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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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由依さんたちともしたいなって

 奏音とか、由依さんに関しては、最初から距離をとられることがなかったからというのが大きいんだろう。

 真雪さんとは、今もまだ、完全に打ち解けているとは言い難いけど、それでも、こうして話しをできるくらいまでにはなってきた。

 やっぱり、接している時間なのかな。

 学校での、授業中は個人個人の時間だという風に考えると、放課後とか、休日とかには、基本的に習い事があったり、仕事があったりで、クラスメイトと遊ぶ、みたいなイベントに遭遇することがないんだよね。

 半面、由依さんや真雪さんとは、最低でも、週に三日はレッスンで顔を合わせる。奏音とはそれ以上だ。

 そして、その時間は、クラスメイトと接する時間より長い。もちろん、レッスン中が授業中と同じ扱いだと考えるなら、似たような環境と言えるかもしれないけど、やっぱり、学校の授業より、アイドルとしてのレッスンのほうが、ユニットを組んでいる分、距離が近いというか、意見のぶつけ合いや、歌やダンスの競い合いが激しい。

 それはつまり、アイドル的なコミュニケーションが盛んだということ。

 しかし、基本的にアイドルを介してのコミュニケーションだった私にとっては、クラスメイトと普通の話を普通にする、というのが、どういう感じなのかがわからないというか。


「奏音とか、由依さんや真雪さんは、ここ以外の友人とは、どんな話をしているんですか?」


 奏音や真雪さんは中学で、由依さんは高校で。

 

「私は、普通にアイドルの話とかするよ。詩音とユニット組んでるって、皆に自慢してるから」


 奏音のクラスメイトのほうが、私の中学の生徒より、月城詩音について詳しそうだ。

 もっとも、私は話していないから、同級生がどのくらい月城詩音、あるいは『ファルモニカ』に興味を持ってくれているのか、わからないんだけど。

 でも、そういうことばかり突っ込んで聞くというのも、なんというか、露骨すぎて、嫌な感じがすると思う。それとも、私の被害妄想かな?


「私たちは、今年度は受験だから、学年全体で、遊んだりっていう意味では、コミュニケーションは少ないわね。参考書とか、模試とか、あとは、就職の場合はガイダンスなんてことも話題には上がるけれど」


「由依さんも受験されるんですよね?」


 一般の大学を。

 

「ええ」


「もしかして、蓉子さんと同じところだったりしますか?」


 この国の最高学府の一つを?


「さすがにそこまでは手が届かなかったのよね」


 つまり、近しいところは受けるということ。

 

「事務所が変わったりは?」


「しないから大丈夫よ。ふふっ、嬉しいことね」


 私が安堵のため息を漏らすと、由依さんは嬉しそうに口元をほころばせた。

 

「そうねえ……私が中学生だったころは、モデルの下積みって感じのトレーニングばかりしていたのよね。でも、モデルって、つまるところ、身体を綺麗に整えるっていうことだから、一時期、そんな感じのことが流行っていたりもして、その手の話題がとっかかりだったのよね」


「それは、なんていうか、意識高そうですね」


 奏音がふんわりとした感想をこぼす。 

 

「同じクラスに、体操――器械体操を習っていた子がいたのだけれど、柔軟性も、パフォーマンスも、全然敵わなくてね」


「それは、アイドルのダンスと、器械体操とでは、ジャンルが違うんじゃないですか?」


 完全にイメージの話にはなるけど、アイドルのステージで、宙返りとか、倒立とか、そんなことをやるはずもないし。

 体育の授業だって、ダンスと器械体操は分かれているから。まあ、授業は、器械体操とはいえ、その中でも、床、つまり、マット運動くらいしか、直接関係がありそうなことはやらないけど。 

 

「それはそうなのだけれど、見ている分には格好良いのよ」


 由依さんのいうこともわかる。

 私たちもアイドル活動で、歌に踊りにパフォーマンスと、肉体のスペックを追求しているようなものだから。

 そういう意味では、アスリートと言っても過言ではないかもしれない。いや、やっぱり、さすがに過言かな。 


「そういえば、詩音もダンスを習っているんじゃないの?」


 奏音に話を向けられ、由依さんも同じような表情を――つまり、そういえば、というような顔を――浮かべる。

 

