表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

200/313

『アイドルバトライブ』三回戦 ミスコン

 ◇ ◇ ◇



「さて、皆さんお待ちかね、三回戦は『ミスターのない、ミスコンテスト』です!」


 休憩で下降したテンションを吹き飛ばすような、頭上の太陽にも負けないくらいの笑顔と声で、司会の柏原要さんと白石美緒さんが宣言すると、会場内のボルテージも一気に上がったように感じられた。

 

「参加者の皆さんには、それぞれ、順番にステージの上でパフォーマンスを披露していただきます。それぞれの持ち時間は二分以内。短くてもかまいませんが、過ぎれば強制的に終了となります」


「パフォーマンスの内容については、とくに制限はありません。それぞれ、自分の魅力を存分にアピールしてください」


 いやあ、楽しみだね。

 ただでさえ、魅力的なアイドルが、その自分の魅力を惜しまずどころか、よりいっそう、際立たせるようにアピールまでしてくれるなんて、そして、それを間近で見られるなんて。

 

「なお、今回の勝負は、ユニットではなく、個人で出場していただき、メンバーの順位に応じた点数がそれぞれ入るという仕組みになっています」


「人数の不利があるとは思いますが、そこは皆さんアイドルですから、それぞれのユニット、パートナーの点数と合計して、人数で割った平均点で勝負が決まります。つまり、人数の多さは関係がない、ということですね」


 私たちは知っていたけど、視聴者に向けて、あらためて、勝負形式の説明がされる。

 アイドルといえば、仲間とのステージ。それが大切だっていうことだね。もちろん、この後も番組は続くわけだから、ここでどうなろうと、喧嘩をしたりしない、あるいは、その様子を見せない、ということも。

 

「それでは、『アイドルバトライブ』三回戦、スタートです」


 私たちはステージに揃って姿を見せる。

 一気に画面が華やいで、ひな壇にいる参加者から、拍手が送られてくる

 

「ねえ、奏音。やっぱり、このステージって、おかしいよね」


「それは……詩音、多分、なにか違うこと考えているでしょう?」


 隣の奏音に小声で話しかければ、奏音は賛成しかけて、すぐに、言い直した。

 もちろん、私が言いたかったのは、八百長があるからなんていうことじゃない。

 

「なんで、私たちの立ち位置からだと、アピールしている人たちの後ろ姿しか見られないんだろうね」


 当然だけど、私たちはステージの上に並んで立っていて、そこから一人づつ、ランウェイを進んでアピールする形式になっている。

 そうすると、私たちの立っている場所から見えるのは、参加者が進んでいく後ろ姿だけ。スクリーンはあるけど、それも私たちの後ろ側だ。

 もちろん、私だって、わかっている。これは、画面の向こう、視聴者に向けての放送なんだから、参加者である私たちじゃなくて、審査員とか、ファンの人たちとかに向けて、演技をする必要があるんだということは。そして、このステージに全員並んで立っているのは、少しでも長く、視聴者に私たちの姿を見せるように映すためだっていうことも。

 でも、それならそれで、私たちだって、待機場所くらい、向こう側にひな壇でも用意してもらって、そこで見せてくれたらいいと思うんだけど。

 姿を映すくらい、二画面というか、画面の下とか、上のほうにでも別枠で作ってくれたらいいよね。

 それだと小さくなるわけだけど、どうせ、アピールしている人を集中的に映すわけだから、その間はどうしたって、他の人の姿は小さくなるか、あるいは、見切れたりするわけで。

 そんな感じなら、べつに、無理に映さなくても良いよね、と思うことは変じゃないだろう。


「それは、後ろに立っているからでしょ」


 奏音がごく普通の答えを返してくる。

 さすがに、カメラの前、溜息をつくようなことはしなかったけど、視線でそれがわかるくらいには、私たちはユニットだということだ。

 言うまでもなく、奏音にも、私がなにを言いたいのかということはわかっていながらの返答だ。


「それに、ここからだって、ちょっと横に顔を向ければ見られるでしょ。見にくくはあるけど」


「そうじゃなくて、私はアピールしているところが見たいの」


 並んだアイドルの水着姿は、たしかに、壮観だ。それが近くで見られるのは、まさに至福と言っていい。

 でも、それはそれ。せっかくなんだから、一番の見どころを見たい。

 だって、ライブに置き換えたら、アピールってようするに、ファンサのことだよね。

 正面にいれば、直接受けられるんだよ? もちろん、カメラに向かってやるわけだけど、正面に近い位置で見られるなら、それでも十分。


「あとで、アーカイブを見返したら?」


「それは、見返すけど、そうじゃなくて、生で見たいの」


 といったような会話を、全部、笑顔を浮かべたまま、口先だけでやり取りする。

 カメラに会話を拾われるわけにはいかないからね。もちろん、インカムのスイッチはオフにしている。べつに、この待機場所? でオフだったところで、アピールの最中にオンにしていれば問題はないはず。

 

「言っていても仕方ないでしょ。それより、詩音に限って、万が一にも大丈夫だと思うけど」


「万が一にも大丈夫って、言葉おかしくない?」


 また、現代文の勉強をさぼっているわけじゃないよね?


「詩音なら、よっぽど馬鹿なことを考えていない限り、問題ないと思うけど」


 それでも、奏音は言い直して。


「今はステージに集中して。詩音の一番可愛いところは、私だって楽しみにしてるんだから」


「一番可愛いところって言われても……」


 自然体っていうこと? もちろん、ステージの上で、いきなり、大好きなアイドルについて話し始めるとか、そんなことをするつもりはない。

 どう考えても、時間が足りないから。

 この場で、アイドルについて語るとすれば、やっぱり、参加しているアイドルの話になるとは思うんだけど、全八組分を話すには時間が足りないし、だからといって、私の一番好きな――どのグループも好きだけど、あえて選ぶなら、ということで――アイドルということで、この番組とは全然関係ない相手の話をし始めるのもねえ。

 どうせ、私がとくに好きなアイドルグループがどこかなんていうことは、事務所のホームページとかにも載っているわけだから。

 

「いつもどおりでいいってこと。むしろ、気負ったり、演技したりなんてしないほうが良いかな。まあ、気合入れて、可愛いに全振りした詩音も見てみたいけど」


「なにそれ」


 アイドルとして、それなりには演技というか、立ち居振る舞いも勉強してはいる。もちろん、本職の役者の人とは比べものにもならないけど。演技よりは、歌とかダンスに時間を費やすべきだ(と思っている)からね。

 とはいえ、もともと、媚びるようなことをするつもりはなかった。

 私だって、視聴者なら、わかってはいても、アイドルの自然体な様子を見たいと思うから。


「じゃあ、日曜朝の美少女アニメの名乗りのシーンを借りてアレンジして」


「必要ないから。詩音は詩音のままでいいから」


 残念。ちょっと、面白いかな、なんて思ったけど。

 これは一応、ユニットとしての勝負でもあるわけだし、奏音にだめと言われたら諦めるしかない。

 今までの勝負とは違い、サクサクとステージが進む……ように感じられる。好きなことをしている時間は過ぎ去るのも早く感じられるあれだ。

 もちろん、今までの勝負だって、楽しかったことは事実だけど、これはライブと並んで、まさにアイドル、っていう勝負だからね。『アイドル』というものの本職というか、まさに芸能界という中で、さらに、あからさまなルッキズムの権化というべきか。

 

「では、お次は『ファルモニカ』月城詩音さんです、どうぞ」


 名前が呼ばれ、意識が切り替わる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