簡易ライブで示したいこと
蓉子さんからの許可も無事もらえたことで、私と奏音は、合同での練習に入る。
同じ養成所という意味では、今までだって、合同で練習してきていることに違いはないけど、それはあくまで、個人の技能を磨くための練習で、二人で合わせるなんてことまでやっているわけじゃない。
もちろん、ソロでデビューするのでもない限り、ユニットやグループを組むということなら、他人と合わせる練習は必須になることだ。
言うまでもなく、難易度は高い。音楽に合わせるというのは前提として、ある程度一人で好き勝手にできたソロとは違って、ユニットとなると、どれだけポーズを揃えられるかとか、呼吸やタイミングを合わせられるかとか、歌の重なり方はどうかとか、気にするべき点は増える。
今回は、奏音と私の二人だけだから、そこまでの大変さはないけど、それでも、難しいことに変わりはない。
グループでデビューするとなると、これを、もっと多人数で合わせられる必要が出てくるのか。
近いところでは、小学校の運動会であった、ダンス、たとえば、ソーラン節を学年全員で合わせたようなものだろうか。
さすがに、あれと比べたら、人数は少ないけど。
アイドルグループの多いところみたいに、十数人とか、あるいは、数十人なんてことでもないわけだし。
「逆に辞めたくならないかな?」
「私たちのパフォーマンスを見てってこと? さすがに、それは言いすぎじゃない、詩音」
頑張って素敵なステージを披露した私たちのステージを見て、感化されるんじゃなくて、自分たちにはそこまでの情熱がなかったんでしょとか、そんな風に冷めてしまわれても困る。
自意識過剰だってことはわかってるけど。
「それに、それで辞めたくなるなら、朱里ちゃんの言い分じゃないけど、そこまでだったってことで、私たちが気にしてどうこうできる範囲を超えていたってことだよ」
そうして割り切れないから、私たちがこうして画策しているわけなんだけど。
そんなことは奏音もわかっていることだろう。
「たしかに、ライバルが減るのが寂しい、残念だって思う詩音の気持ちはわかるよ。でも、私たちだって、そこまで他人のことを気にしていられるような余裕がないっていうのは、詩音も言っていたことだよね」
そう。私たちは半人前同士で、二人合わさっても、一人前になれるかどうかは怪しいくらい。
その中でやると決めた簡易ライブなら、せめて、それだけに集中しないと、届けたい想いも届けられない。
そもそも、ほかのレッスンの時間を(養成所での決められたレッスンという意味ではなく)削ってまでやりくりしていることだから、それを、中途半端にするなんてことはできない。
「同じ養成所で学ぶ仲間ではあるけど、デビューの座を争うライバルでもあるんだから。私は、自分のチャンスをふいにしてまで、他の人たちを掬いあげたいとは思ってないよ」
「それは、最終的には、そうなるのかもしれないけど」
まだ、そんな極論を持ち出すのは早いと思う。
先輩たちからだって、学ぶことのできるすべてを学びきったとは言えない。それに、そうだとしても、先輩は先輩で、敬うものだということは変わりない。
「そんな先のこと、しかも、あんまりありえそうにないことを考えていても仕方ないよ」
「そうだね」
私の気持ちとしては、奏音に言われたとおりの、ほとんどそのまんまだったけど。
「それとも、詩音は自信あるの? パフォーマンスで圧倒して、屈服させられると思えるだけの」
「そこまでは思ってないけど……」
いずれは、そのくらいの気概でやらなくちゃならないときがくるんだろうか。デビューの椅子を巡ってという場合には。
「今回はそこまでじゃないでしょ? もちろん、やるからには、感動させたいと思ってるけどね」
感動、憧れ。屈服なんてその先だ。
そして、私はまだ、その境地には至れていない。
だからといって、アイドルの仕事が感動を届けることだというのは変わりはない。
そのステージがどんなものであろうと、誰かになにかを届けることはできるはず。
「それって、奏音には自信はあるってこと?」
「どうだろう。実はあんまりないかも」
奏音はそう言って、肩を竦める。
奏音は、歌については、それなりに、自信を持っていると思っていたし、今までの様子からもそうだった。
「もちろん、ステージには自信のないところなんて出さないからね」
「……普段なら絶対にそのとおりなんだけど、今回は、あえて、その未熟さがあったほうが良いのかもしれない」
え? と奏音がわけのわからないという顔をする。
私だって、普段なら、絶対こんなことは言わない。いつだって、最高のパフォーマンスを求め続けることが、私たちのするべきことだから。そして、それが、見に来てくれる人たちへの、敬意というものだろう。
「もちろん、わざと、未熟さを残すなんてことじゃないよ? ええっと、難しいんだけど、私たちもまだ成長途上だから、皆で切磋琢磨していきましょうって方向に話を持って行けるのが良いと思うんだよね」
それが、圧倒して、屈服させるような、完全に見下されていると思われてしまうようなパフォーマンスだったらどうだろう。
皆、丁度いい機会だからと、この養成所を辞めてしまうかもしれない。
それじゃあ、本末転倒だ。辞めてほしくないから、企んでいるというのに。
もっとも、私たちのパフォーマンスで、喧嘩なんてしている場合じゃないと思わせるには、圧倒してしまうような気概が必要になってくるだろうから、その相反する二つを同時にこなす必要があるわけで。
ファンと成長の実感とか喜びを分かち合う、というのとも、少し違うかな。
「そんな必要あるかな?」
自分で言っていても、白々しいとは思ったけど、奏音にはまさにはっきりと指摘される。
「やっぱり、ないよね」
当然、観客には、最高のものを届けるつもりでやるべきだ。まだまだ未熟な私たちは、最初からそういうくらいの気持ちでやらないと、それでようやく、半人前くらいなんだから。
技術がついていない以上、気持ちを込めてやるしかないわけで。
相手が同じ、養成所の生徒だとしても。
もちろん、多くの皆で一緒に学び、研鑽し合っていこうっていうのも、本音だけど。
「とにかく、やれるだけやろうってことだよね?」
「うん、なにより、簡単なものとはいえ、こんな風にお披露目する機会ってなかなかないから」
皆に届くのかということは、ある種、試験でもある。
もちろん、トレーナー側、事務所側で判断するための、レッスンの中で行われる発表の場はあるけど、それは、せいぜい、月に一度とか、そんな感じで。
トレーナー、つまり、大人にじゃなくて、私たちと同じ、研修生にどれだけ届くのかっていうことは、一つ、指標にはなると思う。
それも、決められている場所じゃなく、自分たちで設定した場所であるというのなら、なおさら。
そもそも、だしにするわけじゃない――結果的にそうなることは認めるけど――とはいえ、ただ、こうして発表する場を設けてもらえたというのは、経験という意味で、滅多に得られないものであることに違いはないんだから。
私たちのライブが退屈なものだったりしたなら、なにかを届けるなんて以前の問題だ。無駄なことに時間をとらせて、なんて、諍いが発展、飛び火する可能性すらある。
とにかく、どれだけ説得力を持たせられるかは、私たちのパフォーマンスの出来にかかっている。
アイドルの歌とは、皆を繋ぐ、希望を照らすもの。
それに、皆の時間をもらうわけだから。それに見合うだけの成果は示したい。




