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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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奏音ちゃんに任せない

「でも、このままだと、朱里ちゃんはユニット組めないと思いますけど」


「はっきり言うわね、詩音」


 朱里ちゃんの、呆れというか、諦めの混ざったような視線が突き刺さる。

 言っても、言わなくても、結局、解決しないといけないことだから。


「そうね。でも、いったん、この話はお終いにしましょうか」


 由依さんが手を合わせて、入り口のほうを見る。

 耳をすませば、がやがやとした声が聞こえてきているから、生徒が来る時間になってきたということだろう。

 朱里ちゃんと仲良くしているところを見られる分には、なにも困ったことはないけど、さすがにユニットの斡旋でもないけど、肩入れしすぎているところを見つかるのはよくない、と思う。

 曲がりなりにも、私も由依さんも、この事務所内でデビューしているアイドルグループの一員であって、思っている以上の影響力がある。それは、思い込みなんかじゃなくて、事実として。

 

「おはようございます」


「おはよう。今日も頑張りましょうね」


 入ってきた生徒たちは、やってきた人から、各自で準備運動とか、柔軟とかをこなしていく。


「おはよう、詩音」


「おはよう、奏音」

 

 奏音が私のところに近寄ってきて。


「今日はいつもより早かった?」


「そんなこともないと思うけど」


 レッスンの時間からすれば、早すぎはしないというだけで、ほかの生徒よりも、という意味では、早いことに違いはないけど、それは、地理的な問題で、私が早いのは、仕方がないというか、必然というか。  

 

「ふぅん?」


 奏音は私と、それから、先にいた朱里ちゃんと由依さんに顔を向けるけど、なにかを聞いてくるようなことはなくて。

 

「なにかあったら、相談してね」


「うん。あっ、だったら一つ、聞きたいこと、というか、確認していてほしいことがあるんだけど」


 奏音の歌唱センスについては、本人の自覚はともかく、飛び抜けていると言っていい。

 それは、自分で歌うということだけじゃなくて、歌というものに対する、全般的な感覚が鋭敏というか。

 由依さんは一旦おあずけと言っていたけど、私が奏音に相談するのは、かまわないよね?

 

「なになに? 詩音の言うことだったらなんでも聞くよ」


「……この前、私には、迂闊になんでもなんて言わないほうがいいって言ってなかった?」


 奏音は言ってもいいっていうのは、理屈に合わない気がするんだけど。


「私は詩音にしかこんなこと言わないからいいの」


「それも同じようなことを言った気がするけど……」


 とにかく、このままだと話が進まないうちにレッスンが開始される。べつに、話自体は、いつでも、レッスンが終わった後でも、全然、かまわないことではあるけど。

 もともと、奏音に隠し事なんて、アイドルのことに関しては、するつもりもないし、協力を頼む以上、話はしないとどうしようもできない。

 そもそも、相談するつもりだったわけだし。


「これは、私たちの勝手な話になるんだけど、朱里ちゃんの歌とほかの生徒の歌とを聴き比べて、一番、相性の良さそうな相手を判断してほしいの」


「朱里ちゃんの?」


 奏音が首を傾げるので、私は頷いて返す。


「もしかして、さっき話してたことと関係してるの?」


 この流れなら、そう繋がってもおかしくない、というか、自然なことだろうね。

 実際、そのとおりだし。

 

「うん。朱里ちゃんのユニットを組む相手になるなら、誰が一番、相性がいいのかなって。もちろん、本当に組むと決まってるわけじゃないよ? 私と由依さん――それから、一応、朱里ちゃんとで、勝手に盛り上がっていただけだっていう部分も大きいし」


 でも、ユニットを組んでいるうちに、次第と、相手のことを理解していって、仲も深まる、そういう関係性もあるとは思う。

 相性なんて、歌だけでもないし、ダンスだけでもない。性格的な部分で合わないと、長く続けていくには大変だっていうのもあると思う。

 それはそれとして、一つの指標にはなると思っている。

 もちろん、最終的に判断するのは、蓉子さんとか、スタッフ陣だけど。

 当人同士でフィーリングが合って、それで、一致団結して結成、みたいな流れが理想の一つなのはそのとおりだろう。私と奏音の間でも、そういった部分は、少なからずある。

 でも、自分では気がつかなくても、余所から、他人から見れば息がぴったり、みたいなこともあると思うから。

 もしかしたら、勝手というより、お節介とか、そういう話になってくるかもしれない。私自身の、いろんなアイドルが増えてくれたら、いろんなアイドルが観たい、なんて欲望も、まったくないとは言えない。

 

「奏音の歌に関する感性は、本当に、この事務所内で飛び抜けているから、その奏音の直感というか、フィーリングは、それなりに信頼しているっていうか。もちろん、ユニットを組んでいるパートナーとしても」


「友達としても?」


 それは、もちろんそうだけど、アイドルとしての実力の話をするのに、友情を持ち出すのはちょっと違うかなって。

 たしかに、さっき話していたとおり、アイドルのステージにはパートナーとの絆は必要不可欠かつ、大切なものであることに違いはないけど。

 でも、今、判断してほしいのは、朱里ちゃんのことであって、そこで評価するのが歌である以上、友情という要素は、ここでは関係ない。


「アイドルとして、かな」


「ふぅん。いいよ。詩音の頼みだからね。コーチ陣もいるし、私でどのくらい参考になるのかわからないけど」


 奏音は快く引き受けてくれた。

 

「ありがとう。それから、歌に関してのことなら、私はこの事務所内で、コーチ陣まで含めて、誰よりも奏音のことを信頼しているよ」


 ただ、天才肌の感覚派だから、他人に理解できるかどうかはわからないっていうところだけが、心配な点ではある。

 もちろん、これまで奏音とユニットを組んで、一緒に練習をする中で、大抵の場合はちゃんと、アドバイスというか、身になる、私にも理解できる言葉で説明してくれるているけど、たまに、抽象的な言葉で説明されることがあるから。説明……本人的には説明のつもりなんだろうけど、相手にわかっていなければ、それは、説明じゃなくて、妄想に近いものだからね。


「歌に関してだけなんだ」


 奏音は冗談っぽくそう言って、拗ねたように、そっぽを向いて見せる。

 ただ、歌に関しての部分は、というところを否定したりはしなかった。

 

「今回は、ユニット間のことじゃないからね。パートナーっていうことなら、奏音を一番、信頼してるから」


「はいはい」


 やれやれ、というように奏音は肩を竦める。

 なにか、言ってほしいことでもあったのかもしれないけれど、私はそれを外したらしい。

 とはいえ、奏音が引き受けてくれるなら、心強いことは間違いない。

 結果、由依さんとか、私とか、奏音自身とか、そういう答えになると、ちょっと困るけど。『ファルモニカ』とか、『LSG』に新規で加入するという手も、まったく考えられない、ということではないと思うけど、『LSG』はともかく、『ファルモニカ』では、ちょっと、浮くだろうな、とか。

 朱里ちゃんの加入が嫌だとか、そういうことは全然ないし、むしろ、メンバーが増えるのは、私たちとしては大歓迎ではあるけど。

 ただ、『ファルモニカ』の命名とか、結成のコンセプトからすると、ね。アイドルって、イメージが大切なところはあるから。

 もちろん、そんなことを気にする人は少数かもしれないけど。

 

「まあ、奏音ちゃんに任せない」


 奏音は、袖を捲って、力こぶを作るようなポーズで、可愛らしくウィンクを決める。


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