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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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アイドルとしての真骨頂

「でも、由依さん。ライブとはいっても、どうするんですか?」


 由依さんやみなみさんと私は違うユニットだから、同じ曲を同じ練度でというのは、今この場所で、ということだと難しい。

 多少は練習できる期間がないと、『LSG』の歌やダンスはともかく、『iシナジー』の曲は全然知らないわけだし。

 それとも、べつの、たとえば『FLURE』の曲をやるとか?

 

「由依さんやみなみさんの実力は知っていますけど」


「大丈夫よ。『ファルモニカ』の『Shining Brightly Stars』なら、私たちもできるから」


 由依さんは得意げにウィンクを見せ。


「任せてー」

 

 みなみさんもリラックスしている――つまり、いつもどおりの、笑顔を浮かべている。

 以前、事務所の策略というか、私たちのデビューのためという理由があったことは明白だけど、養成所のテストでの課題曲に『Shinig Brightly Stars』が選ばれたことがあった。

 それは、あのときに養成所に所属していた人なら誰でも、一定以上のクオリティでダンスと歌をこなすことができる、ということでもある。

 もちろん、自分たちの楽曲だし、今回は勝負ではないにしろ、クオリティで負けるつもりはない。

 奏音なら、私のほかにもできる人がいるのなら自分がいなくても大丈夫、というより、私のほうがもっと上手に詩音と合わせられる、と思ってくれるはず。

 ただ、今のメンタル的に、どっちに転ぶのかはわからないところだけど。

 それでも、私たちはユニットのパートナーなんだから、奏音はそんなに柔じゃないと信じるだけだ。

 もっとも、同じ話が、由依さんたち『LSG』の曲についても言えるわけだけど。

 私はもちろん、みなみさんだって、自分と同じ事務所、養成所のアイドルの曲を歌えない、踊れない、ということもないだろうし。

 とはいえ、今回は奏音のためのライブだから。

 

「じゃあ、三人だし、詩音ちゃんがセンターね」


「わかりました」


 この中で養成所のテストの個人順位的に、平均して一番上なのは由依さんだけど、これは私たち『ファルモニカ』の曲だし、奏音の問題は私の問題だ。なにより、私も、自分が真ん中で、先頭に立って、奏音に聞かせたい。この曲でのテストをやったときには、私たちのほうが由依さんたちより順位が上だったという実績もある。

 ただ、由依さんの思惑としては、単純に奏音を元気づけたい、というだけではない気がするけど。


「どうかしたかしら、詩音ちゃん」


 由依さんは、楽しそうに、みなみさんと一緒にスマホを見つめている。流れている曲からしても、私たちの動画を見返しているんだろう。

 以前、テストがあったとはいえ、半年以上は前の話だ。

 定期的にレッスンをしている私たちとは違う。私だって、由依さんたち『LSG』の曲をやるとなったら、たとえ、知っている曲でも、見返すからね。

 

「いえ、なんでもありません」


 由依さんの考えがなんであろうと、私のやることは変わらないし、目的、あるいは、気持ちと言ってもいいかもしれないけど、私と由依さんとみなみさんの気持ちが揃っているのなら、それで十分だ。

