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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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どちらにとっても利のある

 初めての動画ではあるけど、普段とは違うわけだし、どうせなら、目新しいことにも挑戦してみようということで。


「それから、曲目は『LADY STEADY GO』にしない?」


 いっそのこと、と提案してみる。 

 普段、由依さんたちと同じレッスンを受けていても、『LSG』の持ち歌を練習する機会はあまりない。

 以前、養成所の課題で私たちの『Shining Brightly Stars』をやったことはあったけど、逆はない。

 

「それって、今回の裏側を知らない相手には伝わらないでしょ」


 たしかに、視聴者に、今回『LSG』とコラボするつもりだったことは、伝えたりしないけど。 

 

「最初なんだし、私たちの歌にしようよ」


 奏音からは、至極もっともな提案。

 なんだけど。


「それだと、わざわざ、あらためて動画にする必要もないんじゃない? もちろん、最初のころからは技術も上昇しているのは事実かもしれないけど、私たちが私たちの曲を歌って踊っても、観ていて面白くないんじゃない?」


 私たちの持ち歌に関しては、ライブに来てくれれば見ることができる。

 一応、人気になりすぎて、チケットの販売が追い付かないくらい、なんてことになったら、考える必要もあるかもしれないけど、今のところ、そんなこともないみたいだし。

 希望してくれる人全員が見られることを喜べばいいのか、せいぜい、ちょっとした黒字という程度にしかなっていないことを悔しがるべきなのか。

 言うまでもなく、黒字だということは、喜ぶべきことなんだろうけど。

 

「そっか。そういう考えもあるのか……」


 奏音は迷うように考え込んで。


「それだと、私たちも『LADY STEADY GO』を練習しないといけないじゃない?」


「そうだけど、ほかの、全く経験のない楽曲よりは良いんじゃない?」


 奏音は心当たっていないようだから。


「だって、『LADY STEADY GO』なら、歌って踊れるし」


 もちろん、完璧にコピーしているなんて言わないけど。せいぜい、九割くらい? あるいは、ほかの『LSG 』の曲でも。


「うわ、でた。そうだった。詩音だった。すっかり、忘れてた」


 なんなの?

 

「奏音、どういう意味?」


「言っておくけど、私は、『LADY STEADY GO』は歌えるだけで、踊れたりはしないからね? 他の曲だって、同じだから。せいぜい、今までのレッスンでやったことのある曲くらい?」


 奏音の特殊能力は、一度聴いた歌をすぐに自分でも再現できること。

 本当、これだから、天才は。

 私の場合、一度聴いて踊ったくらいじゃない。瞼を閉じても脳内でのループ再生が可能なくらい、由依さんたちの動画を見返していただけだ。

 

「詩音みたいに、古今東西のアイドルの振り付けと歌唱をマスターしているわけじゃないから」


「私だって、そんなことしてないんだけど」


 せいぜい、自分が好きな相手くらいのものだ。そして、そのくらい、養成所に来ている人なら、やる人は少なくないと思う。奏音はやっていないみたいだけど。

 アイドルは皆好きだけど、全部を完全にコピーなんてしてないからね。


「でも、ファンの間では盛り上がると思うけどね」


 少なくとも、私なら、大興奮だ。

 

「詩音がそう言うならそうなんだろうけどさ」


「せっかくの、というか、コラボでやる意味を一つ明確に増やせるし」


 単純に、私たちが一緒で面白い、嬉しいということだけじゃなくて。

 とはいえ、私だけでやっても仕方ないからね。『○○してみた』系の動画はあるけど、せっかく集まるのに、私一人画面にいても無駄だから。ファンだって、たくさん映っていたほうが嬉しいでしょ。

 

