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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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夜のレッスン?

 そうして、ありがたくも、いろいろと話をさせてもらったりもして、私の事務所、あるいは、養成所の一日目が終わった。

 初日なんだからあたりまえかもしれないけど、濃い一日だった――なんて言えるほど、満足しているわけじゃない。

 もちろん、事務所の様子が見られたこと、先輩のアイドルと話ができたこと、それから、そのレッスンを見学できたことは僥倖だったけれど、そこはなにも、満足のできるところじゃない。ファンじゃなく、アイドルとして、ステージに立つ側になりたいと思ったのなら。

 とはいえ、由依さんも、真雪さんも、それからもちろん、蓉子さんも、素敵な人だったことには違いないわけで、ライバルではあるけれど、仲間でもあって、これから一緒に切磋琢磨していくことができると思うと、つい、頬も緩む。もちろん、それは、私の頑張りが重要なことだけど。

 今までは、画面の向こう側に見ることしかできなかったわけだけど、これからは、実際に話を聞くことができる。それから、隣で身体を動かすことも。

 普段から心がけることは? 仕事で必要になるスキル――能力は? そして、その磨き方は? 実際の現場の雰囲気は? アイドルになりたいと思ったきっかけは? 聞きたいことは山ほどある。 

 しかも、事務所には由依さんや真雪さんの出演している雑誌が置いてあって、当然、無料で読み放題。なんだ、楽園か。

 いやいや、私は頭を振って自分に活を入れ直す。

 ファンでいるだけじゃだめだ。自分が、向こう側に行くためには、どうすればいいのか、どうするべきなのか、それを由依さんや真雪さんから学ばないと。

 差し当って、今からでも私にできそうなのは、身体づくりとかかな。

 ある程度であれば、蓉子さん――トレーナーがいなくても、自分でもできそうだし。

 それこそ、学校の体育の授業でとか、ダンスの教室でとか、独学で収集した情報くらいしかないけど、ランニングとか、柔軟とか、成長を阻害しない程度の、軽い――筋トレくらいは大丈夫だろうか。

 一応、由依さんや真雪さん、もちろん、同じような理由でスマートフォンを買ってもらっていた、朱里ちゃんや奏音とも、連絡先を交換している。

 家でできる身体作りとか、トレーニングがあれば、聞いてみようかな。正しい、より良い方法も聞かせてもらえるかもしれないし。あと、純粋に話がしたい……まあ、明日以降でかまわないことは、また今度にして。

 

「遅くにすみません」


 とりあえず、由依さんにメッセージを送ってみる。事務所でグループを作って、みたいなことはまだないから、個人に向けたものだけど。

 

「詩音ちゃん。嬉しいわ。どうしたのかしら?」


 由依さんからはすぐに返事があった。

 

「実は、家でも、自分だけでもできるトレーニングというか、身体造りがあれば、教えていただきたいのですが」


 もちろん、ネットを探せば、いくらでも出てくるだろう。

 でも、それこそ、数が膨大すぎるし、どれを選べばいいのかなんて、経験のない私には判断が難しい。いろいろ試してみて、そこから、自分に合うようなものを選んでいく、というのも一つの手だとは思うけれど。

 

「ええ、もちろん」

 

 その直後、通話がかかってくる。もちろん、由依さんから。


「はい、月城詩音です。お疲れさまです」


「こんばんは、詩音ちゃん。今、時間大丈夫かしら?」


 由依さんからかかってきたのは、ただの通話じゃなくて、ビデオ通話だった。

 画面の向こうの由依さんは、私服姿で、事務所で会ったときよりも、ふわふわ感が増しているというか。決して、悪い意味じゃなくて。


「はい。由依さんのためなら、空いていなくても空けてみせます」


 そもそも、私のほうから聞いたことだし、わざわざ、ビデオ通話までかけてきてくれたんだから。


「ふふっ。スケジュールの管理は蓉子さんがやってくれるけれど、体調の管理は自分でもしっかりしなくちゃだめよ。それで、えっとね、メッセージじゃなくてビデオ通話にしたのは、説明するときに、実際にこっちの様子が見られたほうがわかりやすく伝わると思ったからよ」


 由依さんは、今、手にスマホを持っているわけじゃなくて、多分、机かなにかに置いている。あるいは、もしかしたら、そういう、自撮り棒みたいな、便利グッズがあるのかもしれないけど。

 

「詩音ちゃん、その寝間着姿も素敵よ」


「いや、普通のパジャマですから、って、由依さんも同じような寝間着ですよね?」


 スケスケのネグリジェとか、動物の耳とか尻尾のついた着ぐるみパジャマとか、そもそも、寝るときはなにも、みたいな格好だったらさすがに驚いただろうけど。

 いや、驚くだけじゃすまないだろうな。

 それはともかく。

 

「詩音ちゃんはまだ中学生だし、早寝早起きが一番の美容の秘訣だってことは、ひとまずおいておいて」


 まだ、遅すぎるという時間なわけではないだろうけど。

 それでも、由依さんはすでに寝間着、つまり、お風呂なんかも済ませているということで、そのあたりも、プロ意識のなせるものなんだろう。

 あっ、でも、これから勉強とかをしたりする、みたいなこともあるんだろうか?

 

「家でもできるもの、ということだったけれど、同じことは事務所のレッスン室でもできるのよね」


 それは、そのとおりだ。うちも、一般的に見れば、広いほうだと思うけど、さすがに、レッスン室の広さはない。

 

「そうね。簡単なところだと、やっぱり、筋トレとか、柔軟よね」


 そう言って、由依さんは脚をほぼ百八十度に広げて、そのまま、横や前に倒れたり。

 私と違ってスタイルもいいから、前に倒れたときに、胸が潰れて大変そうだったけど。

 羨ましい……じゃなくて、私も真似して、同じようにやってみる。もっとも、これは、由依さんに教わるまでもなく、いつも自分でやっていることではあるけど。

 

「詩音ちゃん柔らかいのね。私は、始めたころは本当に身体が硬くて、大変だったのよ」


 今は改善されつつあるけどね、と由依さんは立ち上がって、見事なY字バランスまで見せてくれる。

 

「すごいです、由依さん」


「これでも、一応、五年くらいは続けているから」


 由依さんは笑っているけれど、それでも、継続できるのことがすでにすごいことだと思う。

 そして、実際、雑誌に登用されているという、結果も残している。

 努力なんて皆がしていることで、プロの現場になると、評価項目にはならないから。

 

「詩音ちゃんも、たしか、ダンスを習っているのよね?」


 由依さんの瞳が、見たい、と訴えかけてくるみたいだ。

 だから、私も由依さんに倣って、Y字バランスをとってみせる

 下面の向こうで由依さんが静かに拍手してくれるけど、直前に、私も由依さんがやっているところを見ているわけで、少し気恥しい。


「柔軟性は、怪我の防止にも繋がるから。もちろん、パフォーマンスの向上効果もね」


 ルッキズムの極致たる芸能界、アイドルの世界において、怪我をしているところなんて見せられない。

 それは、自分の仕事に責任を持つということ。誰も、怪我をしたり、もちろん、風邪や病気は言うに及ばず、痛々しいところを見に来てくれるわけではないのだから。事故だって、なるべく気をつけないと。

 怪我を押しても頑張る私、みたいなものは、求められていない。怪我をしないようにするべきだということだ。

 私の仕事がなくなって困るだけじゃなくて、メイク、スタイリスト、カメラマン……内容によって違ってくるだろうけど、いろんな、たくさんの人に迷惑をかけることになるから。

 アイドルじゃなくても、誰でも同じかもしれないけど、よりいっそう、ということだ。

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