水着でファッションショー?
どうせ、今回のトレカの撮影にしか使わないから。
サイズだって、来年になればもっと育っているかもしれないし、同じものが着られるかどうかはわからない。アイドルとして、たとえ、グラビアなんかが主ではなくても、体型の維持には気を遣っているから、セパレートのものであれば、来年以降にも――すくなくとも、来年には同じものを着ることもできるかもしれない。
経費で落ちるとはいっても、負担がないに越したことはないだろうから。
まあ、ファンとしての目線で言うのなら、違う水着(たとえ、それが色違いというだけであっても)のほうが、嬉しい。カードにするということだから、集める苦労を無視するのなら、だけど。
「じゃーん、どうかな、これ」
奏音が見せつけてきたのは、青地に白いフリルのあしらわれたセパレート。
顔面天才の奏音が着るということで、大抵のものは、よく似合うだろう。
「よく似合ってるよ、奏音。可愛い」
お世辞なんかじゃなくて。
奏音のイメージからすれば、相当に地味なものでもなければ、どれでも似合うわけだから、奏音が好きな、気に入ったものを選べばいい。
「誰にでも言ってるんでしょう」
「そんなことないよ。奏音だけだよ」
奏音としか、水着を選びに来たことはないからね。
ついでに言えば、誰かと、水着で遊びに行くようなこともしたことはない。それは、水着に限った話でもないけれど。
「由依さんとか、真雪さんとか」
「由依さんも、真雪さんも、どっちかって言うと、綺麗系じゃない? 可愛いと言うには、畏れ多いというか」
もちろん、この場合の畏れ多い部分というのは、身体の起伏のことだ。
可愛いでも、綺麗でも、心の栄養であることには違いないから、そして、言われたほうも喜んでくれるとは思うけど。
「じゃあ、次ね」
次に選んだのは、白のトップスに青いホットパンツタイプのもの。
それから、黄色のビキニと、赤と白の非左右対称のもの、空色のワンピースタイプのもの。
「どれが良かった?」
「もう決めてるんでしょう?」
はっきりいって、似合う似合わないで言えば、どれも似合っていたから問題はない。
だから、奏音の好みで決めればいいとは思うけど、試着しているときのテンションを見ていれば、どれが気に入ったのかなんてことは、わざわざ、私から言うまでもないことだ。
「詩音の好みで決めたいんだけど?」
「私の好みは奏音の好きなやつだよ」
さすがに、じゃあ、全部、なんてことは言わないだろう。
「……だったら、二番目に選んだやつかな。多分、そのタイプの水着はあんまり選ばれないと思うから。奏音が気に入っているならそれで」
予想では、だけど。
由依さんや真雪さんにどんなタイプの水着が合うのかというのは、想像しやすい。いくらでも、サンプルがあるから。
六花さんや純玲さんは、それほどサンプルが多いわけじゃない。まったくないということもないけど。
朱里ちゃんやみなみさんは、奏音が選びそうなものは選ばないと思う。
「詩音が言うならそうしようっと。じゃあ、次は、詩音の番だね」
奏音と合わせる必要はないと言われている。
あとは、よっぽど露出が多いなんていうことでもなければ。
「なんでも似合うと思うけど、やっぱり、ボーダーよりは、単色系のほうが良いかな」
奏音は、自分のものを選ぶときよりも真剣に見繕っている気がする。
「白とかも良いけど、それよりは、色がついてたほうが映えるよね。この、セーラータイプの襟がついてるのとか」
「それだと、単色じゃないけど」
トップスの襟の部分は白と空色のチェックで、スカートは白、中――見えている紐の部分は青色だ。
「ちょっと着てみて、詩音」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
店員の女性に断りを入れてから、試着を済ませる。
「どうかな?」
「やっぱり、私の見立てに狂いはなかったね」
奏音は満足そうに、うんうん、と頷いている。
まあ、似合っているっていうことだろうから、問題はないんだろう。
「じゃあ、これにしようっと」
「え?」
しかし、それに決めたと言ったところ、奏音が驚いたような声を上げる。
「似合ってたんじゃなかったの?」
「それは、もちろん、詩音ならなにを着ても似合うけど」
それなら、問題はないんじゃないの?
