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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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柔軟性の重要性について

「へー、昨日の夜、そんな話を――痛い痛い、足裂けちゃう」


「痛いと思えるなら、そこまでやらないと意味ないよ、奏音」

 

 翌日のレッスンで、奏音とも話を共有した。

 

「詩音は柔らかいからそんなことが言えるんだよ」


「私だって、最初から柔らかかったわけじゃないよ」


 ただ、ダンスを昔から習っていたから、そのときからずっと、柔軟には気を使っているだけで。いろんなポーズをとるのに、柔軟性は必須項目だから。

 バレエではないけど、足は前後左右に真っ直ぐ開脚できるし、Y字バランスだってできる。


「柔軟は、本当に毎日の積み重ねだからね。それこそ、身体の関節が普通の人と違う特殊体質だとかなんていうことでもない限り、日々の体操だけが成果として現れるんだよ」


「それはわかったから、もうすこし優しくしてえ」


 泣き言を漏らす奏音の背中をさらに押す。この場合の優しさって、愛の鞭って意味だよね?

 

「柔軟って、怪我をしないためにやるもので、それで怪我したりしたなんて人はいないはずだから、大丈夫。私、奏音には怪我とかしてほしくないし」


「今まさに身体が悲鳴を上げているんだけどっ」


 奏音の身体の柔軟性は、辛うじて、長座でつま先に指がかかるくらい。はっきりいって、硬いと言える部類だ。

 アイドルだって、スポーツとまではいわないけど、十分過ぎるほどに肉体労働なわけだから、柔軟性はあって困ることはない。

 

「あって困ることはないわよ。グラビアのときも、大抵ポーズは決まっているんだけど、いろんなポーズをとれるほうが写真の幅も広がるし」


「由依さん」


 まさに、そのグラビアで活躍している由依さんは、海老反りになって、頭とつま先がくっついている。

 それで喋れるのだから、さすがとしか言いようがない。

 もちろん、体操選手なんかとは比べるまでもないだろうけど。


「えーと、ほら、身体の柔らかいこととかアピールできると、SNSとかで反応が良いかもしれないよ?」


「そんなに簡単じゃないでしょ」


 一応、問題なんかが起こらないように、私たちには個人でのアイドル活動のSNSを、今はまだ、しないように言われている。

 もし、動画や画像をアップするなら、事務所の公式SNSを使うようにということだ。

 私も、もちろん、名前を広げたいという想いはあるけど、まだ、アイドルとして活動できていない、実績のない状態ではそんなことに時間を費やしているのがもったいないと思えるから、デビューできるまでは――個人では――やらないようにしようと思っている。

 

「今事務所の後輩とレッスン中ですっと」


 そんなことを思っていた私の傍らで、由依さんが写真を撮って、なにか呟いている。

 

「安心して。顔は写さないで、きちんと加工したから」


 由依さんはグラビアアイドルとして活動していて、今の事務所の顔でもある。公式のホームページでも、宣材で使われているし。

 

「私も、心苦しいけど、奏音が怪我をしないように涙をのんでやっているんだよ」


「うそっ、楽しんでるでしょっ。笑ってるし」


 奏音は涙目だけど、まだ、反論できるくらいには余裕があるってことだよね。

 

「それに、身体が柔らかいほうが、インパクトはあるよ」


 体操選手でもないのに、足を真っ直ぐに開いている写真とかあったら、思わず、目を止めるでしょ?

