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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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さすがに、事務所で用意はできない

「ある程度は、サンプルとしてもらえるんじゃないかしら。販売するとはいっても、ライブとか、ポップアップストアでの、グッズ商品みたいな扱いということだから」


 古今東西のアイドルを選んでの、企業による販売、ということではないということだ。

 それなら、製作元はここの事務所になるわけで、余剰分はもらえるかもしれない。

 

「なんで、ランダムなんですか?」


 奏音も気になったらしい。

 

「たくさん買ってもらうためね」


 由依さんも、すごく正直に話す。

 事務所であって、購買層に聞かれる心配はないだろうから、ということなんだろうけど。


「それに、中身がわかっていてとなると、人気のある子と、人気のない子とで、店頭での差が顕著になっちゃうのよね。奏音ちゃんは、ほかの人の分が品薄になっている中、自分の分だけ余っている、みたいな状況を目にしたらどう思う?」


「それは、少し嫌ですね」


 アイドルという職業上、人気のあるないは、仕方ないというか、当然のことだとはいえ。

 今のところ、イベントなんかでも、私と奏音のところに並ぶ人の列の長さは同じくらいだけど、たとえば『LSG』と比べたときに、どうなるのかは、わからない。

 

「でも、人気がないのなら、人気が出るように頑張るのもアイドルの仕事というか」


「それはそうかもしれないけれど、なかなか、難しいところがあるというのが実際のところなのよね。お店側としても、いつまでも売れないものを抱えていたくはないでしょう? そうすると、ランダムにして、もしかしたら当たるかも? と思わせておいて買ってもらうほうが都合が良いのよ」


 たしかに、単価が高いと、そもそも、買うのを躊躇される、みたいなこともあるかもしれないし。

 それなら、お小遣いでも手が届くくらいの価格設定にしておいて、もうすこし買ったら当たるかもしれない、と思わせるほうが、ファンの人の購買意欲は引くことができるのかもしれない。

 全部売れたら間違いなく黒字になると計算して制作、販売しているんだから、完売というのを目指す、もの。あるいは、追加生産とか。


「買う側からしたら、好きなものを買わせろー、ってなるのもわかるけれどね」


 由依さんも苦笑気味で。

 私たちは販売する側だけど、そういう、利益なんかの詳しい話はしたことはないから、なんとなくでしかわかっていないからっていう理由もあるんだろう。

 結局、商売だということには違いないから。売らないといけないし、売れないといけない。

 

「トレカって、ブロマイドとは違うんですか?」


「基本的には変わらないわね。ただ、大きさなんかが若干違ったり、表面の加工が違ったり、説明書きがあったり、細かい部分が違うのよね」


 ともあれ、コレクターズアイテムということだ。

 好きな人のグッズは、たくさんありすぎるとお小遣いとかが大変だけど、少ないよりは全然いいから。

 

「実物を見れば、はっきりわかると思うわ」


「じゃあ、楽しみにしています」


 奏音はそこで引き下がった――んだけど、思い出したように。

 

「あ、もしかして、ライブでのグッズ商品扱いっていうことは、梱包なんかも含めて、この事務所でやるかもしれないっていうことですか?」


 つまり、ファン目線に立てばずるかもしれないけど、もし、そうなら、私たちには梱包前に好きなものを選ぶことができるかもしれない、ということ。


「気持ちはわかるけれど、奏音ちゃん、グッズ商品なんだから、ファンの人たちに買ってもらわないと。販売される前に中身が抜かれている、なんて、噂になったら困るでしょう?」


「そ、そうですよね……」


 由依さんに窘められて、奏音は残念そうに引き下がった。

 実際、サンプルはもらえるということだったわけだし、私たちなら、全種類集めるというのも、難しいというか、現実的じゃないこともないとは思うけど。 


「それでね、二人とも。もちろん、これは、私たち全員に言えることではあるけど」


 由依さんは、あらたまって、楽しそうに手を合わせて。


「撮影することになる衣装の中に、水着があるから、もし、今持っていないなんていうことがあるなら、買っておいてね。蓉子さんに言えば、もしかしたら、経費で落ちるかもしれないけれど」


 たしかに、たとえば、ステージ衣装とか、私服系は心配いらないだろうけど、水着は貸してもらうとか、準備しておいてもらう、なんてことはできない。

 多少、大きかったりしても問題ない、私服やステージ衣装とは違って(それでも、できるだけ、会っているほうが好ましいわけだけど)、ぴったりのサイズが決まっている。ましてや、他人の水着を着るという気にもならない。

 

「水着って、やっぱり、学校の指定水着だとまずいですよね?」


「それはもちろんそのとおりね」


 私も、わかっていて聞いた。 

 多分、嘘制服だろうと思ってくれるだろうとはいえ、万が一という可能性がある。

 

「詩音、一緒に買いに行こう」


 奏音が、当然、みたいに言ってくるけど。

 

「えっと、奏音。それは多分、まずいと思う」


 ありがたくも、私と奏音はアイドルとしてデビューして、絶頂とか、空前絶後の、なんていうブームだったり、人気だったりするわけじゃないけど、それなりに、ライブの会場は埋まっていたり、動画の視聴者だったり、ファンレターだったりをもらってもいる。

 そんな二人で、連れ立って、水着なんて買いに行ったら。

 もちろん、自意識過剰かもしれない。だけど、万難は排しておきたい。気をつけるに越したことはない。

 そう言ってみたんだけど。


「それって、一人で行っても同じなんじゃない? 準備しないといけないことには変わりないし」


「……そうかも」


 実際、この前、母と行ったサウナスパリゾート健康ランドでも、それなりには、視線を集めていたから。あとは『FLURE』のライブ会場なんかでも。

 あれは、母のせいだとも言えなくもないけど、多分、私の影響というのも少なからずあるだろうし。

 そもそも、私は、日常から目立つみたいだから。

 どうせ目立つなら、一人でも、二人でも、大きな差はないとも言える、かもしれない。


「メーカーのほうから、ここに来てもらって、そこから選ぶ……なんてこともできないよね」


 言いかけて、奏音は自分で否定した。

 さすがに、そんな風に経費はかけられないだろうし、自分の身に纏うものだから、通販というわけにもいかない。

 可能か不可能かといったら、不可能ではないだろうけど、やっぱり、直接選びたい。

 

「やっぱり、一緒に買いに行っても問題ないと思うけど」


「……まあ、奏音がそう言うのなら」

 

 一応、蓉子さんには、確認したほうがいいかもしれない。仕事のことでもあるから。

 どういった感じの、とか、基準があるかもしれないからね。

 でも、そうなると。


「事務所で揃って、なんていうわけにはいかないんでしょうか?」


 由依さんとか、真雪さんは、水着を持っていることは知っている。それも、今年の最新のモデルを。

 水着の販売のチラシに乗っていたということじゃなくて、雑誌のグラビアのページで見たっていうことだけど。

 

「できなくはないと思うわよ。でも、そこに経費をかけるのなら、もっと別のところにかけるべきじゃないかしら」


「そうですよね」


 由依さんの言うことはもっともで。

 一定時間にしろ、借り切るのには費用が掛かるし、そうでないなら、注目を集めすぎる。

 多少は変装していくにしろ、一回で済ませるために、私たちがぞろそろと訪ねたりすれば、自意識過剰じゃなく、大変なことになるだろうから。

 

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