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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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資質だけでも、気持ちだけでも、努力だけでもない

「どうしたのお? あ、二人も一緒に行く?」


 一応、立ち止まってくれたみなみさんに。


「いえ、私たちは行けません。門限があるので」


 門限というか、レッスンの終わりの時間からあんまり遅くなると、心配させてしまうっていう意味だけど。


「そっかあ。二人とも、まだ中学生だったもんねえ」


 それも問題ではあるけど。

 アイドルは、どうしても時間に限りのある職業だし、そうでなくても、皆が夢を抱いてここに通っているはずで、一刻も早くデビューするために、少しでも早い話し合いをとなる気持ちはわかる。

 それでも、こんな時間に突撃していって、まともに話ができるとは思えない。少なくとも、二人はまだ、名前は知っている、多少話をしたことはある、という程度の相手同士だということは違いないだろうから。

 

「一度、蓉子さんに話をしてからにしませんか? 朱里ちゃんは頑固……融通の利きにくいところがありますから、私たちだけじゃなくて、大人の、スタッフの方も一緒のほうが、説得もしやすいと思うんです」


 デビューという結果があるなら、プライドなんて犬にでも食わせろ、なんて言う人がいる一方、プライドこそ、アイドルという場所で輝くために必要だと考えている人もいるはずで。

 これもやっぱり、どっちがなんて言えない。

 私は、プライドは、ある程度は必要だと考えているけど、それは、私がデビューしているからでしょ、と言われたら、そのとおりだと答えるしかないから。

 

「そういう風に説得されたら、朱里ちゃんは首を縦に振らないじゃないかなあ」


 普段の朱里ちゃんなら、ストイックだし、プライドは高いし、融通は利きにくいから、自分の実力に納得できるまではなんていうかもしれないけど。

 今回は、デビューがかかっている。しかも、みなみさんとのユニットでという話で。

 個人的な考えにはなるけど、朱里ちゃんがデビューできていないのは、周囲と合わせるのが不得意だからっていう部分だと思っている。

 普段のレッスンや、個人でのテストでは、あまり重要視されない項目だから、なかなか、実戦というか、レッスンする機会にも恵まれてはいないし、自分たちで気がつくかどうかというところを測られているような気はするけど。

 

「でも、後輩の二人が、あ、デビューしてるっていう意味では、二人のほうが先輩ってことになるのかなあ?」


「えっと、そう聞かれても……」


 私と奏音は顔を見合わせる。

 デビューしているアイドルなんだという自覚はあっても、私たちが一番下っ端の生徒だということは変わらない。実力がっていうことじゃなくて、所属期間っていうことだけど。

 それでも、私たちより、年齢的にも、期間的な長さということでも、先輩であるみなみさんに、先輩なんて呼ばれるのは、ちょっと遠慮したいところだというか。

 もちろん、この世界が、実力主義だということはわかっている。そして、運も実力のうちだということも。だからこそ、私と奏音がユニットで、アイドルとしてデビューしているわけだから。

 

「それで、えっと、なんの話だったっけ? そうそう、他ならない、詩音ちゃんと奏音ちゃんの推薦だもんねえ。私も、ちょっとわくわくしてきてはいるんだよねえ」


「詩音と私の推薦だと、なにかあるんですか?」


 奏音が目を瞬く。

 奏音の推薦だということは間違いない。奏音に、歌のフィーリングを確かめてもらったわけだから。

 でも、私は関係できていない。奏音に責任を押し付けるつもりはないけど、私は、(勝手に)パートナー候補を選ぶという点では、いてもいなくても同じだった。

 

「そうだよー。奏音ちゃんに歌の推薦をもらったら、それは自信になるよー」


 みなみさんは、本当に、嬉しそうに相好を崩す。もちろん、私も全面的に同意見だ。

 それは、私やみなみさんだけの想いじゃなくて、奏音の歌を聴いたことのある人なら、誰でも抱く想いだろう。

 奏音の歌は特別だ。素晴らしいと思う人がいる一方、奏音に歌だけは敵わない、努力どうこうで追いつくことのできる領域の話じゃない、そう思ってしまって、道を諦めた人もいるはずだ。

 もちろん、奏音に悪気がないことはわかっている。むしろ、奏音は、歌が大好きで、誰の歌も、たくさん聞いていたいと思っているような子だから。

 それでも、こう言うとあれだけど、多分、辞める理由にもなってしまっているはずで。

 ともかく、それは逆もありえることで、奏音に心から褒めれたなら、それは自信にもつながるということだ。


「あとは、詩音ちゃんのアイドル目線にもねえ」


「詩音は、わりと、アイドルの評価はがばがばですよ。閉まったシャッターの前で段ボールに乗って手作りマイクで歌と踊りを披露していても、天才、原石、最高可愛い、しか言いませんから」


 奏音が、困ったものだと言わんばかりに、肩を竦める。

 

「そんなことないよ。私だって、ちゃんと考えてるよ」


「でも、詩音こそ、自己評価が低いから。正確には、詩音の魅力に対して詩音自身の評価が追い付いていないっていう意味だけど」


 奏音が過剰なだけじゃないかな?

 

「詩音は、自分ができるんだから、誰でもアイドルはできるって考えてるでしょう?」


「うん」


 私ができるから、なんてことは、関係ない。

 もちろん、やりたいか、やりたくないかっていう、ある意味、一番大切な要素の上で。 

 やりたくないのにやっていても、仕方ないし、そこに魅力は感じられないと思う。もっとも、それでも人を惹きつけてしまうような天性のものがあるなら、話は違うかもしれないけど。

 

「歌とか、ダンスとか、ビジュアルとか、アイドルにとって大切なものはたくさんあるけど、人を惹きつけるのは、私を見てって頑張っているところでしょう?」


 それは、天性の資質じゃない。本人の気の持ちようの話だ。

 気持ちだけでは仕方ないと言われることはよくあるし、実際、そのとおりの部分はあるけど、気持ちがないと始まらないからね。

 そして、頑張っている姿には、誰もとは言わないけど、多くの人は惹かれるはずだから。それは、応援もしたくなるだろう。

 そして、私も頑張ろうと思える力をもらえる。

 少なくとも、私はもらったから。いや、もらっている、かな。


「詩音ちゃんには私は頑張っているように見えるー?」


「はい」


 私が即断すると、みなみさんは、少しだけ、驚いたように目を見張った。

 あんあり表情は動かない人だと感じていたけど、このときはたしかに、興味を感じられた。


「頑張らずに上位にはなれません。世の中には、生まれ持った才能だけでやれてしまう人もいるかもしれませんけど、少なくとも、この養成所にはいません」


 今のところ、この養成所からデビューしているのは、私を含めて、六人だけ。

 そのうち、由依さんと真雪さん、奏音のことは、一緒にレッスンを受けているし、その由依さんが認めて、ユニットを組んでいる六花さんと純玲さん。

 それ以外はデビューできていない。私と奏音は、養成所の中でも新顔なのだということを考えたなら、それを圧倒的に上回る才能の持ち主はいない、あるいは、評価を受けていない、ということになる。少なくとも、この養成所では。

 逆にいえば、上位陣は皆、すべからく、努力を惜しんでいないということだ。

 その中で、みなみさんは、個人の順位なら、私や奏音を上回っている。それは、確かな努力の結果だと、私はそう思っている。

 

「朱里ちゃんも?」


「はい」


 朱里ちゃんも、最初のころより、順位を上げてきている。急激にということではないけど、着実に。

 


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