第六話:間者会議
第六章の頃の間者たち。
【間者たちの作戦会議――いや、雑談会】
王城の片隅にある、とある控室。ここは、普段は物置として使われる場所だが、今夜ばかりは間者たちの「秘密会合」が開かれていた。
「で、結局、夏のパーティでのあの大胆告白劇、どう思うよ?」
最年長の間者、ガーヴェルが静かに問いかける。彼の問いかけに、若手の一人が即座に反応する。
「いや、あれは殿下が完全に暴走したでしょ。アデル様に事前相談すらしてなかったっぽいですよね?」
「それがね……どうやら、アデル様はアデル様で、殿下がああすることを予想していたみたいなのよ」
答えたのはレナだ。彼女はアデルの側近として潜入している間者だが、最近は「推し活」の一環として、勝手にアデルへの忠誠心も高まっている。
「予想してたのに、何も止めなかった? それもある意味怖くない?」
「まあ、アデル様にとっては『殿下がどれだけ大胆に出るか試してみた』んじゃないの? そもそも、あの人は戦略の天才だから」
レナは肩をすくめると、ため息をついた。
「でも、あの告白がきっかけで、今では堂々とお付き合いしてるでしょ? 結果オーライだったんじゃないの」
「堂々としすぎじゃないですか? 最近、廊下で普通に手をつないで歩いてるのを見たんですけど」
若手間者の一人がそう言うと、その場が一瞬静まり返る。
「……あの殿下が、手を?」
「そう、しかもすっごく自然な感じで。アデル様も、普通に微笑んでらっしゃった」
「そりゃもう公開告白までしちゃってるから、人目なんて気にしないんだろうな」
ガーヴェルが腕を組みながら唸った。
「いやいや、それにしても大胆すぎるって! 先週なんて、庭園で二人で仲良くお茶してたじゃないですか。しかもアデル様が殿下の紅茶に砂糖入れてあげてたんですよ!」
「砂糖って……そんなんで騒ぐの?」
「いや、騒ぎますよ! 殿下、今まで誰かに紅茶淹れてもらうなんて絶対に許さなかったんですよ。それがアデル様には『もう少し砂糖を足してくれる?』とか言ってて、あれは新しい世界線が開いた瞬間でしたね」
若手が熱弁する様子に、全員が呆れ半分、納得半分の表情を浮かべる。
「でもまあ、幸せそうで何よりだよな。あんな笑顔の殿下、正直、見たことないし」
ガーヴェルが静かに言うと、全員が一瞬黙り込む。その言葉には、彼らがずっと見守ってきたラグナルの孤独がにじんでいた。
「……でもさ、ここまで来たら、そろそろ公開プロポーズとかあるんじゃない?」
誰かがぽつりと言ったその言葉に、全員が目を見開いた。
「それは……まさか、殿下が? そんなことしたら、今度こそ城内がパニックになるんじゃ」
「いや、むしろ殿下ならやりかねないでしょ。次はどこで大胆なサプライズを仕掛けるか、逆に期待しちゃうよね」
レナが笑いながら言うと、他の間者たちもつられるように笑い出した。
【ラグナル殿下観察日記】
件名:作戦会議
記録者:遊撃隊・ガーヴェル
観察内容:
•庭園にてアデル様とティータイムを楽しむ殿下を目撃。アデル様が殿下の紅茶に砂糖を入れるという貴重な瞬間を観察。
•殿下の表情は終始穏やかで、アデル様に向ける視線がとても暖かかった。アデル様もリラックスしており、双方の信頼関係が強固であると判断される。
感想:
殿下の心の平穏は、アデル様によって完全に掌握されている模様。この調子だと、近いうちにさらなる進展(婚約など)が予想される。
間者としての任務を果たしつつ、推し活にも全力で挑む所存である。




