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最終話:現在の間者たちの任務

最終章後の間者たち。

【平和の証明:推し活間者たちの日常】


 王都の一角にある隠密の間者本部は、今日も穏やかな空気に包まれていた。かつては緊張感の中で命を懸けた任務に挑んでいた彼らだが、ラグナルがカレスト公爵家に婿入りし、国も安定した今、業務内容も変わりつつある。

「なあ、最近の任務、やけにラグナル殿下とアデル妃殿下関連ばっかりじゃないか?」

 王城監視隊のガーヴェルが、コーヒーカップを片手にぼやく。隣で書類を整理していたレナが顔を上げた。

「それ言う? 今日なんて『アデル妃殿下が領地の視察に出かけるから、体調に配慮したルートを提案せよ』よ」

「それな。俺も同じ指示で、『彼女が視察中に寒くならないよう、上質なマフラーを密かに届けろ』って。これ、もう間者じゃなくて執事の仕事だろ」

 二人は顔を見合わせて苦笑した。

「だがまあ、平和ということだな」

 窓際で報告書を書いていたリーダーのロデリックが、朗らかに言う。

「平和だって? 主君が愛妻家すぎて、俺たちが雑用係になってるだけじゃないのか?」

 ガーヴェルのツッコミに、室内が笑い声で包まれる。


 その日、ラグナル殿下から特命が下った。内容は「カレスト公爵領で新設される花畑の計画にアデル妃が関心を示している。彼女の好きな花を優先して植えるよう、園芸家にそれとなく指示せよ」というものだ。

「……えっと、これ、国政には関係あるの?」

 レナが依頼内容を確認しながら首をかしげる。ロデリックは溜息をつきながらも、

「主君の大切なご夫人のご機嫌を損ねないことが、国の平和に繋がるんだろう」

「愛が重すぎて、俺たちが支えなきゃいけないってどういうことだよ」

「推し活って、こういうことなんじゃない?」

 そう言ったレナの言葉に、全員が「ああ……」と妙に納得した。


 花畑の計画が無事進行し、間者たちが密かに撤収しようとした矢先、新たな指示が届いた。

「アデル妃殿下が王都に向かわれる際、彼女が好むお菓子が途切れぬよう、道中の宿で確保せよ」

「また食べ物か……いや、これもう完全に個人の好みじゃん!」

 ガーヴェルが叫ぶも、誰も驚かない。むしろ、

「妃殿下が笑顔なら、殿下も幸せ。殿下が幸せなら国も平和。つまり、これは我々の重要任務」

 エルムが得意げに言い放つ。


 最終的に、間者たちは宿ごと買収する勢いでお菓子の手配に成功した。全てが完了した後、ガーヴェルはぽつりと呟いた。

「俺、昔はもっと命がけで働いてたんだけどな……今じゃ推し活隊だな」

「でも、幸せな推しを見守るのって、案外悪くないかもね」

 レナの言葉に、全員が黙ってうなずいた。


 数日後、アデルとラグナルが揃って王都での祝賀パーティに出席した際、間者たちは物陰からその様子を見守っていた。ラグナルはアデルの手をしっかりと取り、穏やかな笑顔を浮かべている。隣でアデルも優しく微笑み返す。

「これが、俺たちが命を懸けて守ってきた未来か……」

 ガーヴェルが感慨深げに呟くと、レナがからかうように言った。

「でも推しの幸せを見ると、自分も幸せにならない?」

「おい、照れるだろ」

 そう言いながら、ガーヴェルも目を細めて二人を見つめた。


【ラグナル殿下観察日記】

本日の殿下と妃殿下の様子:

花畑プロジェクトは順調。妃殿下のお気に入りの花が中心に植えられ、ご満悦のご様子。道中のお菓子も滞りなく提供され、殿下から感謝の言葉をいただいた。

※殿下の「僕のアデルの笑顔が見られるのは、君たちのおかげだよ」という言葉に、全員が無言で複雑な感情を抱く。

→ 推し活が国政の一部になっている現状に若干の戸惑いはあるが、「これが平和だ」と思うと納得できる。

総括:平和万歳!

推しよ永遠なれ。

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