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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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一人で反省会?

 ◇ ◇ ◇



「あー、疲れたなあ」


 お風呂で思いきり手と足を延ばす。我が家の浴槽は、そのくらいの広さは十分にある。


「でも、それよりずっと、楽しかったなあ」


 今までの長いとは言えない人生の中でも、最高の日だったことは間違いない。

 初めてアイドルのライブを観たときとか、初めて生で見に行ったときとか、初めて養成所に踏み入ったときとか、最高の日なんてたくさんあるけど、順番をつけられるものでもないし、最高と思える思い出がいくつもあるのは良いことだから。

 今日からはその思い出に、初めてのテレビ出演、というのも加わるわけだ。

 いろいろと思うところはあるわけだけど、今、こうしてゆっくりしながら考えることは、自分たちのことにいっぱいいっぱいで、ほかのアイドルとか、タレントとか、そういう人たちと話す機会がほとんど持てなかったことだ。

 もちろん、由依さんたちはべつだ。

 由依さんたちに不満があるなんてことはないけど、しいて言うなら、普段、養成所でも会うことの多い由依さんたちより、普段会うことのないアイドル、芸能人の人たちとも話をしてみたかった。

 もちろん、これからもその機会はあるだろう、あると良いなあ、とは思うし、蓉子さんとか、事務所のマネジメントがある限り、そして、私たちが実力と結果を示し続ける限り、それは続いてくれるとは思うけど。

 ミーハーだとか、そんな風に言う人もいるかもしれないけど、そんな程度は言わせておけばいい。 

 さすがに、奏音とか、ほかの相手であっても、今はやりとりする元気はない。


「今日はもう遅いから、後日、映像を確認しながら反省会だね」


 今日は、実家であっても、録画を確認することはできないだろう。確認はしていないけど、母が、娘の初出演として、録画していないわけはないだろうけど。

 気になるけど、実際に、現場で見ているからなあ。

 テレビ局、それから、収録の際の空気感は、熱は冷めても、寝ても覚めても、忘れられるようなものでもないし。

 あとは、評判も。視聴者からということも、スタッフ側からということも。

 視聴率に加えて、そこの数値が、再び呼ばれるかどうかの決め手になっているわけで。

 一応、きちんと対応はできたと思うけど、あくまで、個人的なことだからなあ。なにか、失礼があったかもしれない。

 いや、それなら、蓉子さんがその場でなにか言ってくれただろうから、大きな失敗はしていないはずだけど。

 

「――、いや、もっと、そこは、こう」


 湯船に浸かりながら、鼻歌で一人反省会もする。

 あんまり長くなったり、のめり込んだりすると、心配されるけど。風邪をひくからね。

 とはいえ、さすがに、こんな夜中に、自室であっても、一人で歌って、踊って、なんてことはできないから。

 明日は休みだから、学校での評判をすぐに確かめることはできないけど、早く寝て、明日も養成所に顔を出して、そこで評価を聞いてみようかな。

 幸い、記憶にはしっかり刻みこまれているから、思い返したりするのには困らない。

 舞い上がっていたとしても、大事なことは存外、心のうちに残っているみたいだ。もちろん、ノートには書き出すけど。むしろ、言葉にして書き出してしまわないと、いつまでも興奮から抜けきらなくて、地に足がつかない感じになっていても困るから。

 

「現時点での最高のパフォーマンスはできたかな」


 緊張しっぱなしで、あがりっぱなしで、まともに受け答えができなかった、なんてこともない。貸家ステップを間違えた、わけでもない。精神的な安定という意味では、奏音は少し怪しかったけど、出番の前にはしっかりしていたし。

 慣れない場所、初めての人たちの前でのパフォーマンスだったけど、アイドルのライブなんて、そんなことの繰り返し、積み重ねだ。武道館とか、ましてや、ドームでの公演に慣れていて、なんて、まだまだ、全然、これっぽっちも、口にできるような立場じゃない。

 それでも、慣れるくらいに呼んでもらえたら、という思いはある。

 もっとも、今の私たちにできる全力を披露できたことには違いないから、後悔はない。反省はあるけど。

 次がないなら、また、積み重ねていくだけだ。そのことに、不満なんて、あろうはずもない。

 今度は奏音と二人きりで、ということも考えられる。むしろ、由依さんたちが、いつも同じ番組に呼ばれるわけじゃないし、今回はたまたまからね。

 それでも、奏音がいれば、なんだって乗り越えていける。

 多分、一人でも乗り越えていけるようにならないといけないのかもしれないけど、それは、まだ先の話で。

 ユニットを組んでいる以上、私と奏音は、一心同体。

 そして、アイドルはやっぱり、皆と一緒のパフォーマンスを披露してこそだと思う。もちろん、単独ライブというのは、それはそれで、すごいことに違いはないけど。

 多分、番組なんかの制作側としても、私だけを呼んで、みたいなことはしないと思う。私と奏音は、二人で一つのユニットである『ファルモニカ』として、デビューして、活動しているわけだから。少なくとも、近いうちは。事務所的には、『ファルモニカ』としてでも、『月城詩音』、『如月奏音』としてでも、売り出し方にこだわりがあるわけでもなさそうだけど。

 一人が不安だっていうことじゃなくて、二人でやりたいっていうことだ。

 今回は歌番組だったけど、バラエティでも、リポートでも、なんでもこなせるようになっていかないといけない。ドラマなんかの役者ってことになると、また別に、演技の勉強とか、レッスンが必要になってもくるだろう。

 まだまだ、私に足りないものは多い。むしろ、足りているものなんてない。 

 それは、まだまだ、成長できるということ。そもそも、歌やダンスにしてみても、上には上がいるわけで。 

 それは、まだ、私の中では、絶望とか、羨望とかじゃなくて、目標で、そして希望であってくれている。

 一番身近なところに、わかりやすい目標がいるからね。  

 もちろん、奏音の歌に追いつくのは、並み大抵のことじゃない。それこそ、数か月なんかでは絶対、追いすがることもできないだろう。

 私がレッスンを積んで成長するのと同じように、奏音だって、同じだけレッスンをして、成長しているんだから。なんだったら、これから先、どれだけ積み重ねても、その時点での奏音に肩を並べることはできないかもしれない。

 とはいえ、同じじゃ追いつけないからと、無理をしようとすると、どこかに負担がかかって、より、時間がかかってしまうから、悩みどころだ。身体を壊したりしたら、それこそ、差は開く一方になってしまう。

 奏音と対等のライバル、ユニットの関係でいるために、引っ張り上げ合う関係でいなくちゃいけない。 

 一緒の番組に出てみて、由依さんたち『LSG』のすごさは身に染みて体感できた。 

 先輩として、現場に慣れているというのが一番大きくはあるんだろうけど。それでも経験というのが大きな武器であることに違いはなくて、それを埋めるというのは、なかなかに難しい。向こうのほうが先に走り始めていて、止まってくれることはないわけだから。

 それでも、無理をせず、一歩づつ、しっかりとした実力をつけていこう。結局、私にできることはそれしかない。

 とはいえ、こうして、一度出番をもらってしまうと、次も早くやりたいと、欲は出てくるよね。

 レッスンもしたいけど、本番もこなしたい。身体が一つしかないのがもどかしい。

 とはいえ、切り替えていかないと。次から、新曲のレッスンも入ってくるし、すぐに収録も控えているからね。


 

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