「習っているけど、私のダンスは養成所のレッスンでも見ているでしょう?」


 ダンスと器械体操は全然、とは言わないけど、大分違う競技だからね。

 ダンスが音楽に合わせて身体を動かして、感情とか、あとは、たとえば、物語的なことを表現する、いわば、芸術なのに対して、体操って、身体の機能向上とか、技術の習得を目的とした運動でしょう? つまり、究極的な話をすれば、観客がいてこそ成り立つのがダンスで、いなくても成り立つのが体操っていうことかな。

 そう、ダンスって、芸術なんだよね。

 つまり、どちらかいうと、魅せるっていう要素が強く出るわけで、そういう意味では、アイドルのステージとも、似ている部分、重なる部分は出てくる。 

 あくまでも、私の感覚では、っていう話だ。そう言っておかないと、体操関係者とか、ダンス関係者に、いらない喧嘩を吹っ掛けたと思われる、かもしれない。


「うん。見てるよ。なんで、詩音のダンスで、ダンス部門の一位にならないのかわからないくらい、レベルが高いってことはわかる」


 由依さんも、そうね、なんて頷いているけど。


「それは、言い過ぎじゃない?」


 相方だから、フィルターがかかってるんじゃないの?

 でも、奏音は確信しているように。


「本当にそう思ってる? 詩音。私には、自分の歌に自信を持ってとかって言うわりに、詩音は自分のダンスに自信ないの?」


「正直、そこまで、自信を持っているか、と言われると、胸を張っては言えないかなっていうところなんだけど」

 

 実際、養成所のダンスのみのテストのときだって、一位は逃しているわけだし。

 

「それは、上位の人たちもダンスを習っているからでしょ。でも、私は、詩音のダンスは、技術でも、気持ちでも、負けてないと思ってる」


 奏音がすごく真剣な顔つきで言うものだから、さすがに照れる。

 

「えっと、その、ありがとう……」


 さすがに、その言葉を疑うほど、性根が曲がってはいないつもりだ。

 奏音はなぜだか、くっ、と耐えるような顔をしていたけど。


「奏音?」


「なんでもない、なんでも。でも、ちょっと待って」


 奏音は私に背を向けて、若干上向きがちに、息を吐き出して。


「ふふっ。奏音ちゃんは大変ね」


 由依さんは相変わらず楽しそう。多分、奏音の行動の意味をわかっているからなんだろうけど。

 

「危うくみっともないところを見せるところだったよ。普段から一緒にいてもこれってことは、もっと、一緒にいる時間を増やして、慣れたほうが良いのかもしれない」


「みっともないって、奏音、なにするつもりだったの?」


 まさか、公共の場で泣いたりしないよね? 一応、アイドルとして涙を流す訓練もしているけど。

 

「それは……あっ、詩音の家、見えてきたよね」


 話しながらだったから気にしてなかったというか、普段より時間はかかったけど、近所と言える位置だし。

 奏音は露骨に話題を変えたけど、そこは突っ込まないでおこうかな。


「……すごく大きいのね」


 由依さんはうちを見上げるように、ぽかんと口を開けている、もちろん、口元に手を添えているけれど。

 

「はい……あっ、そうだ、いや、そうでした。前に、奏音とはしたんですけど、今度は、ぜひ、由依さんたちともしたいなって思っていたんです。あ、もちろん、今日とかってことじゃないですけど」


「え? それは、その、ちょっと、まずいんじゃないかしら」


 由依さんが若干、挙動不審気味で。


「あ、やっぱり、アイドル同士でもお泊り会ってまずいんでしょうか?」


「え? ああ、お泊り会ね。すごく楽しそうだけれど、受験が終わってからにしたいわね」


 なにか、勘違いでもあったのかもしれない。由依さんは一つ息をついて。

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