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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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『アイドルバトライブ』二回戦 料理対決

 この『シーサイドアスレチック』で評価されるのは、クリアタイムだけ。

 途中の姿勢とか、優雅さとか、そういったものは求められていない。単純に、そのタイムに応じた点数が入る。だから、当然、同点ということもある。

 ある程度の時間で、もっといえば、数十秒ごとに区切って、点数帯が決まっているから、たとえば、十五分から十六分までの間、十六分一秒から十七分までの間、とか。

 だから、だいたい、二時間弱くらいで、全部の組のエントリーが終わる。

 事前の話によれば、ほかに六つ、別の勝負が用意されているということだけど、全部が全部、それだけの時間がかかるわけでもない。

 そして、単純にタイムだけで結果が決まるということは、結果発表といったような、余計なと言うとあれだけど、時間がかからないということ。

 私たちのタイムは、設置されている大型のスクリーンで常に更新されているから。ちなみに、小さく利プレイ動画も映っていたりはする。

 現状、私たちの順位は四番目。全部で八組中だから、一応、上位グループということになる。

 人数が二人だったというのが大きいんだろう。競技の特性上、全員がゴールしないといけないわけで、そのときのタイムによって点数が決まるのなら、少ない人数、メンバー間の身体能力差が小さい私たちが有利ではあった。

 もちろん、ほかのグループにどこも極端に運動が苦手な人がいた、なんていうことじゃないけど、それでも、人数が多ければ、それだけ時間がかかるのは事実。

 逆に、人数が多いほうが楽になることもあるだろうから、そこは、一長一短というか。

 

「それでは、続いて第二回戦に移りますが、皆さんにはこちらの着用をお願いします」

 

 説明のあった勝負内容は、料理対決。

 着替えとして渡されたのは、番組のロゴの入ったエプロン。もちろん、三角巾――のための大きめのハンカチも。

 料理ということだし、汚れたり、油とかが飛んだりしたら危ないっていう配慮からのことかな。


「そういえば、トレカでもエプロンはあったよね」


 あったというか、これからの予定の候補の中にあったというか。

 

「うん。でも、水着とエプロンの組み合わせは最強だから」


 奏音が力説してくる。

 

「まあ、見え方というか、水着の形状とか、撮る角度によっては、エプロンだけにも見えるからね」


 それは、まあ、いろいろと危ないような気はするけど、撮り終えた後の見え方というか、考えられ方までは、責任も持ったりもできないわけで。

 もちろん、それについて、私たちがどう思うのかということはべつの話だ。


「ところで、詩音は料理とか、できる?」


「……家庭科の授業で習った程度、よりは、もうすこしできるけど。奏音は?」


 実際、家で料理はほとんどしない。

 簡単なものならできるけど、見栄えとか、凝ったものとか、そういうことを意識して料理なんてできたりはしない。味だって普通で、可もなく不可もなくといったところ。

 

「私だって似たようなものだよ。ていうか、料理って、さっきのやつより、アイドル関係なくない?」


「あはは……まあ、そこは、ほら、奏音だってバレンタインライブとかで、チョコレートの包みとかもらったら嬉しいでしょう?」


 手作りという名の、溶かして、あらためて固めて、トッピングしただけのものだったとしても。


「いや、それとこれとは……料理って言ってるんだし、さすがにチョコレートを溶かして固め直してちょっとトッピングしました、なんていうだけじゃ、認められないでしょ」


「料理番組のレギュラーをもってるわけでもないしね」


 そういうものへの出演経験があれば、少しは身について、こういうところでも披露できるものもあったかもしれないけど。

 あるいは、見てくれている人も、ああ、あのときの、なんて、好印象かもしれない。

 あいにく、私にも、奏音にも、そういう経験は今のところないから。

 

「夏といえば、そうめん。私、そうめんを茹でるくらいならできるよ」


 奏音が思いついた、と指を鳴らす。

 たしかに、これ以上ないくらいにシンプルで、沸かしたお湯で乾麺をふやかすだけ。上げるタイミングさえ早すぎなければ、失敗するほうが難しい。

 

「そうめんだけだと、だめなんじゃない? やっぱり、肉と野菜がないと」


 どうせ、同じつゆで食べられるなら、てんぷら? でも、てんぷらは多分、私たちにはハードルが高い。それに、今、私たちは水着にエプロンなんていう格好だから、できれば、活発に油が跳ねるようなものは避けたい。

 

「食材って、なにがあるのかな?」


「聞いてこよう」


 確認したところ、大抵のもの、つまり、一番近くのスーパーで手に入るものは準備ができるということで、実際、準備されているということだった。

 もちろん、食材を無駄にしないための配慮もされていて、この実質休憩時間に作るものを提出することになっている。

 普段から料理をするという人も、いないこともなかったみたいだけど、皆、スマホだったりで、できそうな料理を調べている。

 

「詩音、なにかある? 私はちょっと思いつかないんだけど。カレーくらい?」


「ううん。そうめんを茹でるんでしょう? そうめんとカレーって、両方作るのはあんまりよくないんじゃない?」


 どっちも、主食みたいなところがあるから。

 だから、作るなら、サラダとか、肉や魚の料理にしたほうが良いと思うけど。


「ああ、じゃあ、カルパッチョにしようか」


 海の近くで、お刺身もあるみたいだったから。

 

「カルパッチョって、なんか、名前は格好いいよね、食べたことはないけど」


「え? そうなの?」


 奏音が気づいていないから、とかじゃなくて。

 とはいえ、刺身と切った野菜、それにソースをかけるだけの簡単な料理だから、私たちでもできるはず。それに、調理と言えるほどでもないから、素材のままの味で、私たちが作っても、おいしく食べられるだろうし。

 火も使わないし、なにより、今日みたいな夏の暑い日でも食べやすい。

 こうして、午後になってくると、実際には、少し前からだけど、大分暑くなってきているからね。

 作った後のことが心配なら、提供するまでは、冷暗所においておけるよう、聞いてもらえばいい。近くに海の家とか、最低でも、クーラーボックスくらいはあるだろうから。

 

「というわけで、奏音は野菜をお皿に敷き詰める係ね。ああ、そんなにたくさん盛り上げる必要はないから」


「わかったよ。任せて」

 

 試合が始まる前に、打ち合わせだけは済ませておく。正直、打ち合わせ、なんて呼べるようなものでもないけど。

 それでも、生の食材を扱って、それも、外で料理する以上、鮮度、つまり、時間が大切になってくることは言うまでもない。 


「お待たせしました。それでは、第二回戦料理対決、スタートです」


 事前に打ち合わせとか、報告なんかはできても、準備自体はスタートしてから始めないといけない。

 手を洗って、髪を縛る。

 私がお湯を沸かしている間に、透明のガラスの皿に、奏音がベビーリーフとか、たまねぎなんかを敷き詰める。

 その上に刺身を並べて、ソースと胡椒をかけるだけ。もちろん、故障のかけすぎには注意が必要だけど、本当にそれくらいしか気をつけるところはない。あとは、まあ、刺身の鮮度とか? でも、どうせ、作ってすぐに実食されるものだから。

 そうめんなんて、茹で始めれば、五分もかからない。まあ、カルパッチョだって簡単ものならそこまで時間はかからないけど、今回は、市販のソースはないから、自分たちで作る必要はある。もちろん、堂々とスマホでカンニングだ。あ、いや、その場でっていう意味じゃなくて、ちゃんと、ステージに上がる前に確認したっていう意味だけど。



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