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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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ボイス、ボーカルトレーニング

 休憩を挟み、ボーカルのレッスンになる。

 ボイス、ボーカルのトレーニングも当然、さまざまなトレーニング方法がある。呼吸の仕方から、発声、音階や表現力のトレーニング、そしてリズムトレーニングといった具合に。

 その中で最も大切、重要かつ、基本と言えるのは、呼吸を自在に操るということらしい。


「いいですか。ボイストレーニングは呼吸に始まり呼吸に終わります」


 音とは、空気が振動して作られるもの。それは、声を出すうえで、息の強さや量が肝心になるということだ。

 

「歌唱における呼吸で重要と言われているのは、腹式呼吸と胸式呼吸です。簡単に言えば、横隔膜を下げて、お腹を膨らませる呼吸方法が腹式呼吸、肋骨を前に膨らませるのが胸式呼吸です」


 なんとなく、学校の音楽の授業で聞いたことがあるのは腹式呼吸。それは、普段の生活でしている呼吸が、大抵の場合、胸式呼吸だかららしい。つまり、胸式呼吸のほうは、普段どおりにしていれば、意識する必要がないということ。

 

「実際には、どちらの呼吸でも上手に歌うことができます。ただ、どちらかと言えば、胸式呼吸のほうが発声しづらく、喉を絞った歌い方――喉周辺の筋肉に力が入りすぎた状態で歌うことになってしまいがちですね。ですから、始めのうちは腹式呼吸で練習していきましょう」


 背筋を伸ばして肩の力を抜き、息をすべて吐ききる。

 吐ききったら、鼻からゆっくりと息を吸い込む。

 息を吸ったときより倍くらいの時間をかけて、口からすべての息を吐き出す。

 この繰り返しだ。


「肩が動かないようにして、お腹に手を当ててやってみましょうか」


 一、二、三、と蓉子さんの数えるのに従って息を吸い込み、今度は、一、二、三、四、五、六、と倍の時間をかけて、ゆっくりと吐き出す。

 

「息を吐き出すときは、お腹を使って、ゆっくりと押し出すようなイメージで」


 呼吸なんて、普段まったく意識せずにやっていることだ。人が生命活動を行ううえで、絶対に、必要不可欠なものだから。

 それを、あらためて、意識しながらというのも、なんだか新鮮な感じがする。ラジオ体操なんかで深呼吸をするのとはまた違って。

 

「では、私に合わせてくださいね」


 蓉子さんが、あー、とドの音から発生する声の高さに合わせて、私たちも実際に、習った呼吸法で音を出す。

 その感覚は長くなく、はっきりいって、短いので、練習したとおりのゆっくりと息を吸うのでは、次の音が長く続かないし、そもそも、間に合わなかったりもする。

 

「喉が絞まってしまいますから、口は大きく、そのために、目も広げて、背伸びするくらいの意識でかまいませんから、全力で」


 息を吐ききった反動で、息を吸う。

 それが自然にできるようになることが望ましいらしい。

 それに並行して、ロングトーン(声や音を安定して長く出し続ける事)の練習もする。

 そうすることで、伸びのある発声ができて、声やビブラートが安定して、テクニックを組み合わせた、多様な歌い方ができるようになる、ということだ。


「長く音を出し続けるために必要なのは、正しい発声で、息の量を変えずに保ち、音程を揺らさない、ということです」


 とはいえ、まだ最初ということで、仰向けになり、お腹に手を当てて、肺や肩が動かないようにできる環境を整える。 

 実際のライブだったりで、寝転がったまま歌うなんてことは……ほとんどありえないだろうけど、これはまだ、練習のための練習っていう部分だから。

 私たちのほとんどが十五秒くらいなのに対して、奏音だけは、最初から三十秒を大きく超えていた。

 

