、グループとしてのまとまりを見るためのものだと思っている。 

 この時期、つまり春先って意味だけど、入学とか、卒業とか、新しい風が吹き込むシーズンだから。実際、私や奏音、朱里ちゃんみたいに、この春から通い始めた、みたいな生徒もいるわけで。

 そして、今までに行われてきたのは、基本、基礎、土台作り。そこから、いきなり発展形を見せろというのは、無理な話だ。

 そして、なにも、自作のものばかりがもてはやされるわけじゃない。

 曲や歌詞、振り付けの作成ができれば強いのは当然で、そこから培われる力もあるだろうけど、ともかく、今回はそこは重要視されないのだから。

 たとえば、皆が自作曲の歌詞やメロディに悩んでいる時間を振り付けや歌のマスターと反復練習にあてられれば、そこに差をつけられるということになる。

 もちろん、どこを重要視するのかなんてことは、個人個人で考えもあるだろうから、下手に突いたりはしない。歌が好きだとか、ダンスのほうが得意だとか、好みによっても変わるだろうし。オリジナルで楽曲や振り付けを作ってみたい、という人たちもいるだろう。

 由依さんや真雪さんみたいに、以前から通っていた人たちにとっては、いまさらなことかもしれない。

 むしろ、私がちゃんとここに通っている子たちのパフォーマンスを見たのは入所オーディションのときだけだから、先輩たちの演技はもちろん、気にならないはずがない。

 それは、私たちも気にされている、というくらいには、浮かれることはないにしろ、気を引き締めてやる必要があるだろう。

 今回は、マイクもないから、地声での歌の上手さがはっきり出るんだよね。

 奏音と比べられることが怖くないと言えば嘘になる。というより、奏音のあの歌になにも感じないようなら、感度が低すぎるから、あまり音楽系の道は向いていないだろう。

 こうして間近で一緒に練習することで得られるものもあるだろう。もしかしたら、絶望するほうになるかもしれないけど、そこは、乗り越えるしかない。

 私も、奏音も、この世界でやっていくなら、必ずぶつかる、そして、同世代なんだから、ずっと、どっちがうまい? って比べて言われ続ける場所にいるわけだから。

 

「奏音って、歌うときになにか気をつけていることとか、気にかけていることってある?」


「うーん、ノリ?」


 なるほど、感覚派。

 もちろん、感覚派が悪いってことじゃない。むしろ、それはその人の強みになる部分だ。

 ただ、他人への共有が難しいから、グループでの作業には向かないって感じなだけで。もちろん、感覚派の中にも、理論立てて説明できる人はいるし。

 感覚で掴んだものを言葉にする作業が上手い人って言ったほうが近いかな。

 私の表情に芳しくない感じを見て取ったのか、奏音は少し慌てた様子で。

 

「あ、ノリで歌ってるって意味じゃなくて、その音楽のノリというか、リズムとかビートが一体になる感じっていうか……没入する感じ?」


「……グルーヴってやつかな」


 私もそこまで詳しいわけじゃないけど。

 グルーヴ、ようするに、楽しさを呼び起こすような、その音楽に馴染んでいて、身体を動かしたくなるような、リズムと一体になっているような感覚のことだ。それを心地よく感じられる状態のことを、グルーヴ感、なんて呼んだりもする。

 

「ダンスでは、感覚的な素晴らしさ、なんて言われていたけど」


 結局、言葉にされてもわかり辛い。

 意味は理解できるけど、感覚の話だと、自分で体感するしかないわけだし。


「そういえば、詩音って、ダンスも習っているんだよね」


 習っているわけでもないのに、そこに、しかも、そうとは意識せずに辿り着いている奏音のほうが、すごいというか、恐ろしいって感じだけど。もちろん、良い意味で。

 

「昔からね。アイドルにはダンスの実力は絶対必要だと思っていたから」


 だから、下積みって言うと感じが悪いけど、土台作りみたいな感じで。

 歌は、ある程度独学でも、学校でも音楽の授業があるからなんとかなっていたけど、ダンスは学校の授業では習ったりしないから。

 一応、授業でやらなかったということもなかったけど、さすがに、フォークダンスじゃあ、あまり参考にはならないだろう。それも、中学に入ってからで、まだ数回しかやっていないし。

 

「じゃあ、振り付けはもう、しっかり入ってる感じ?」


「まあ、一応……そもそも、今回のは既存のものを使うんだから、奏音だって、まったくの初見ってことじゃないでしょ?」


 アイドルを目指しているなら、一度くらいは、自分でも歌ったり、踊ったりしてみたことがあると思うんだけど。

 

「いや、そんな、一回や二回踊っただけじゃ覚えられないよ」


 歌は覚えるのに。

 まあ、それは今言っても仕方ない。誰にでも、得手不得手はあるものだから。

 というか、私だって、一回や二回踊っただけで覚えられたりはしないし。

 

「でも、オリジナルじゃないから、すり合わせが必要じゃないし、家とかでも、個人で練習できるからそこは助かる」


 奏音が安心したように笑う。 

 まさに、既存の曲とダンスを選択した理由の一つがそれだ。

 バラバラに練習しても、元が同じで、できあがったものがあるから、後からでも合わせることができる。


「無理はしないでね」


「詩音こそ」


 オーバーワークは身体を壊すからね。

 頭の中で反復するくらいは全然かまわないけど。

 

「詩音は、のめり込むと無理を無理と感じなさそうなタイプだから、余計に心配というか、気になるんだよね」


 それは、まあ……好きなものはいくらでもできると思ってるけど。

 それで、調子に乗りすぎて、歌いすぎて、翌日に喉をからしたりしたこともある。 


「そうならないように気にかけてるから大丈夫だよ」


 詰め込んで無理をしなくてもいいように、日々過ごしているから。

 一度に急にやろうとする負荷は危険だけど、それを少しづつに分けられるなら、リスクは軽減できる。


「本当に?」


 奏音がジトっとした目を向けてくる。

 

「本当だよ。だって、それで、下手に身体を壊して、次の日から練習が停滞するほうが、合計で考えたら、マイナスでしょ?」


 毎日六十づつやるのと、一日に百十やって、翌日休んでしまうのだったら、毎日、六十づつのほうが効率がいいという話だ。

 筋力トレーニングで、超回復の話なんかが絡んでくると、また違うのかもしれないけど、その辺りのことは私は詳しくないからわからない。一応、最低限くらいのトレーニングはしているつもりだけど……。


「ユニットで参加するって決めた以上、どっちかが身体壊したらアウトだもんね」


「体調には気をつけてね、奏音も」


 体調管理も仕事のうちだ。私たちは、まだ、アイドルを仕事にできてはいないわけだけど。

 

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