『アイドルとは』
当然、私も『アイドル事務所のマネージャー』と書いた。
実際、個人がやりたいことを選ぶっていうのは、建前だからね。それでも、ある程度以上には、本当にやりたい、やってみたいと思えるような職業にする必要はあるんだろうけど、この勝負の本質というか、大元を忘れたりはしない。
この、第六回戦は『連想ゲーム』だ。
それは、お題から連想するということのほかに、同じグループのメンバーの思考を連想する、ということでもある。少なくとも、そう考えることもできる。
だから、多少、自分自身の本音とずれていても問題はない。たとえば、今の『やってみたい職業』で『相撲取り』なんて挙げたら確実に嘘だとわかるから、さすがにだめだろう(そもそも、私たちは皆、女性だし)けど、『スポーツ選手』とか、『教師』とか、かなり努力は必要だろうけど、絶対に思っていないとは言い切れないラインであれば、正解と見做される可能性は高い。
「これは、またまた、『ファルモニカ』のおふたり、正解です」
とはいえ、揃えてきたのは、私たちだけじゃない。
ほかにも二組、『リリカルパッション』と『スピカ』も揃えてきた。
今までのゲームでも、揃えてきたことはあったけど、今回のことに関しては、それぞれのグループのシングルの曲名、歌詞を考えれば、それなりに想像はできる。
書いてきたのが、二組とも、それぞれのシングル曲の中で、出した順番に見ていったとき、最新に近いナンバーの中の、夢について歌った曲のモチーフになっているから。
たとえば、『スピカ』だったら、全員『教師』となっていて、これは、直前のシングルが学生視点の憧れの恋愛を歌ったものだから。おそらく、その相手が教師なんだろうなと連想できる。そこからとった答えなんだろうね。
そして、『リリカルパッション』のほうはといえば、こっちはすごい。なんと、全員『お姫様』だ。
普通、そんな職業……いや、そもそも、職業ですらない。
これは、『リリカルパッション』の直前のシングルが、とあるアニメの主題歌だから。それが、大まかに言えば、主人公が異世界のお姫様に転生してなんやかんやの騒動が起こる、みたいなストーリーの物語だったからだということが関係しているんだろう。
もちろん、全部、私の推測でしかないんだけどね。司会の二人も、そこまで突っ込んで聞いたりしないし。
そういうイメージの共有の仕方もあったんだね。メンバー全員が、そういう思考を共有できたっていうのは、素直にすごい。そもそも、私たちはそんなにたくさんシングルをリリースしているわけじゃないから、選択肢もないし。
もちろん、例のやらせが関わっている可能性はあるけど……そうじゃない、実力だと思っていたほうが、俄然、やる気になる。断然、燃えてくるよね。
私と奏音のユニットなんて、まだまだ、雛鳥もいいところなんだなって。
それはつまり、まだまだ、成長する余地がたくさんあるっていうことだから。
「さては、二人とも、直前の質問から連想した?」
奏音はどうかわからないけど。
「はい」
私はそのとおりだ。
「私もです」
どうやら、奏音も同じだったみたいだ。
そこまでは考えていなかったけど、同じ考えだったと実際に知ると、嬉しさは増す。
「普通なら、詩音なら絶対『アイドル』のはずなんですけど、それ以外っていう話でしたから」
「それは私だけじゃないと思うよ、奏音」
正直、『アイドル』っていう答えが許されていたら、全員もれなく、それで正解していたと思う。
この質問は、クイズ番組みたいに、特定の答えが決められているわけじゃないから、それにもかかわらず、全員が全員とも一致した答えを挙げていたら、それはそれですごいことで、歓声は上がっていたかもしれないけど。
「さて、次は第七問。ラッキーセブンです」
「そこで、ずばり聞いてみましょう。『あなたにとってのアイドルとは?』」
個人名やグループ名というより、私たち自身の思い描くアイドル像というものを聞きたいらしい。
それぞれの中に想いはあるだろう。誰だって、思い描く理想像というのは心にあるはずだから。
でも、それが他のメンバーと、必ずしも一致しているとは限らない。
この質問は、『あなたにとって』と言っているところに落とし穴がある。そう言われたら、誰だって、個人的な理想を思い浮かべる。
でも、この質問の本当に聞きたいことは、『あなたたちのグループはどういう夢や希望を持ってアイドル活動をしていますか? 今後の目標は?』などといったところなんだと思う。結局、メンバーと答えを合わせるんだから。
つまり、所信表明だよね。あるいは、自己紹介ともいう。
自分たちのグループ、ユニットを宣伝する場を設けてくれた、ということだ。深読みのしすぎかもしれないけど。
たとえば、ドーム公演だとか、全国ツアーだとか、そういうことまで視野に入れて活動しているのかどうか。
もしあるのなら、そういうことまでできるアイドル、というのが答えになるだろう。
あるいは、自分がアイドルを目指したきっかけということでもいい。それはつまり、自身の中の目標というか、明確なビジョンということだから。これもまた、答えにはなるだろう。
もしくは、理想を聞いているという可能性もある。
これは、言葉そのままの意味で、アイドルというものを説明してください、ということになる。
ほかにもいろいろ、解釈の幅が広い。『可愛いもの』とか、『大切なもの』も同じだけど、メンバーの思考をしっかりと想像しないと、揃えるのは至難だろう。
もちろん、こういった感じの話題は、どのグループも、多少なりとも、プライベートだったり、あるいは、レッスンとかでも、話したことがないとは言わないだろう。
それでも、今までの問題と同じく、誰に揃えるのか、という問題がある。そして、相手は、誰に揃えてくるのか、ということも。
これが番組で、形式が勝負である以上、答えを揃えにいくというのが正着なんだろう。
実際、自分の想いを貫いた『一番大切なもの』は揃えられなかったわけだし。
でも、だからといって、日和った答えを書く? それは、奏音にも、それから、ファンの人たちの期待も裏切る行為だ。
私は『アイドル月城詩音』としての、真っ直ぐ、偽りのない答えを書くべきだ。すくなくとも、この質問に関しては。
つまり。
「それでは、答えを見ていきましょう」
「フリップオープン!」
私の答えは『希望』。『夢』でも良かったかなとは思ったけど、実際、今こうしてアイドルをやっているからね。
願いという意味ではなく、照らしてくれる光という意味での。
これから先、アイドルとして叶えていきたい夢、たとえば、それこそ、全国ツアーだとか、ドーム公演だとか、そういうことはあるけど、今回のお題の趣旨とは外れている。
アイドルがいたから、今の私がある。つまり、私にとってアイドルという原点は『希望』に他ならない。
私自身のということでも、それを与えてくれる存在だという意味でも、そして、それを与えられる存在になりたいという願望でも。
そして、奏音の答えは『憧れ』。
解釈次第ではあるけど、これは多分、違う答えと認識されるんじゃないかな。
多分だけど、『憧れ』だと、ああなりたい、といったような、願望的な側面が強くなると思う。
それこそ、『希望』のもう一つの側面とも捉えられるわけだけど、私の考えとは、少し違う。もちろん、同じ部分もあるし、お題的には正解になる可能性はあるだろうけど。