「じゃあ、今のはなに?」
「いや、せっかくだし、詩音の水着ファッションショーをもうちょっと見てみたいなって」
そんなの、着られる水着に迷惑でしょう。
もちろん、試着をしてもかまわないわけだから、迷惑なんてことはないだろうけど、決めたものがあるなら、ほかの試着をする時間とかも無駄になるし、試着だって、なるべく、ほかの人の手が入っていないものに決めたいでしょう?
ほかの選ぶ人にはわからないとか、そういうことじゃなくて、気分的な話にはなるけど。
「そんなことをしている時間があったら、レッスンしようよ」
「水着で?」
奏音が馬鹿なことを――。
「あの、蓉子さん。さすがに、水着でライブをする、なんていうことはないですよね?」
まさか、とは思うけど。
「心配なさらなくても、そのような予定は今のところありません」
そうだよね、と私がひと息つくのを見計らってか。
「もっとも、詩音さんがなさりたいというのなら、一応、前向きに検討させてもらいますが」
「いや、いいですいいです」
茶目っ気たっぷりに微笑む蓉子さんに、慌てて否定する。
どこかの海岸の音楽フェスとか、夏場には結構開催されている。
私たちにはいつものステージ衣装があるから、それで賄うことはできるわけだけど、季節バージョンというか、そういった感じの企画が、ないとも限らなかったから、一応、確認しただけだ。
もちろん、出演の依頼があるとか、そういうことなら嬉しいけど、それも、水着でやることかなあ? とは思う。いつもの衣装が暑そうというのは、そのとおりではあるけど。
一応、夏バージョンもあるみたいだし。
もちろん、水着での出演依頼、ということなら、考えるけど。
「えー。可愛い格好してライブする詩音のこと見たい」
奏音が不満そうに頬を膨らませるけど。
「一応言っておくけど、私が出るってことは、奏音も一緒に、揃いの衣装で出るっていうことだからね?」
私たち、二人で『ファルモニカ』なんだから。
「あっ、蓉子さん。その、勝手に決めてしまった感じになってしまいましたけど、大丈夫でしたか?」
この場での責任者は蓉子さんになっている。
もしかしたら、私たちのイメージ戦略的に、この水着ではまずい、ということがあるかもしれない。
一応、自由に決めてもらってかまわない、とは言われているけど。
それから、蓉子さんの意見も聞いてみたいところだ。蓉子さんも、プロデューサーまではさすがに兼任してはいないけれど、広報戦略の一端を担っていることは確かなわけだから。
「はい。おふたりとも、よくお似合いでしたよ。それに、ご自身の気に入ったもので臨んでいただくほうが、気分もよく撮影できるでしょうから、イメージという意味では、間違いないかと」
もちろん、だからといって、この場で写真を撮る、なんていうことをしたりはしない。
サイズ的にも問題はなかったから、蓉子さんに私たちの二人分を渡す。やっぱり、これが経費で落ちるっていうのは、信じられない気持ちもあるけど、そういうものだということなんだから、ありがたく受け取っておこう。
「撮影って、海とか、プールに行くと思う? それとも、水着でも、室内かな?」
「どうだろう。時期が時期だけに、ビーチを借り切って撮影、なんていうのは、難しそうだけど」
由依さんたちに聞いたところ、ファッションモデルの場合、季節ものの服の撮影は、半年とか、そのくらいずらして行われるらしい。
たとえば、冬とかにでも、水着の撮影をするとか。
その時期じゃないと貸し切りって言うのが難しいのはわかるけど、過酷だよね。