 私たちの気持ちはひとつ。奏音に元気になってもらいたい。

 奏音を、観てくれる人を笑顔にするっていうのは、アイドルの真骨頂だからね。



 さすがというか、由依さんもみなみさんも、ほんの十分程度見返しただけで、高クオリティのダンスと歌を仕上げてきた。


「どうかしら、詩音ちゃん」


「さすがですね、由依さんも、みなみさんも。お金を払ってもいいレベルでした」


 本当に。

 時間がないからとか、奏音の(私の)ために来てくれているんだからとか、そういうところでの忖度はまったくなく、そのままステージに立っても問題ないクオリティに見えた。


「詩音ちゃんにそう言ってもらえたなら、ひとまずは安心というところかしら」


 この場には蓉子さんはいない。

 そもそも、私たちの曲をやっているわけだから、誰より、私がしっかり判断できないといけないものだ。

 自分たちの曲を録画以外で真正面から見る機会って、ほとんどないからね。

 鏡とか、パートナー――つまり、奏音――のものならあるけど、自分の姿って、自分だけでは絶対に見ることはできないから

 だから、なかなか新鮮な気持ちで見ることができた。

 ただ、一つ、言えることがあるなら。


「本当は、応援するとか、励ますとか、そういうことなら『全力ドリーマー』のほうが、向いているんですけどね」


 むしろ、そういうための曲だ。


「ごめんなさい。そっちは、私たちにはできないのよね」


 由依さんに謝られて、私は慌てて手を振って。


「いえ、そんな。私が自分勝手に思っているだけですから」


 そもそも、『全力ドリーマー』は、まだリリースされていない。もうすぐのことではあるけど。

 当然、事務所の動画チャンネルなんかにも上がっていないし、養成所としてということでは、レッスンで歌ったり、踊ったりもしたことはない。

 

「でも、詩音ちゃんたちは私たちの『地に花 人に夢』もできるわよね」


 由依さんの言っているのは、『LSG』で最近リリースされた曲だ。

 こっちは、養成所での課題曲に選ばれたことはない。

 

「それは、そうですけど。でも、今回は奏音を元気づけることが目的ですから、私たち『ファルモニカ』の歌のほうが良いと思います」


「『全力ドリーマー』もファルモニカの曲よね?」


 それは、そうなんだけど……。


「うふふ。ごめんなさい。困っている詩音ちゃんが可愛くて、ちょっと意地悪を言ってみたくなったったの。この前の『アイドルバトライブ』でも思ったけれど、詩音ちゃんはアイドルのこと、本当に大好きよね」


「由依さん……」


 奏音といい、由依さんといい……まあ、二人だけじゃなくて、うちの養成所に通っている人たちほとんど皆に言えるような習性? だから、仕方ない……と諦めたくはないけど、そういうものなのかもしれない。


「全然、呆れているとか、そういうことじゃないのよ。そういうところも詩音ちゃんの魅力の一つというか、好きなことに没頭できるところはすごい特技で、見習いたいと思っているもの」

 

 そこまで言ってもらえるのは、なんというか、光栄というか、むず痒いというか。

 私はただ、好きなことを邁進しているだけで。

 

「詩音ちゃんはぁ、朱里ちゃんと私をくっつけてくれたりぃ、本当によくアイドルのことを考えているよねぇ」


「それは、半分は奏音のお陰ですから」


 奏音のセンスに頼ったところが大きい。


「とにかく、あとは、奏音を部屋から引っ張り出すだけなんですけど」


 さすがに、全力でパフォーマンスをするのに、奏音の部屋で三人(観客である奏音も入れると四人)は多すぎるというか。

 できれば、このリビングまで出てきてほしい。

 食事の時間にもなれば、来てくれるとは思うけど、できれば、そんなに遅くまでお邪魔していたくはない。如月家が嫌だとか、居心地が悪いとか、そういうことじゃなくて、あまり時間をかけたくないというか。

 如月家の普段の食事の時間とか、そもそも、決まった時間なのかとか、今日の予定とかもわからないし、それをあてにするのは得策じゃない。

 

「詩音ちゃんが握手してくれる、なんていうことなら、出てきてくれると思うけれど」


「それは軽すぎませんか?」


 それでいいなら、チェキを撮るだけで説得できそうでもある。

 奏音と一緒に写真なんて、たくさん撮ったけど。仕事でも、プライベートでも。


「じゃあ、ハグにしてみる? 私は結構、勝算ありと見ているんだけれど」


「もしくはぁ、詩音ちゃんの撮影会、みたいなことでも出てきてくれそうな気はするけどねぇ」


 やっぱり、同じアイドルだと、思考も似るもの。

 どっちもいいわね、なんて、由依さんとみなみさんは盛り上がっている。

 

「奏音が説得できるというのなら、全部やりましょう」


 ハグだとか、握手だとかで、機会ができるなら安いものだ。

 そもそも、そんな程度なら、普段からやっていることだし。



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