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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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私はいいよ

 このお題はくじで決めたわけだけど、たまたま、私たちが二人だったから良かったものの、三人とか、四人とかのグループに当たっていたらどうなっていたんだろう。

 お嬢様の部分が姉妹になるとか、あるいは、メイドが複数侍っている設定にするとか? 

 どうするにしても、このお題でやりきるには、人数が問題になってくるような。

 まあ、あくまでも『お嬢様とメイド』が主題になっていれば問題ないわけだから、他の登場人物が増えても関係ないか。多少、台詞とか、動きとかが複雑になるかもしれないけど、それは、このお題に限った話でもないだろうし。

 あるいは、あの台座の下が空洞になっていて、くじの入っていた箱も、下が開けられるようになっていて、中に潜んでいた人がくじを入れ替えていた……なんて。

 そこまでやるくらいなら、逆に面白い。

 それになにがあろうと、私たちの番は終わっているわけで、これ以上、できることもないんだから、他の人たちの演技に集中していればいい。

 その後も、たとえば、『探偵と怪盗』とか、『教師と生徒』とか、あとは、『恋人同士』なんていうのもあって。

 どこも、時間は短かったにもかかわらず、しっかりした内容に仕上げていて、私たちのものが一番拙かったとは言わないと思う(自己評価故の甘さも多分にあるだろう)けど、見ているだけでも楽しかったことは間違いない。

 どれも、何人であってもできるようにはなっていたとはいえ、やっぱり、人数が多いほうが有利だよね。掛け合いとかも、見ていて楽しい。もちろん、私たちの経験不足という面はあるにしても。

 私と奏音の『ファルモニカ』は二人組だし、由依さんたちも、朱里ちゃんたちも、他の仕事があったから仕方ないことだったとはいえ。

 あるいは、一緒にこの番組に呼ばれていたとしても、ユニットが違うわけだから、参加もべつべつだったかな。

 そこはそれ、事務所の連合として、出場できたりは……まあ、しないか。そこまですると、総勢で八人にもなるからね。さすがに、そこまでの人数差は見逃されたりしないだろう。現状では、二人と五人での三人差が最高だけど、八人と二人にもなると、六人の差ができるわけだし。

 それに、そうなると、他の組も事務所ぐるみで一緒に参加してくることになって……それはそれは、楽しそうに思えるけど、さすがに、制作というか、進行が大変すぎるだろうね。一戦ごとに出場者を選抜する形式にするっていうなら、今と変わらないわけだし。

 

「すこしでも、演技の指導を受けていれば違ったかな?」


 奏音が思い返すように呟くから。


「ダンスと歌のレッスンに集中して、アイドルとして、ライブのクオリティを高めるっていうのは、正解ではあると思う。実際、それが、事務所の方針なんだろうし。でも、せっかくなんだし、いろんなことに挑戦するのはありだよね」


 それこそ、演技とか、料理とか、美術とか。

 アイドルとして、これからもそれらを披露する機会がまったくないとは思えないから、そこで、想像以上のものを披露できれば、見ている人を驚かせることができるし、話題にも乗りやすくなる。つまりは、人気、そして、仕事に繋がる。

 それに、こういう番組に出演できたっていうことも、私たち自身のキャリアだけじゃなくて、画面内での立ち振る舞いとか、それこそ、相手の技術だとか、学ぶことのできるところもたくあんある。

 

「出演できてよかったね。歌もダンスもまだまだなのはそのとおりとして、他に足りないものが具体的にわかったから」


 もちろん、出演して顔が広められた、ということも含めて。

 

「でも、どうする? さすがに、蓉子さんに『料理を教えてください』なんて、頼めないでしょ?」


 蓉子さんなら、時間を見つけて教えてくれそうな気はするけど。

 

