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輝きが向かう場所  作者: 白髪銀髪


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やれるだけのことはやったかなって

「あの、蓉子さん。これでお終いですか?」


「はい。お疲れさまでした」


 なんだか、拍子抜けするほど早く終わってしまった。

 これだけ早いと、逆に心配になってくる。

 そんな気持ちが表情に出ていたのか。


「本当に、クオリティ的には問題がありませんよ。それから、まだ、未成年、中学生であるおふたりをあまり遅くまで働かせていると、こちらが違法になってしまいますから」


 蓉子さんが人差し指を唇の前に立てる。

 労働基準法によって、義務教育が終了する前の児童の就労は原則禁止されているということだけれど、映画や演劇の事業に限り、労働基準監督署長の許可を得られれば就労可能とされているらしい。

 今回はその、MV撮影を映画事業と言い張るつもりなのかな? 

 ただし、それでも、本当に遅くなりすぎると問題だから、時間的にはぎりぎりらしいけど。

 

「なので、一発でOKが出て、私たちとしてもほっとしているところです」


 そういう怖い話は先にしておいてほしかった。

 それとも、先に話をされていると、余計に意識してしまって、かえって、影響が出やすいと判断されたからなのか。

 

「え? 逮捕されてたかもしれないってことですか?」


 奏音ははっとして声を潜める。


「どうしよう、詩音。天体観測のお願いをしていたとか、理由を考えておいたほうが良いのかな? 蓉子さんたち捕まっちゃう?」


「落ち着いて、奏音。許可はもらっているって、さっき、聞いたでしょ」


 だから、大丈夫なはず。法律とかの難しい話は、正直よくわからなくて、そういうものなんだと思い込むことにしただけではある。

 とはいえ、プラネタリウムで撮影というのも味気ないし、屋外で撮影できてよかったとは思っているけど。

 

「そ、そうだよね」


 奏音があからさまにほっとしたような様子でため息を漏らす。

 

「それに、もう終わった後なんだから、今から気にしても仕方ないよ」


 やったことがなかったことになるわけじゃないんだから。

 なんだったら、動画にもしっかり残したし、そのうえ、これから動画配信サイトのちゃんねるにもアップするんだから。

 たしかに、アップしないでなかったことにするっていう、ちゃぶ台返しみたいな方法はあるけど。

 

「詩音は落ち着きすぎだよ。アイドルの動画見すぎて感覚おかしくなってない?」


 たしかに、私たちが未成年、中学生だから問題なわけで、十八歳以上なら、問題はないわけだし。

 とはいえ、このままでっていうのも、問題だ。法律がどうこうのほうじゃなくて、この曲を披露するたび、奏音がこのことを思い出して委縮したりするとパフォーマンスとかにも悪影響が出かねないっていう意味で。

 

「今後の活動に問題が出たりとかって、ありますか?」


「おふたりは心配なさらなくて大丈夫ですよ。そのために、マネージャー、つまり、私がいるので」


 あたりまえだけど、蓉子さんは成人している。ほかのスタッフの人たちも。

 これだけ人が関わっていて、誰もその問題に気がついていないということは、ほとんどありえないだろう。なにせ、私ですら、少し調べただけで簡単にわかったことだから。 

 

「それより、一番の山場は越えたわけですが、シングルの発売にあたり、おふたりにこなしていただく仕事はまだまだ、山のようにあります。これから、そちらの仕事に注力していただくべく、今は、しっかりと休むことも仕事のうちです」


 車の中に子守歌のようなメロディが流れ、私たちを眠りに誘ってくる。

 同乗しているスタッフの方にも効き目はあるはずだけど、さすがに、中学生への効き目には敵うまい。 

 出掛けにも少し寝たけど、今度はさらに、MV撮影という仕事もこなし、車で往復してきた後だ。睡魔に襲われるのも、さっきよりも、ずっと早い。

 

「お疲れさまでした、詩音さん」


 次に私が気がついたのは、月城家の前だった。

 どうやら、眠り込んでしまっていたらしい。時間が時間だし、仕方ないとも思うけど。

 

