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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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水着選びもイメージは大切

 そういうわけで、奏音と買い物に行くことになったわけだけど、ものがものだけに、慎重にならざるをえない。

 たとえば、マスクとか、帽子程度の変装なんかは。

 自分で言うのもあれだけど、私の場合、この銀髪を帽子の中にでも隠すだけで、随分と目立ちづらくなることはたしか。以前に行ったライブでも、それは確認済みだ。 

 親しい相手には別かもしれないけど、普段行かないような場所、それこそ、水着を買いに行くというようなところなら、それで十分だろう。多分。べつに、由依さんとか、真雪さんとか、それこそ、冴霧沙織さんみたいに、ファッションモデルだとか、水着のモデルをやっていたなんていうこともないわけだから。

 それでも、念には念をというところだ。


「……良かったんですか、蓉子さん」


「これも、仕事のうちですので。なんだったら、経費でも落ちますよ?」


 さすがにそこまで厚顔にはなれなかったので、断った。

 事務所の、アイドル活動として、必要なもの。そう言われると、そのとおりで、ありがたいことも事実ではあるけれど。


「そのくらいのことなので、おふたりとも、遠慮はなさらないでください。より良いものが撮れたのなら、事務所としても、売り上げが期待できるということにもなりますので」


 あらためて、奏音と顔を見合わせる。見合わせるもなにも、蓉子さんの運転してくれている車の後部座席に、並んで腰かけているわけだけど。

 一応、仕事中ということなので、家族が付き添ってきたりはしない。とはいえ、私も、奏音も、水着の一着程度には困らないくらいの人気は出てくれているからね。

 

「おふたりとも、十分におわかりのこととは思いますが、店内では、できるだけ、静かにお願いしますね。今、このときだけは、アイドルとしての喧伝の逆をしてください」


 デパートの駐車場。

 車を停めたところで、あらためて、蓉子さんから注意が言い渡される。

 もちろん、私もわかっていた。それこそ、推しのアイドルの水着選びだとかなんて、遭遇しようものなら、大ニュースになることは間違いない。

 いっそ、借り切るとか、メーカーと契約でもして事務所に持ってきてもらう、なんてことができたらいいのかもしれないけど、残念ながら、私たちはまだそこまでは売れていない。

 もちろん、人気があるのは嬉しいことではあるけれど、困りごとでもあるのは事実だった。

 

「それから、私から絶対に離れないでください。時間をかけるな、とは言いません。私たちとしてもおふたりに納得のいく、ベストなものを選んでもらいたいですから」


 この選択が、トレカ事業の売り上げの趨勢を決める、とまでは言いきれないけれど、一端を担うことは事実。

 そして、私たちだけじゃなくて、今の事務所に所属しているアイドルの数だけ、蓉子さんは付き合うことになるのだから、余計な手間はかけさせられない。

 もちろん、蓉子さんは手間だなんて言わないだろうけど。

 

「ちなみに、由依さんたちと被っても問題ないんですか?」


「詩音。私たちじゃあ、由依さんたちと水着が被るはずないよ」


 奏音がすごくかわいそうな子を見るような表情で私の肩に手をかける。胸に触らなかっただけ有情だろう、と思うことにする。

 ただ、視線が向いたのを見逃したりはしなかったけど。

 

「たしかに、詩音も成長してきているけど」


「同じサイズの話をしているわけないでしょう。デザインの系統とか、メーカーとか、水着のタイプとか、そういう話をしているの」


 そんなの、体型の維持、向上こそが本職の由依さんたちに、そこで勝負しようなんて思ってないから。由依さんや、真雪さんたちと同じ水着が似合うはずないでしょう。

 それは、まあ、羨ましいとか、憧れるとか、そういう気持ちがまったくないと言ったら嘘になるというか、実際、羨ましいんだけど。真雪さんとは、年齢だって離れているというわけでもないから。世の中は理不尽というか。

 やっぱり、牛乳とか、あと、大豆製品が良かったんだっけ? 体操とか。

 それはともかく。

 

「詩音はお母さんにそっくりだから、心配いらないと思うけど」


「この話、まだ続けるの?」


 たしかに、この場において、サイズの話はかなり重要というか、本線なわけだけど。


「デザイン的には、被っても問題はありませんが、できることなら、ばらけていたほうが好ましいということはあります。ただ、それは所詮、事務所側の思惑の一つでしかありませんし、おふたりのお似合いのものを選らんでいただくほうが、結局、集客できると思いますので、おふたりは、なにも気兼ねすることなく、お好きなように選んでください」


 蓉子さんは、私たちが脱線させていても、問題なく、本線に戻してくれる。

 あるいは、この程度の会話、予想されていたということなんだろう。

 

「蓉子さんから、できる限り、迅速にって言われたでしょう。早く行って、早く帰ってこよう」


 私と奏音、それから、もちろん蓉子さんも、一緒に売り場へ向かう。 

 時期が時期で良かった。もし、これが、冬に企画されていたなんていうことだったら……いや、違うのかな。夏の近い今だからこそ、企画されたのかもしれない。

 コートなんかの、冬とか、秋のものは、去年までのものでも着れるかもしれないけど、水着は、買わないとなかったから。

 奏音はどうか知らないけれど、私は、去年、水着なんて着ていないから。

 もちろん、学校の指定水着はあるけど、今回はそれじゃあ駄目だったわけで。制服なんかと同じ理由で、まったく同じものだと、特定されかねないから。

 

「ねえ、どれにする?」


 売り場に入ってから、お互いに、名前は呼ばないように気をつけることにした。

 自意識過剰かもしれないけど、取り越し苦労であったほうがいい。下手に注目を集めてしまうわけにはいかないから。

 帽子とサングラスもしているし、蓉子さんが目を光らせてくれているし、お店にも話は通してくれているみたいだし、問題はないと思うけど。

 

「赤っていうより、青のイメージだよね。一番は白とか、銀とかだけど、水着のカラーって考えると。まあ、顔面天才だから、基本的になんでも似合うっていうのはそのとおりだけど」


「それは、そっちも同じでしょう。カラー的には、白、黄色、水色あたりじゃない?」


 それから、ユニットだし、似た感じのデザインにしてみる? とか、いっそ、揃える? とか、それぞれのイメージとか、そもそもの好みとか、実際の着てみた感じとか、蓉子さんからの意見も参考にして……さすがに、由依さんたちにテレビ通話を繋ぐまではしなかったけど。

 でも、こうやって水着を見ていると。

 

「……普通にプールにも行きたいなあ。遊びにっていうことじゃなくて、やっぱり、暑いから水の中で運動ができるならありがたいよね」


「そうだね。でも、それは、選ぶ水着とは違くない? それなら、泳ぐための水着があるよね」


 泳がない水着というのも、意味のわからない言葉かもしれないけど。

 一応、私たちが選ぼうとしている水着だって、泳ぐことはできる。もっというなら、水に入ることに問題はないし、活動にも問題はない。

 ただ、どちらかといえば、機能性よりも見た目を重視しているから、浅瀬で軽く遊ぶ、泳ぐ程度なら問題ないだろうけど、市営プールなんかで、何往復も泳いで運動のためにカロリーを消費する、なんていったような用途には向かないということだ。

 それなら、学校での水泳の授業に使う水着でかまわないわけだから。


「まあ、スク水でいいっていうなら、止めないけど」


「良くないし、それだと問題があるから、こうして選びに来ているんでしょう」


 

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