「じゃあ、それにするの?」


「しないよ。それなら、一人でもできるわけだから、やろうとすれば、いつでもできるし」


 皆で一緒にやることじゃないと。

 コミュニケーションのある動画ということだ。

 そもそも、コラボ動画で、私たちの曲をやっても仕方ないということと同じ理由で、『LSG』とのコラボ動画で『LSG』の曲をやっても仕方ない。

 もっとも、二曲やるっていうことなら、話は別だけど。

 つまり、私たちの曲も、『LSG』の曲も、どちらもやるということで。

 でも、それならそれで、そういう趣旨で動画を撮ったほうがいいし、どうせなら、べつべつにすれば、それだけで、動画を複数撮ることができる。

 再生回数とか、閲覧数とか、そういうことだけで考えたら、そちらのほうがお得だろう。多少、手間が増えるけど。


「奏音はやりたい歌について、なにか案はある?」


 べつに、『LSG』とか、『ファルモニカ』に関係していないといけない、なんていう縛りはないわけで。

 それは、普段のライブでも見られるから、まったく別の、全然関係ない、余所のアイドルグループの楽曲を歌って踊っているところ、なんていうのでも、全然、かまわないと思う。

 

「もちろん、これは、私たちの案であって、由依さんたちにも、忌憚のない意見をいただきたいのですけど」


 私は由依さんへと顔を向ける。

 

「詩音ちゃんと奏音ちゃんの、動画のデビューということなら、二人が中心になるものにしたほうが良いんじゃないかしら。動画なんて、これからいくらでも撮ることはできるわけだし。私たちと一緒だからといって、私たちに合わせる必要はないわ。それこそ、利用するくらいの気概でね」


 実際、由依さんの言うとおり、今回、由依さんたちとのコラボ動画にするのは、すでに動画でも知名度のある由依さんたちにあやかってのことだ。 

 それに、当の由依さんがそう言ってくれるのだから、私たちの曲を『LSG』の先輩たちに一緒にやってもらいました、なんていうことでも良いのかもしれない。

 もちろん、その前か、後か、別撮りで、雑談しているところの動画も入れられたらとは思うけど。

 

「私たちだって、二人を利用させてもらうわけだから、おあいこでしょう?」


「由依さんたちが私たちを利用、ですか……?」


 奏音が首を傾げる。

 実際、今のところ、『LSG』のほうが『ファルモニカ』よりも人気はあるわけで。


「ええ。『LSG』のファンと、『ファルモニカ』のファン。そして、両方のファンや、メンバー個人個人についているファン。いろいろといてくれるとは思うけれど、同じ層もいれば、違う層もいるわけでしょう? そういう層へアピールできるじゃない。私たちのほうでは、コラボなんて話は出ていなかったし。えっと、二人と動画を作りたくないっていうわけじゃないのよ? ただ、考えつかなかった発想だっていうだけで」


 利用、つまり、利益の享受に関しては、個々人の考え次第なところはあるから、由依さんが納得というか、それでいいと思ってくれているのなら、問題はないということなんだけど。

 とはいえ、謙遜だと思う。

 

「それに、私たちだって、二人と一緒に動画を作るっていうのは、楽しみよ? 詩音ちゃんも、奏音ちゃんも、自分たちばかりがやりたがっていて、私たちには仕方なく一緒にやってもらえることになったことだから、なんて考えているのかもしれないけれど、こっちからお願いしても良いことだったというくらいには、考えているのよ?」


 そう言われると、私も奏音も、顔を見合わせるしかない。 

 べつに、自分たちの実力を過小評価しているわけじゃないけど、だからこそ、数字として、私たちと『LSG』の人気はわかっているわけで。

 

「納得できないかしら? でも、そう意識していてもらわないと。一緒に動画を作るというのは、対等な立場で映るということよ。引け目を感じていたり、接待のような感じになったりしたら、どちらのファンにとっても失礼になるわね」


 それは、たしかに、そうなるのかもしれない。

 私たちのことを見ようとしてくれた人には、私たちが引き立て役にしか見えなければ、がっかりさせて、失望させてしまうかもしれないし、逆も同じことを言えるだろう。

 

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