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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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歌詞に込める想いとは

 ◇ ◇ ◇



 自分たちで考えた歌詞にメロディがつく。

 歌詞とか、曲作りのことはよくわからないけど、それはかなり大変なことになるんじゃないか、という漠然とした想いはある。

 メロディに沿って歌詞をつける。それはわかる。すでに完成しているメロディに合わせて歌詞をつけるわけだから、いちいち、作曲者とのイメージの擦り合わせをする必要がない。

 対して、歌詞を作ってからメロディを入れる、ということになると、どうしても、その作詞者のイメージを共有しないといけない。ある程度は歌詞から想像できるかもしれないけど、言葉は絶対的なものじゃないから、誤解や勘違いが生まれるだろうし。 

 あんまり、作曲とか作詞なんていうことに詳しくない私の意見だから、全然、そんなこともないのかもしれないけど。

 

「歌詞かあ……」


 歌だけに限った話じゃないけど、芸術っていうのは、つまり、自分の想いを表現する作業のことだ。

 私は世の中に対して、なにを発信したいんだろう。

 もちろん、私の素直な気持ちをぶつけるということもできる。

 なにが好きとか、嫌いとか、楽しい、哀しい、嬉しい。

 二人の、『ファルモニカ』の話だし、奏音と話し合って決めるというのは、そのつもりではあるけど、それにしても、自分の意見がないと、話し合いにすらならないわけで。

 私たちの作った歌詞が、そのまま、なんの改変もなく採用されると無邪気に思っているわけでもない。

 とはいえ、それすら、元があってこそ。

 奏音にメッセージでもして、ぼんやりとしたものでも、イメージだけでも聞いておこうかな? と思って、止めておく。

 それを始めると、短時間で済まないだろうし、そうしてイメージを突き合わせるために、今度、泊まりにくる(あるいは、泊まりに行く)という話になっているわけだから。

 私の好きなものということなら、決まっている。奏音だってわかっているだろう。

 じゃあ、アイドルというのは、どういう存在なのか。

 元気や勇気の湧いてくるとか、きらきらしていて、可愛かったり、クールだったり、憧れであり、夢であり……そういうイメージかな。

 私の世界を変えたもの、私の心の真ん中にある想いを形成するもの、ずっと真っ直ぐ見える先に輝いているもの。

 それから、これは、デビューをしているから言えることかもしれないけど、夢で終わらせずに、実際に自分でその世界に足を踏み込むまでになっているんだから、すさまじい影響力だったと言えるだろう。実際、その自覚もある。

 あくまで、これは歌詞に関してのものだ。綺麗な側面しか見ていなくても、そもそも、人を元気づける存在というのなら、明るく、笑顔になれるような歌詞になるはずだから、それでもかまわないだろう。

 

「夢中にさせる……笑顔……絆……手を取り合って……うーん、きらきらしさ……世界平和、までいくと言いすぎかな」


 とりあえず、思いついた言葉をつらつらとノートに書き留めていく。

 べつに、これについては今日とか、明日とか、そんなにすぐに求められているものでもない。だから、今すぐ形にする必要もない。

 今、はっきりと作ろうとすると、なんとなく、養成所の現状に引っ張られるような気もするし。

 もちろん、そのときそのときの環境が、創造っていう作業に影響を与えないことはないだろうけど。

 

「一番なのは、多分、夢ってことだよね」


 求められるもので、与えたいもの……っていうと、傲慢に聞こえるかもしれないから、見せられたらいいなあと思っている、くらいにしておこうかな。

 アイドルにとっての夢っていうのは、もちろん、自分で見るものっていう意味でもあるけど、ファンに見てもらうものっていう意味もあると思う。

 それは、たとえば、ドームなんかで公演しているのを観たいよね、とか、そういう話じゃなくて。

 単純に、お陰で今日も頑張ろうっていう気力が湧いてくるとか、落ち込んでいるところに励まして、前を向かせてもらえそうとか。 

 そうすると、応援歌みたいな話になってくるんだろうか。

 応援歌ってことになると、アイドルソングの定番、みたいなところもあるし。

 とはいえ、問題……と言えるかどうかまではわからないけど、問題もある。

 私個人の気の持ちようの話ではあるけど、アイドルソングの応援って、私にとっては、誰かに向けるものっていうより、自分に向けられるものなんだよね。

 多分、自分が励まされたとか、力をもらったっていうところが大きいんだろうけど、どうしても、そのイメージが先行してきて、自分が誰かを励ませるっていうイメージにならないというか。

 これは多分、私一人で考えていてもどうしようもないと思う。

 たしかに、私の部屋には、アイドルのポスターも、CDも、サイン色紙とかもあるけど、全部、受け取ったもので、どうしても、受けるものっていうイメージが強い。

 奏音と一緒に『ファルモニカ』として出したものもあるけど、それはそれというか、まだ、誰かの『好き』に加えられたらいいなあ、くらいであって、それが誰かの心になにか届けられている、とまでは強気になれないというか。

 もちろん、動画サイトとか、事務所のSNSとかには、ファンの人たちからの反応もあるんだけど。それを疑っていたりはしないし、嬉しいものではある、それは間違いない気持ちだけど。

 どこまでも、自分の好きの延長線上の仕事をさせてもらっている感じというか。 

 そういう、受け取り手側からの想いを書くっていうのも、なにか違うと思うし。 

 ファンならそれでもいいかもしれないけど、アイドルとして、ステージの上から、イヤフォンやスピーカーの向こう側から伝える想いとしては。


「まあ、いいか。今はまだ、アイディア出しの段階だから」


 私のこんな、ふわふわとした感覚も、プロのクリエイターにかかれば、うまく形にしてくれるかもしれない。

 あるいは、ほかの人と話しているうちにまとまるとか、はっきりしてくることもあるだろうし。

 それは、甘えだっていうことじゃなくて、世の中に発信して、人に聴いてもらうものなんだから、雑なものを送り出すことはできないっていう、プライドだ。

 私一人でできることなんて、限りがある。アイドルのステージだって、誰かと協力して行うものだ。

 もちろん、一人の強さが必要になることもある。協力ならいいけど、依存になってしまうと問題だろう。

 支え合うことも必要だけど、それぞれが自立しないと、プロとは言えない。 

 それでも、誰かと一緒に作り上げていくのがアイドルのステージだ。

 頼るんじゃなくて、引っ張り上げ合う。相手に合わせるんじゃなくて、信じて突き進む。そういう強さも必要だから。

 私がどんなに滅茶苦茶な想いを綴ったとしても、奏音と一緒なら、それも形に落とし込んでいける。

 逆に、奏音の想いだって、受け止める覚悟はある。 

 そうなってくると。


「奏音のことを想って、歌詞を書く……?」


 いやいや。

 隣に立つアイドルに向かって叫ぶ想いを歌にしてどうする。もちろん、いつもそうだっていうわけでもないかけど。パートナーで、友達で、ライバルだから。

 それは、あれだね。ライバルに向けた、張り合うとか、勝負とか、負けない気持ちとか、そういう感じの歌ならいいかもしれないけど。

 あとは、恋とか、愛とか?

 奏音に恋愛してるとか、そういうことじゃなくて。いや、奏音の歌には本当に惚れ込んでいるけど。惚れこんでいるとも違うのかな。もっと、べつの……。

 もちろん、奏音のことは大好きだけどね? それだと、友情ソングになるのかな。

 とりあえず、それはまた今度。

 



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