「料理くらい、家でも教えてもらえるんじゃない? むしろ、喜ばれるかもよ?」


 家事手伝いっていうことで。

 女子力的な意味で、プロフィールの欄に料理が得意なんて載せられると、ちょっと格好良くも見えたりするし。

 この番組を見てくれた人からは、疑問符付きに思われるかもしれないけど。

 

「なるほどね。でも、私は作るより、作ってもらいたい。詩音の手作りには期待してるから」


「またそうやって。奏音も、歌以外の特技もあって良いんじゃない?」


 まあ、奏音の歌は、特技っていうレベルじゃないけど。

 一つでも、圧倒的に突き抜けているものがあるなら、そ子に集中する、それを伸ばすっていうのは、正解かもしれない。

 

「えー、私はいいよ。そんなに、なんでもかんでも手を伸ばせるほど器用じゃないから」


 奏音は、柄じゃないよ、と手を振る。

 

「奏音……?」


 なんというか、その態度にいつもの奏音とは違うような、諦めというか、そんな感じの雰囲気を感じて。直前には、わりと乗り気だったように思っていたんだけど……違ったのかな?

 私と奏音はユニットを組んでいて、お互いのことはよく知ろうと努めてはいるつもりだけど、まだ、表層的なものにすぎないのかもしれない。

 

「それより、詩音。切り替えて、次の種目で頑張ろうよ。あと二つしかないんだから」


「……そうだね」


 奏音の態度には、空元気というか、誤魔化しているようなものを感じたけど、多分、ここで突いても良い結果にはならないだろうと直感した。

 蓉子さんは、メンタルケア的なことも仕事のうちだって言っていたから、後で、迎えに来てくれたときに相談してみようかな?

 それとも、今日は止めておいたほうが良い? この場で、奏音の聞いていないという状況を作るのは難しいし、奏音のことを相談したいのに、本人に聞かれるのは良くないだろうし。

 べつに、陰口とか、そう言うつもりはまったくないけど、精神的なものは、本人にがっつり知られるのも良くなさそうというか。

 奏音自身がそこまで気にしていないようなら良かったんだけど、なかなか、ガードが堅そうだし。 

 それとも、恵さんに相談してみる?

 でも、私が気づいたようなことを、母親である恵さんが気づいていないとも思えないんだけど……家族故っていうこともあるのかな? 私は、如月家とは、奏音と、それから、恵さんとしか面識はないけど、たしか、ご両親以外に、お兄さんとお姉さんがいるんだよね。

 たしかに、奏音はアイドルとして、仕事もレッスンもしっかりこなしているから、家族との時間があまりない、っていうのは、わからなくもないけど。多分、私と同じような感じなんだろうし。

 家族にも話せないことがあるっていうのは、私だってわかるけど。

 

「詩音? おーい。大丈夫? ちゅーしちゃうよ?」


「大丈夫だから」


 ちょっと考えごと、と私の目の前で手を振っていた奏音を遠ざける。

 あえて、話題にしてみる? ふざけられるなら、大丈夫だと思うけど。でも、気にしているがゆえの空元気だったら困るからなあ。

 見た感じは、そんなこともなさそうだけど。

 とはいえ、奏音の言うとおり、今は番組に集中するべきであるのは間違いない。

 私たちが心ここにあらずな態度であったせいで、番組としてのクオリティが下がるような真似は避けないと。そもそも、実力で差があるのに、集中力でも負けていたらお話にならないからね。

 

「実際、今の点数から一位は難しいね」

 

 諦めるわけじゃないけど。


「多分、最後のライブ対決で、一位が百点とか、そういうことなんじゃない?」


「そんな冷めることするかな?」


 次の、第六回戦の点数と、第七回戦の点数は伏せられるらしい。一応、順位は出るけど、点数差で、最後まで観なくてももういいか、なんて思わせないようにだとか。


「でも、なんにしても、ライブで負けるつもりはないけどね」


「もちろん」

 

 その前に六回戦もあるけどね、とは、奏音のやる気に水を差しそうだったから言わなかった。

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