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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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これ以上ないとは思うけど、わかり辛いというのも本音ではある

 ◇ ◇ ◇



 私たちや、由依さんたちの仕事もあるわけで、自分たちのことばかりにかまけてもいられない。

 それでも、一応は、動画としてアップするものだし、中途半端なものを見せるわけにはいかないから、一週間くらいは練習期間をとった。

 普段は、一週間のうち、毎日養成所に通うなんていうことはないわけだけど、レッスンのない日にも自主練のためにレッスン室を使わせてもらおうと、毎日、足を運んだ。 

 それがきついとか、そんなことは全然ない。少なくとも、私にとっては。

 もともと、オーバーワークを規制するために休みを入れているわけで、歌もダンスも大好きだし、奏音や由依さんたちにも会うことができる。

 もちろん、仕事のこともあったから、毎日、私たちと由依さんたちが全員揃うなんていうことはなかったけど。

 それでも、夜、寝る前くらいの時間には、全員で顔を合わせて通話もしたりしたし、それはそれで、普段は見ることのない、由依さんや真雪さんの部屋着姿も拝むことができて、役得だった。奏音とは、べつに、企画とか、特別な予定がなくても、仕事の確認なんかでも、普段から連絡を取り合っているわけで。

 奏音はもちろん、私だって、振り付けはマスターしていても、完璧とは言えない。

 蓉子さんとか、由依さんたちに指導してもらったことがあるわけでもないからね。

 学校での休み時間とか、時間を見つけては、練習してきたけど、付け焼刃感は拭えない。

 それでも、一緒になった日には、由依さんや真雪さんに振り付けや歌唱を見て聞いてもらって。もともと、『LADY STEADY GO』は、その名前のとおり、『LSG』の曲であって、由依さんたちには、あらためて、練習するまでもない曲だ。もちろん、普段から、練習は欠かさないだろうけど。

 それで、いよいよ、動画を撮る日。

 普段、私たちのレッスンの後にもレッスンの時間はあるわけだけど、全部のレッスン室を使っているわけじゃなくて、自主練用のレッスン室も、建物の中にはある。というより、作られた。

 増築したとかっていうことじゃなくて、もともと、使われていなかった部屋を片付けたとか、そういう感じではあるけど。

 事前に使用許可はもらっているし、撮影用の器具も、スマホじゃない、ちゃんとしたものを借りている。

 もともとは、自分たちのスマホで撮るつもりだったんだけど、部屋の使用許可をもらおうと話したとき、使いますか? と聞かれたら、使いますと答えるだろう。

 

「これで大丈夫ね」


 養成所でのレッスンを終えてから、私服に着替え終わった後、由依さんが扉の前に、使用中につき立ち入り厳禁、と書かれた貼り紙を張る。

 途中で、生徒が入ってくるとか、それはそれで、ライブ感があって面白みもあるかもしれないけど、今回のところは。

 

「立ち入り禁止って言えばさあ、座って入れば大丈夫じゃん、なんて考えたことない?」


「あったかもね」


 奏音とはそんな他愛のない話をしつつ。

 

「それじゃあ、二人とも、始めましょうか。一応、ライブ配信にする予定だけれど、不都合があったりするかしら?」


 由依さんがスマホとか、事務所のほうから借りてきたパソコンなんかをセッティングしながら、確認してくるので。


「大丈夫です。家族には遅くなることを伝えてきていますから」


「私もです」


 私と奏音は揃って頷いた。

 レッスンの後に動画を撮るということで、どうしたって、普段の帰宅時間よりは遅くなることになる。 

 それでもまだ、遅すぎるという時間でもないし、動画を撮り終える予定時刻にしたって、せいぜい、一時間程度の配信になる予定だ。

 予定としては、私たちのダンスと歌の動画を撮ってから、適当な、雑談みたいな感じで、視聴してくれている人たちからのコメントも拾ったりする感じで、続けるつもりだ。 

 その辺りの設定は、ライブ配信もそれなりにこなしてきている由依さんがやってくれている。 

 

「始めるのには、時間を合わせたりはするんですか? SNSでは、なにも告知していませんでしたけど」


 私たちはSNSを利用できないから、由依さんの個人のアカウントで、ということだけど。

 

「ゲリラライブみたいな感じで良いんじゃないかしら。一応、SNSでライブ配信するっていう告知は、直前にするつもりではあったけれど」


 そういう由依さんは、今まさに、SNSを更新しているところだ。 

 

「これで、よしっと。じゃあ、始めましょうか」


 一旦、机の上にスマホとパソコンを固定した由依さんが。


「これ、映ってる? 大丈夫みたいね。皆、元気? 会いたかったわ。ライブ配信、始めるわね」


 挨拶をしてから、身体を避けつつ。


「今日は、予告どおり、後輩の二人が来てくれてます。どちらかというと、本来は私たちが二人のほうお邪魔するって感じだったんだけど、結局、アップするところは同じだから、そこはどっちでもかまわないわよね」


 そんな感じで、私たちへとカメラの射線を通すので。


「こんばんは。『ファルモニカ』の詩音です」


「こんばんは。同じく、『ファルモニカ』の奏音です」


 私たちも名乗る。

 真雪さんがわざわざ名乗らなかったのは、これが、由依さんたちの配信であることから。由依さんも、ナレーターみたいな感じで務めてはくれているけど、名乗ったりはしていないわけだし。

 

「そういうわけで、残念ながら六花ちゃんと純玲ちゃんはいないけれど、今日はこの四人でやっていきたいと思います。皆、楽しんでいってね」


 由依さんが私たちのところまで下がってきたところで、音楽を流し始める。

 大丈夫。レッスンは積んできたし、由依さんたちにもOKはもらったし、見せられないものではないはず。

 趣味としては、別のアイドルの曲を歌ったり、踊ったりするのは、なにも気負ったりしないけど、今回は配信で、多くの人に見てもらうことを目的にしている。下手なところは晒せない。

 私たちはプロのアイドルとして、観てくれる人も、そういうクオリティを求めている。

 練習期間こそ短かったけれど、完全に未知の曲ということでもない。むしろ、同じ事務所の先輩の曲ということで、よく知っているとも言える。

 曲自体は、四分とか、五分とか、その程度で終わるものではある。ライブ配信の時間からすれば、ほんの一部だ。

 でも、そこに全力を注いでいるのが、アイドルという生き方だ。

 全力で歌って踊れば、それなりに消耗もする。そもそも、レッスンの後でもあるわけだからね。

 それでも、笑顔を忘れず、指の先まで神経を尖らせて、周囲に合わせる。

 ライブっぽい感じとはいっても、実際に観客が目の前で聞いてくれているわけでもないから、歌い終わって、踊り終わっても、拍手や歓声が聞こえてくるわけじゃない。

 コメントでは、拍手をしてくれたり、歓声を飛ばしてくれたりしてくれている人たちもいるけれど、残念ながら、音としては聞こえない。

 それでも、反応してくれていることが嬉しくて、楽しいことには違いない。

 

「お送りした曲は『LSG』で『LSG』でした。え? なにがなんだかわかり辛い? そんなことないわよね?」


 由依さんが私たちへ振り返る。

 由依さんたちのユニット名は『LADY STEADY GO』が正式名称で、デビュー曲の正式名称も『LADY STEADY GO』だ。

 覚えやすくはあるけれど、同時にわかりにくくもあるという、ある種、矛盾を抱えていたりもする。

 

「私は好きですよ。曲名も、ユニット名も」


「あ、詩音。ずっる」


 いや、ずるいって、奏音だって同じように誤魔化そうとしていたっていうことだよね? 

 嘘はついていないし。



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