「姿勢を正していきましょう。足は肩幅、顎は引いて、背筋はピンと、腰は反らさずに。とはいえ、皆さんは、立ち止まったまま、合唱のコンクールのように歌うわけではありません。ダンスやウォーキング、手を振ったり、屈んで笑顔を振りまいたり、ポーズを決めたりもすることがあるでしょう。それでも、基本がしっかりしていることは大切です。どんな動きも、基礎がしっかりしていればこそです」


 あたりまえだけど、動かずに歌うより、動きながら、なんだったら、ダンスまでこなしながら歌うほうが、段違いに難易度は高い。

 でも、アイドルの歌は、振り付け込みが基本。ダンスもできて、同時に歌って、その出来こそが重要視される。

 いきなり、ダンスをしながら、振り付け込みでなんて、歌えるはずもない。

 まったくできないという意味じゃなくて、披露できるほどの完成度にならないという意味で。そして、その出来の中にも、優劣はあるわけで。


「本当に奏音さんの歌はすごいですね。私から言えることはありません。むしろ教えてほしいくらいです」


 蓉子さんが素直に脱帽していた。自分では奏音に歌を教えることができないと。

 奏音も、歌に関して感覚派ではあるんだけど、それだけじゃなくて、ちゃんと勉強もしている感じで。

 今初めて聴いた練習曲も、一度聴いただけでほとんど完璧に覚えるし。


「奏音さんに必要なのは、あとは、持続力くらいのものでしょうか」


 一曲歌うのに、全部通しだとすると、だいたい、四分以上くらいはかかることになるだろう。長いものだと、五分とか、六分近くもなるかもしれない。平均値なんて調べたり、計算したりしたことがあるわけでもないから、感覚だけど。

 それは、身体の持久力、体力という意味でもそうだし、喉の持久力という意味でも。

 ようするに、腹筋や背筋なんかの筋トレとか、ランニングなんかのことだ。

 どれも、一朝一夕にはいかないからね。そういう意味でも、持続力は鍛えられると思う。


「それって、詩音たちがボイトレしている間、私はランニングしてろってこと?」


 奏音があからさまに嫌そうな顔をする。

 歌うことは好きだけど、ランニングとかは、あんまり好きじゃないもんね。

 

「いいえ。ただ、ランニングにも真面目に取り組んでくだIさいね、ということです」


 蓉子さんは笑顔だった。プレッシャーを感じる。

 

「詩音。なんか、蓉子さん怖くない?」


「それだけ、奏音に光るものを感じているってことじゃない? もちろん、私もそう思ってるよ」


 体力増強が必要だってことももちろん、歌唱に関しては抜群だって。

 蓉子さんが怖いということに対して賛同したわけじゃない、決して。

 

「いっそ、歌いながらランニングするとか」


「死んじゃうよ!」


 奏音が悲鳴を上げる。

 楽しいこと、好きなことをしながらっていうのは、結構良い案だと思うんだけど。より、体力の増強にもなるし。運動部とかはよく掛け声掛けながらランニングしているみたいだし。

 ダンスじゃないけど、運動しながらということで、本番に近い状態にもなる。

 まあ、息も絶え絶えな感じで歌っていても仕方がないか。

 

「でも、本番ということになると、実際には、歌って、踊って、歩いて、ファンサして、みたいに、いくつも同時にこなす必要があるわよ。場合によっては、そこに着替えだとか、トークしたり、パフォーマンスだって入ってくるかもしれないわね」


 由依さんは試すようで、楽しそうにしている。

 実際、実にマルチタスクだよね、アイドルって。


「いつまでも、わかりきった泣き言を言っているんじゃないわよ。必要なことなんだから、気合を入れなさい。いつでも笑顔を忘れないようにしなさいよね」


 朱里ちゃんは変わらず、手厳しい。

 由依さんは一緒に頑張りましょうみたいな雰囲気だったのに対して、朱里ちゃんは、できないなら蹴り落とすわよ、とでも言いたげだ。

 それだけ、由依さんも、朱里ちゃんも、奏音の歌に感じるものがあるということだろう。もちろん、私だって同じ気持ちだ。


 

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