「ありがとうございます、蓉子さん」


 車の外では、外まで出迎えにきてくれていた母が待っていて。

 

「奏音にも、おやすみと言っていたと、伝えておいてくれますか?」


 隣で寝ているパートナーを視界に入れつつ、蓉子さんに頼む。

 

「はい。承りました。おやすみなさい、詩音さん」


「蓉子さんも、お付き合いくださってありがとうございました。今後とも、よろしくお願いします」


 奏音を乗せた車が見えなくなる前に、失礼させてもらって、私は家の中へと入る。

 

「お疲れさま、詩音。ご飯は大丈夫? 先にお風呂に入る? ベッドに入る前に元気はあるかしら?」


「ありがとう、お母さん。ご飯は……やっぱり、先にしようかな」


 お風呂に入ってしまうと、気持ち良くて、そのまま眠ってしまう可能性もある。

 そうなる前に、済ませておきたい。後だと、もう、ベッドに入ってしまいたくなって、面倒に思えてくる、なんてこともありえないとも言えないし。

 

「わかったわ。心配だから、お風呂には私も一緒に入るわよ」


 待っていてくれたらしい母と一緒に夕食と、入浴も済ませる。

 小学校の高学年――移動教室とかに行く前くらいから、一人で入浴なんかは済ませるようにもなっていたけれど。今日は心配だからという理由――私がじゃなくて、母が――で。実際、湯船で寝こけてしまったりしたら大変だから。あるいは、のぼせるまで入ってしまっていたりとか。

 

「お母さんが洗ってあげましょうか?」


「ううん、大丈夫」


 むしろ、私のほうが、こんな時間まで起きて待っていてくれたことの感謝でを示したいくらいで。

 もちろん、普段も母はこのくらいの時間まで起きているということなのかもしれないけど、いつも、私のほうが先に寝ているから、それはわからない。

 

「じゃあ、ドライヤーはやってあげるから、その間に歯を磨いたりしていなさい」


「はーい。ありがとう、お母さん」


 いつも言われているけど、私たちは顔――ようするに、容姿だって、商売道具だ。

 夜更かしとか、下手に、ケアを怠ったりすることはできない。多分、大丈夫だろうとはいえ、明日急に仕事です、撮影です、なんてことを言われるかもしれないんだから。

 そうでなくても、可愛いこと、きらきらしていることが仕事である以上、肌の手入れなんかも含めて、しっかりする必要がある。

 とはいえ、化粧品を使うとか、そこまでのことじゃなくて、保湿とか、そういうことだけど。

 そういうことは、また、蓉子さんとか、由依さんとかに聞いてみよう。今日、これからメッセージでっていう意味じゃなくて、また、事務所とか、養成所で会ったときにっていうことだけど。

 

「それで、お仕事はどうだったの?」


「とっても楽しかったよ」


 星空の下っていうロケーションも素敵だったし、夜っていう時間帯にもどきどきしたし、初めての撮影っていう意味でもわくわくだったし。

 ほかにも、いろんな感情とか気持ちとかが合わさっていて、とても簡単には言い表せない。

 

「そう。よかったわね」


「うん。できるなら、またやりたいなあ」


 とはいえ、今日みたいに時間のギリギリなところを、蓉子さんとかに手間をかけさせたくはないから、夜――星が見える時間帯っていうことなら、冬とかになるのかな。

 あるいは、お泊り会みたいなことなら、仕事とかじゃなくてっていう言い訳をさせてもらうなら、可能なのかもしれない。大分、疑惑はあるけど。

 

「しっかり温まるのよ」


「はーい」


 うちの風呂場は、たとえば、ホテルとか、旅館なんかの大浴場みたいに、広すぎるということはないと思うけど、私と母の二人で入っても問題ないくらいの広さはある。

 

「奏音ちゃんとは楽しくやれているみたいね。よかったわね」


「うん」


 でも、奏音との、それに、私のっていう意味でも、アイドル活動は始まったばっかりだから。

 まだまだ、これからだ。

 とりあえず、今回のCDがたくさん売れたり、MVがたくさん再生されると良いなあ。

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