『自分たちのユニットの強み』
「さあ、アイドルバトライブ、第六回戦『以心伝心 連想ゲーム』も残すところあと二問です」
「全問正解のユニットこそいませんが、どこも半分以上をとってきていて、さすがというか、緊張感のあるバトルになってきていますね」
私たち『ファルモニカ』は二人だから、比較的揃いやすいというのは、そのとおりではある。
ゲームの性質上、人数が増えれば増えるほど、全員揃うというハードルは高くなるわけで、今回参加しているユニットの中で、最大のメンバー数なのは『ラフスマイル』の五人。『Dream Drop』や『放課後マスカレイド』そして、『リリカルパッション』は四人。
そんな、大人数というほどではないにしろ、決して、ユニットとしては少ない人数でもない、そのグループでさえ、六問以上を正解してきている。
「見ごたえがありますよね」
「見ている皆さんだけではなく、司会の私たちまで手に汗握る展開に、目が離せないのですが」
手に汗握るというより、もっと、出場アイドルの重要情報を握っていると思うけど。
たとえば、今回のクイズ形式にしても、多少のやらせというか、演出っぽさはあるにしても、私たちに限って言えば、九割くらいは真実なわけで。
個人情報というほどのことでもないにしろ、ファンにしてみれば、嬉しい情報には違いないはず。
少なくとも、私なら、その一端にしろ、アイドルの個人的な秘密というか、情報、事情が垣間見えるのは楽しい。
「本当であれば、百問くらい続けて、皆さんの秘密をごっそりいただきたいと思うところですが、そうもいかないのが番組ということで、残すところはあと二問となってまいりました」
「百問って、それは、企画の意図が違ってくるんじゃない……?」
そもそも、百問も質問を用意するのが難しい。
しかも、考えて、二人で揃えられるような質問となると。
それこそ、好きな色とか、好きな食べ物とか、そういうことまで入れ始めたら、百問なんてあっという間だけど、この勝負の形式として、その質問から連想されるものをパートナーと揃えるという目的というか、目標がある。
そんな個人的な質問だと、それこそ、やらせ的に、揃えにきていると思われるものが多くなってきて、逆に冷めると思うし、長くなるから、絶対、中だるみする。
クイズ番組特番、みたいな企画であれば、それでもうまくやれるのかもしれないけど、今回はあくまで、『アイドルバトライブ』の中の勝負形式の一つ、という扱いで、十問くらいというのは適正なところだと思う。
「それでは、第九問目です」
「『自分たちのユニットの強みを教えてください』。ダンスにかける想い、歌うことへの情熱、コミュニケーションの充実……それぞれ、ユニットごとに、一番気にかけている、これだけは負けない、という部分があると思いますが、それが、ユニットのカラーにもなってきますよね」
ひいては、ファンがどこを推してくれるのかということにも。
もちろん、ビジュアルが好きだ、というのも、推すポイントの一つではあるだろう。そもそも、アイドルになろうというからには、自身のビジュアルに人並み以上に自身があるからだろうし。
つまり、この場を借りてそれぞれのアピールもできるということ。今までの質問の中では、一番直接的に。
とはいえ、そもそも、この番組を観ている時点で、アイドルに興味のある人だろうから、あらためて、という必要もないかもしれないけど。ここまでの勝負をこなしてきている段階で、ある程度は、それぞれのユニットや個人のことについて知ることができていると思うから。
この次の、七番目、最後の勝負がおそらくはライブ対決だとすると、そこでこの質問に対する、目に見える形での結果を示すことにもなる。ライブっていうのは、そのユニットを表現する、絶対の場だから。
アイドル自身にとっては、自分たちの中で、コンセプトを共有できているのか、ということの確認にもなる。
今までの質問でも似たり寄ったりな部分はあるけど、自分たちの強みをはっきりと理解して、そこを意識的に表現しようとしているのかどうかということは、クオリティにも影響するはず。
少なくとも、視聴者的には、直前ということもあって、気にするポイントの一つにはなるだろうから。
たとえば、『奏音の歌を聴きたいから』というのは、一つ、ファンの理由として挙げられるだろうね。
奏音の歌には、それだけ、人を惹きつける力がある。
それに、はっきりとこの場でそれを私が宣言しておくことで、たとえ、この質問で答えを揃えられなかったとしても、奏音の今後にとっては絶対、プラスにできるはず。つまり、私たち『ファルモニカ』にとって、実りのあるものになるということだ。
三番目の質問のときにも、楔というほどではないにしろ、奏音に意識させることを目的にした部分があったけど、私たちのために番組を利用する、という気持ちくらいあっても、かまわないよね?
問題……と言えるかどうかわからないけど、一つ、言えるのは、奏音は絶対にそんなことを書いてきたりはしないから、この質問の答えは揃わない、っていうところではある。
言うまでもなく、制作側とか、出資者側、あるいは、出演者側の元の会社的にも、どこのグループを推そうとか、そういう思惑はある。
ふんわりとした、この世界の雰囲気とか、そういうことじゃなくて、現実に、そういう話がされている場面を立ち聞きしている。
だからといって、勝負を諦めているとか、そういうことはない。
ファンとしての目線であれば、ここまでの勝負で、あからさまなやらせや贔屓といった部分は見えていないだろう。そもそも、そういう部分を見せてしまったら、番組として萎えるというか、台無しだからね。
だから、できればというか、ライブ前に圧倒的な差がついていて、もう贔屓してもしなくても変わらないよね、みたいな状況は避けたい。
出演している以上、それがどんなものでも、勝負なら、勝つことを目的にしたいからね。
アイドルである以上、自分のビジュアルを強みにする、というのは間違っていない。実際、この番組内でも、ミスコンという勝負形式があったわけだし。あれは、あからさまな、ルッキズムの勝負だったからね。
そこで二位という順位を勝ち取った私なら、そこを強みだと考えていても、おかしくは取られないはず。もっとも、順位がどうだろうと、全員、意識してはいるだろうけど。むしろ、意識していないほうが、アイドルとしてのプロ意識が足りていない、なんて言われかねないことだ。
あるいは、この第六回戦、七問目として聞かれた質問は『あなたにとってのアイドルとは?』という、理想のアイドル像を尋ねるような質問だった。
そこでの奏音の答えは『憧れ』。これは、ヒントになると思う。
理想ということは、それを表現したいということ。表現したいことというのは、そのユニットの特色になっていくわけで、つまり、強みだ。
奏音も同じ考えでいるのなら、私の答えである『希望』から、推測しようとするはず。
つまり、『憧れ』と『希望』から連想されることを答えるのが、私たち自身の本音にも通じていると思う。『連想ゲーム』の考え方的にも、合っていると思うし。
あたりまえだけど、『憧れ』と『希望』の二つの単語を並べて書くだけだと、答えにはならない。
あの質問から連想したんだろうなあ、とは思われても良いけど、七問目の質問そのままだよね、なんて思われるのはマイナスになる。




