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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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ダンスステップと楽曲

 ◇ ◇ ◇



 ダンスの初歩、基礎の基礎というのは、ステップらしい。

 振り付けやリズムを整えて、ダンスの全体的な雰囲気を生み出すのに欠かすことができないのだとか。 

 言うまでもなく、ステップの中にも、基礎的なものから高度なものまで、幅広い種類が存在していて、初心者――すくなくとも、アイドル養成所の生徒としては――である私たちが取り組むのは、当然、基礎練習だ。 


「最初ですから、『アップ』と『ダウン』、この基本的なリズムトレーニングから始めましょう」


 鏡張りのレッスン室で、蓉子さんが手本を見せてくれる。

 どうやら、『アップ』というのは、その名のとおり、身体を下から上へと動かすことで、『ダウン』はその逆、つまり、身体を上から下へと動かすという基本動作のことらしい。

 膝と肘を曲げて沈み、それらを伸ばして上がる。それを一定のリズムで繰り返す。それが基本。

 

「まずは、初めてのレッスンで緊張しているみたいですから、リラックスしましょう」


 笑顔を作ったり、手足を振ってみたり、首を回してみたり。

 各人、身体がほぐれてきた――もちろん、ランニングとか、準備運動は済ませているけど――ところで。

 

「重要なのは、身体の各部位の動きを意識することです。頭、肩、胸、腰、脚、足。これらを連動させること。次に、重心を意識すること。そして、音楽に合わせて身体を動かすことです。とはいえ、最初ですから、一つの部分づつ丁寧にやっていきましょうね」


 いきなり、身体全体を連動させてというのは、初心者には難しいだろう。

 一応、私たちは、ここの養成所に入るためのオーディションに合格しているわけだけど、それでも、アイドルとしては、あるいは、アイドル未満として、初心者であることに変わりはない。

 初心忘れるべからずとも言うし。

 立っているときに、どこに重心があるのか、身体のどの部分に力を入れているのか、音楽のリズムはしっかりと聴くことができているのか。

 それらを、鏡に映った自分の姿を見て観察する。

 それは同時に、お手本である蓉子さんの姿も見ることができるので、そもそも自分がどう動いているのかということに加えて、早く動いていないか、逆に、遅れていないか、まったく違う動きになっていないか、そんなことを逐一確認できる。

 

「ワンエン、ツーエン、スリーエン、フォー。ワンエン、ツーエン、スリーエン、フォー」


 もちろん蓉子さんだけじゃなく、私たちも揃って声を出す。

 本番のライブでは、歌いながらになるわけだから、こんなことで突っかかってなんていられない。まあ、実際には、事前に収録していた音源を使うみたいなこともあるみたいだけど、それはそれ。

 演者の視点からすれば、喉を保護するためとか、理由はあるのかもしれないけど、観客側からすれば、やっぱり、その場で生で歌っているのを聴きたいに決まっている。

 そもそも、発声は鍛える必要があることは事実だから。

 

「ワンエン、ツーエン、スリーエン、フォー。ワンエン、ツーエン、スリーエン、フォー」


 とにかく、ひたすら、基本となるステップの練習の繰り返し。それらを組み合わせることで、ダンスになるわけだから。

 もちろん、これは基礎のステップで、応用は応用、自分で考えるということは、また、その先にある。

 そんな基礎のステップを、三種類くらい、ローテーションで回していく。

 いきなりたくさんやっても仕方ない。今日の目標は、とりあえず、基礎の基礎をまともに踊ることができるようになること。練習に終了とか、完成なんてものはない。あるのは、その時点での最善だけだ。

 とはいえ、その中でも、最低限のラインというものはある。

 

「真雪さん、縮こまっていますよ。もっと、のびのびと。奏音さんは、若干早取りになってますね。音をよく聞いて、意識してください。由依さん、朱里さん、詩音さんはそのまま」


 踊っている最中でもかまうことなく、適宜、蓉子さんからのアドバイスというか、チェックが入る。

 さすがというか、蓉子さんには全員の動きが把握されている。

 

「蓉子さん、早取りってなんですか?」


 奏音はダンスに関して、初心者に毛が生えた程度。私たちだって、それほど変わらないわけだけど。

 それでも、私や由依さん、真雪さんには下地がある。朱里ちゃんは、しっかり下調べというか、学んできているんだろう。

 

「早取りというのは、実際の音やリズムよりも動きが早くなること、もしくは、早く見えること、ですね」


「早く見えること、ですか?」


 どう違うのかがわからないという奏音のために、いつも撮影されている動画を再生して、皆で観る。

 こうしてみると、自分の動きが一番気にはなるんだけど、それ以上に。

 

「えっ、私、めっちゃ早い」


 些細なところで言えば、皆それぞれ、ちょっとづつずれていたりはするけど、奏音はわかりやすく早い。

 実際、踊っているときには自分の早取りなんて、すぐには判断できないし、そもそも、わからなかったりもするものだけど。

 何度か動画を再生して、奏音の拍のずれを確認、修正する。

 もちろん、それも、踊りながら修正する形だ。

 

「奏音さん。今度は、意識しすぎて逆に遅くなっていますよ」


 今度は逆に、半拍ほど遅い。

 早取りと言われたのを気にしすぎているせいだろうね。

 これは、ただ繰り返していてもどつぼに嵌るタイプだろう。

 

「そうですね。一度、音楽だけを聴いてみましょうか。皆で一緒に。奏音さんはついでに、足踏みをしてみてください」


 ワンエン、ツーエン、スリーエン、フォー、と蓉子さんが手拍子を叩くのに追従する形で奏音が足踏みを始め、そこに曲が流れだす。

 最初こそ、蓉子さんの手拍子ともずれ気味だったけれど、しばらくすると、奏音の足踏みが蓉子さんの手拍子に合ってくる。

 

「いいですよ。そのリズムを覚えていてくださいね」


 蓉子さんに合格をもらう傍らで、奏音が、なるほどね、とつぶやいている。

 

「なにが、なるほど、なの?」


「リズムって、ようするに、歌に合わせればいいのよね」


 それはそうだけど、それって、順序が逆な気がするんだけど。 

 リズムに合わせて、歌うものなんじゃ……もちろん、奏音がわかりやすいならそれが一番だ。

 奏音は鼻歌を歌いながら、足踏みをする。

 これが、何拍子の曲、なんてことはまったく知らない、全然関係ない曲同士だっていうのに、どれにも、しっかりリズムが揃っているから驚きだ。

 もちろん、その後の、曲に合わせたタイミングも掴んでいる。

 そして、リズム感さえあっていれば、少し動きが違っていたりするくらいのことは、まったく気にならない。

 

「どう?」


「……素直にすごいと思う。どうしてできるのかわからない」


 正直に感想を伝えた。

 あるいは、奏音の中ではきちんと理論立っているものがあるのかもしれないけど。

 

「どうしてって、言われたとおりにしただけだよ?」


 それは、奏音の中では、そうなんだろうけどね。

 

「えっとね、即興で、歌詞をつけてみたんだよね、頭の中で。それで合わせた」


 それだけのことで?

 いや、だけというか、そんなことができるのはすごいんだけど。

 ようするに、メロディじゃなくて、歌にしてしまったということだろう。

 

「歌って言っても、そんなに大したものじゃないよ。ほとんどはハミングだし」


「なんでも、すごいことには変わりないよ」


 少なくとも、私にはできない。


「朱里ちゃんできる?」


「やってみないとわからないでしょ」


 強気だけど、今の今で、すぐに答えが出ないということがすでに、答えになっているわけで。

 真雪さんと由依さんも、素直に感動を表している。

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