 

「今上げた写真への反応よ」


 すでに、アイドルとして活動している由依さんはべつだけど。私たちより年上の高校生だし。

 由依さんが自身のSNSに挙げた今の私たちの練習風景の写真には、すでに、千を超える反応が集まっている。

 

「え? すごっ、由依さん、フォロワー数が八十四万? え? やばくない?」


 驚く奏音の隣で、私も由依さんのスマホの画面の覗き込む。

 私自身、SNSなんてやっていないし、普段から閲覧しているわけでもないからわからないけど、大分多いなというのが、正直な感想だ。

 もちろん、他の人との比較ができないから、どのくらいの位置なのかはわからない。

 

「今見てほしいのはこっちね」


 由依さんが表示してくれたのは、私たちの練習風景の写真に対する反応。

 

「えっと、『後ろの子の柔らかさ神か?』『アイドルっていうより、体操かなにかの選手みたい』『同じ事務所、候補生ってことなのかな? 中学生くらい?』、だって」


 奏音が読み上げる。ようするに、私への反応ってことだよね。

 なんというか、ただの練習風景で、私はまだデビューすらしていないから、どちらかというと、気恥ずかしさのほうが勝る感じだ。嬉しくないことはないけど。

 

「もちろん、これは反応の一例でしかないわ。普通の日常風景とか、ただの自撮りなんかのほうが、反応が良いこともある。でも、話題の一つにはなるでしょう? アイドルって、ビジュアルも求められるアスリートだから。プロのスポーツ選手はストレッチとかも入念にしているでしょう? それと同じね」


 ビジュアルの求められるアスリート。

 たとえば、サッカーとか、柔道とか、ダンスだって、ビジュアルという面での採点はされない。

 だけど、アイドルは違う。むしろ、ある意味、ビジュアル(あるいは、ルックス)第一主義とも言えるような世界だ。

 

「そういうわけで、そのビジュアル面を追求するために、柔軟性は重要なのよ。わかっていると思うけれど、ここで言うビジュアルっていうのは、顔の良さっていうことじゃないわよ」


「え? 今の話繋がってたんですか?」


 奏音が私のほうを振り向く。

 

「怪我なんてしたら活動できないし、流行り廃りは激しい世界だから、あっという間にいなくなる、柔らかさの伝わるような写真は反応が良い、そもそも、いろんなダンスを踊るのに柔らかいほうが便利、そういうことですよね?」


 多分、そんなところだと思う。

 ないよりは、あったほうがいい。


「そうね。可愛いポーズをとるのにも、柔軟性があったほうが良いなって思えるから。奏音ちゃんだって、詩音ちゃんみたいなY字バランスのポーズをしてみたいでしょう? まあ、詩音ちゃんの場合、もう、Y字というよりもI字っていう感じだけど」


「それは言いすぎですよ、由依さん」


 さすがに、I字までは言えない、と思う。

 雑技団とか……あれはもっとやばいけど。身体のつくりが人と違うんじゃないかって、疑うレベルで。

 よく、漫画とかアニメとかでもテロップで見るような『彼らは特殊な訓練を積んでいます、素人が真似をしないでください』っていうのを本当にやっているようなレベルだからね。


「まあ、一番が怪我の予防であることは間違いないわね。だから、嫌がっても続けるわよ」


 由依さんがにっこり笑う。


「うっ、真雪さん……」


 奏音が真雪さんに助けを求める。

 

「えっと、その」


「情けない声を出しているんじゃないわよ」


 真雪さんが答えに困っているところに、少し席を外していた朱里ちゃんが戻ってきた。

 

「そういう朱里はどうなの?」


 奏音がわずかに唇を尖らせる。


「さすがに、詩音みたいに変態じゃないけど、普通くらいにはできるわよ」


 ほら、と朱里ちゃんは立ったまま床に手をつけてみたり、百八十度とはいかないまでも、開脚して倒れてみたり、海老ぞりになって、頭とつま先をつけてみたりと、柔軟性を披露してくれる。

 それはすごいと思うけど、それよりも。


「朱里ちゃん、私、変態じゃないからね?」


 Y字バランスができるだけだから……いや、もうすこし、開脚が――前後でも左右でも――百八十度できたり、長座でも、開脚でも、そのまま足とか床とかに頭や胸、お腹がつけられたりはするけど。もちろん、海老ぞりだってできる。

 

「褒めているのよ」


「もっとストレートに褒めてほしい……」


 まあ、でも、朱里ちゃんはいつもこんな感じだから。

 

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